第42話 「納得できないという声」
お読みいただきありがとうございます。
第42話は、
判断でも理屈でもなく、
感情が前に出る回です。
正しさは説明できます。
ですが、
受け入れられるとは限りません。
その断絶を
感じていただければ幸いです。
騒ぎは、
朝から始まっていた。
「説明しろ!」
「誰が許可した!」
「人が死んでるんだぞ!」
管理棟の前に、
人が集まっていた。
怒鳴り声。
泣き声。
罵声。
どれも、
昨日まで
なかったものだ。
「……早いな」 フェンが、 低く言う。
「噂は、 止まりません」 セリアが、 苦い顔で答えた。 「“世界が拒否した” なんて言葉だけが、 一人歩きしています」
アリアは、
唇を噛んでいた。
「……説明は?」 俺が訊く。
「しました」 アリアは、 視線を下げたまま言う。 「抑制の限界も、 判断の経緯も」
「納得は?」
「……していません」
当然だ。
納得できる話ではない。
「出てきて!」
群衆の中から、
一人の声が上がる。
「鑑定士を出して!」
空気が、
一段、
冷えた。
「……俺か」 俺は、 小さく息を吐く。
「待って」 リリスが、 袖を掴む。 「今は……」
「分かってる」 俺は言う。 「でも、 逃げたら もっと悪い」
前に出る。
ざわめきが、
一瞬で
変わった。
「……あいつだ」
「鑑定士」
「見えてたんだろ?」
声が、
一直線に
刺さる。
「見えてたなら!」 誰かが叫ぶ。 「なんで止めなかった!」
俺は、
即答しなかった。
言葉を、
選んでいるわけじゃない。
どれも、
届かないと
分かっていた。
「止めました」
それでも、
言った。
「止めるべきだと、 言いました」
「嘘だ!」
「なら、 なんで人が死んだ!」
「正しいんだろ! あんたの鑑定は!」
正しい。
その言葉が、
胸を打つ。
「……正しい」 俺は、 認めた。 「だからこそ、 間に合わなかった」
一瞬、
静かになる。
次の瞬間。
「意味が分からない!」
「正しいなら、 守れただろ!」
「結局、 見殺しにしただけじゃないか!」
怒りが、
爆発する。
誰かが、
一歩踏み出す。
警備が、
慌てて前に出る。
「下がってください!」
「触るな!」
混乱が、
広がる。
その時――
俺の視界に、
嫌な表示が浮かんだ。
【鑑定結果】
対象:群衆
状態:臨界
備考:感情干渉による局所不安定化
……まずい。
「離れてくれ!」
俺が叫ぶ。
だが、
声は
飲み込まれた。
地面が、
わずかに
震える。
「……世界が」 リリスが、 青ざめる。 「反応しています!」
恐怖が、
怒りに混じる。
「ほら見ろ!」 誰かが叫ぶ。 「こいつが原因だ!」
もう、
収まらない。
フェンが、
俺の前に立つ。
「下がれ!」
剣は抜かない。
だが、
それでも
“境界”だった。
俺は、
一歩下がる。
それが――
敗北だと
分かっていながら。
群衆の声は、
止まらない。
誰も、
もう
正しさを聞いていなかった。
世界は、
再び
軋み始めていた。
ここまでお読みいただき、
ありがとうございます。
住民の怒りは、
間違っていません。
誰もが、
納得できる理由を
失いました。
鑑定は、
正解を示します。
ですが、
それは人の心を
守りません。
ここから先、
主人公は
「正しいことを言う存在」では
いられなくなります。
求められるのは、
答えではなく――
責任です。
それが取れるのか。
それとも、
拒まれるのか。
物語は、
さらに重く進みます。




