第5話 「街に戻ったら、追放した側が困っていた」
お読みいただきありがとうございます。
第5話は、
主人公が追放された街へ戻り、
“追放した側の現在”が見えてくる回です。
まだ直接的なざまぁは起きませんが、
違和感と伏線を積み上げています。
楽しんでいただければ嬉しいです。
久しぶりに見る街の門は、記憶よりも少しだけ小さく感じた。
「人が、多いですね」
リリスが、周囲を見回して小さく呟く。
森の奥とは違い、
行き交う人々の気配は雑多で、騒がしい。
だが――
「……空気が、重い」
彼女のその言葉に、俺も同意した。
門をくぐった瞬間から、
街全体に、妙な緊張感が漂っている。
露店の呼び声は控えめで、
冒険者たちの顔にも、余裕がない。
「魔物が、増えてるんだろうな」
掲示板を見れば、理由はすぐに分かった。
討伐依頼。
護衛依頼。
緊急指定の文字。
どれも、内容の割に報酬が高い。
「……鑑定士、募集中?」
掲示板の端に、見慣れた文字を見つけて、足が止まる。
鑑定士不足。
それも、複数名。
胸の奥で、小さく何かが引っかかった。
「まさか、な……」
その時。
通りの向こうで、聞き覚えのある声が響いた。
「だから言ってるだろ!
鑑定結果がおかしいんだって!」
思わず、視線を向ける。
そこにいたのは――
Sランク冒険者パーティ《紅蓮の牙》。
かつて、俺を追放した連中だった。
「魔物のランクが合わないんだよ!」
「D級のはずが、動きはC級以上だ!」
「こんなの聞いてない!」
苛立ちを隠さない声。
周囲の冒険者たちも、距離を取って様子を窺っている。
――ああ。
やっぱりか。
「……あの人たち」
リリスが、俺を見上げる。
「知り合い?」
「まあ……元仲間、だな」
それだけで、察したのだろう。
彼女は何も聞かず、ただ静かに頷いた。
《紅蓮の牙》のリーダーが、苛立った様子でギルド職員に食ってかかる。
「鑑定士を用意しろ!
まともなのをだ!」
職員は困った顔で首を振った。
「何人かいますが……
最近、どの鑑定結果も信用が……」
信用できない。
その言葉に、思わず苦笑が漏れそうになる。
――信用できないんじゃない。
世界が、もうズレ始めてるんだ。
その時、不意に。
リーダーの視線が、こちらに向いた。
ほんの一瞬。
目が、合う。
彼は俺を見て、眉をひそめた。
「……おい」
低い声。
「お前……」
俺は、足を止めなかった。
立ち止まる理由は、もうない。
だが――
背後から、焦りを含んだ声が飛んでくる。
「待て!」
それは、命令じゃない。
助けを求める声だった。
俺は、歩きながら、静かに思う。
――鑑定士を失ったのは、俺だけじゃない。
世界の“誤作動”に気づかないまま進む限り、
彼らは、これからも間違い続ける。
俺は、振り返らない。
リリスが、隣でそっと言った。
「……助けるの?」
少しだけ、考えてから答える。
「どうだろうな」
「ただ一つ、言えるのは――」
俺は、街の奥を見据えた。
「鑑定なしじゃ、もうこの世界は進めないってことだ」
背後で、《紅蓮の牙》の声が遠ざかっていく。
彼らはまだ、気づいていない。
何を失ったのか。
そして――
これから、どれだけ困ることになるのかを。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
ついに《紅蓮の牙》と再会しました。
ただし今回は、
立場が少しだけ逆転しています。
・鑑定士不足
・魔物ランクのズレ
・世界の誤作動
これらが重なった時、
何が起きるのか。
次話では、
主人公に“正式な鑑定依頼”が舞い込みます。
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