第39話 「取り返しがつかないと、誰が決めた」
お読みいただきありがとうございます。
第39話は、
これまで避け続けてきた
「一線」を
ついに越えてしまう回です。
大きな崩壊は、
まだ起きません。
ですが、
戻れない理由が
はっきり残ります。
その重さを
感じていただければ幸いです。
失敗は、
予告なく起きた。
「……抑制、遅延率」 ルークの声が、 明らかに硬い。 「三割を超えています」
三割。
誰も、 その数字を 軽く受け取らなかった。
「場所は?」 アリアが、 即座に訊く。
「区域D」 「居住区に 最も近い地点です」
嫌な沈黙。
「……住民は」 セリアが、 一瞬遅れて口を開く。
「避難誘導済みですが」 「完全ではありません」
完全ではない。
その言葉が、 胸に刺さる。
「行くぞ」 フェンが、 迷いなく前に出る。
俺も、 同時に 目を使った。
【鑑定結果】
対象:区域D抑制構造
状態:不完全固定
備考:本来あるべき姿との乖離拡大
拡大。
「……まずい」
それは、 これまでの “警告”とは違った。
世界が、 すでに 修正を始めている。
「止められるか」 フェンが、 俺を見る。
「止める?」 俺は、 首を振った。 「もう、 止める段階じゃない」
地面が、 わずかに沈む。
揺れは、 小さい。 だが―― 確実だった。
「……人が!」 通信が割り込む。 「倒壊ではないが、 転倒者が――」
言葉が、 途切れる。
「続けろ!」 アリアが、 叫ぶ。
「……一名」 「動きません」
時間が、 止まった。
死者―― その言葉が、 誰の頭にも浮かぶ。
「生きてる」 次の報告が、 すぐ入る。 「意識はあるが、 重傷です」
生きている。
だが―― 全員が理解した。
これは、 「怪我で済んだ」 話ではない。
世界が、 通さなかった。
俺は、 歯を噛みしめる。
「……鑑定」
視界に、 結果が浮かぶ。
【鑑定結果更新】
備考:修正継続中
警告:次回の猶予、未定
未定。
それは、 「ない」と 同義だ。
「……誰の責任だ」 フェンが、 低く言う。
「俺だ」 俺は、 即答した。
全員が、 こちらを見る。
「止めろって言った」 「基準も上げた」 「……それでも、 足りなかった」
「それは」 アリアが、 反論しかけ―― 言葉を飲み込む。
「違う」 俺は続ける。 「判断が 遅れたんじゃない」
「世界が、 先に動いた」
その事実が、 場に落ちる。
静かに。 確実に。
「……もう」 リリスが、 震える声で言う。 「“抑えれば大丈夫” じゃないんですね」
「ない」 俺は、 はっきり答えた。
「次からは」 「抑制じゃなく――」
言葉を、 切る。
「“選別”になる」
誰も、 否定しなかった。
否定できなかった。
世界は、 まだ壊れていない。
だが―― 人の側が、 先に追いつけなくなり始めていた。
ここまでお読みいただき、
ありがとうございます。
今回、
死者は出ていません。
世界も、
まだ保たれています。
ですが、
それは救いではありません。
世界は、
「通さなかった」だけです。
次も、
同じ保証はありません。
抑制は限界を迎え、
判断は
誰かを切り捨てる形に 変わっていきます。
それでもなお、
主人公は
鑑定を止めません。
それが
“正しいから”ではなく、
“見えてしまうから”。
ここから先、
選択の重さは
さらに増していきます。




