第4話 「世界樹管理者――エルフの少女が目覚める時」
お読みいただきありがとうございます。
第4話は、
リリスの“世界樹管理者”としての力が、
初めてはっきりと形になる回です。
派手な戦闘よりも、
「世界が正しい状態に戻る感覚」を重視して書きました。
楽しんでいただければ嬉しいです。
魔物を“倒した”あと。
正確には、“元に戻した”あと――
森の空気が、明らかに変わっていた。
ざわついていた魔力が静まり、
木々の葉擦れが、穏やかな音に戻る。
「……森が、落ち着いてる」
リリスが周囲を見渡し、そう呟いた。
「さっきまでは、ずっと悲鳴みたいだったのに」
悲鳴。
その表現に、胸の奥が少しだけ痛んだ。
「やっぱり……君は」
俺が言いかけた、その時。
ふらり、とリリスの身体が揺れた。
「――っ」
反射的に、俺は彼女を支える。
体温は低い。
だが、冷たいわけじゃない。
「大丈夫か?」
「……少し、疲れただけ」
そう言いながらも、彼女の額には薄く汗が滲んでいる。
――無理をさせた。
部分解除とはいえ、
世界樹管理者の権限が動いた影響は、
想像以上に大きいのだろう。
俺は、もう一度目を閉じた。
――鑑定。
【鑑定結果】
対象:リリス
状態:権限不安定
原因:管理領域の欠損
推奨処理:管理領域・仮復旧
管理領域。
つまり――森そのものだ。
「……少し、試してみる」
俺がそう言うと、
リリスは静かに頷いた。
「あなたがするなら……大丈夫」
その信頼に、背中を押される。
【修正権限】
対象:世界樹管理領域
処理:仮復旧
制限:最小
選択した瞬間。
風が、吹いた。
優しく、包み込むような風。
地面から、淡い緑の光が立ち上り、
木々の根が、静かに脈打つ。
森が――呼吸を始めた。
「……っ」
リリスが息を呑む。
彼女の足元に、光の紋様が広がり、
細い枝のような文様が、宙に浮かび上がる。
その背後に――
巨大な“影”が、重なった。
見上げるほど大きな樹。
枝は空を覆い、根は世界の奥へと伸びている。
だが、それは実体ではない。
概念そのものだ。
「これが……」
リリスの声が、少し震えた。
「私の……本来の、居場所」
【通知】
世界樹管理者リリス
権限:部分解放
能力:環境安定/自然回復/結界生成
同時に、彼女の表情が変わった。
感情が薄かった瞳に、
はっきりとした“意志”が宿る。
「……聞こえる」
「森の声が、全部」
リリスは、ゆっくりと手を伸ばす。
その指先に触れた草花が、
一斉に瑞々しく息を吹き返した。
折れていた枝が繋がり、
枯れかけていた葉が、色を取り戻す。
「すごいな……」
思わず、そう呟いていた。
彼女は俺の方を見て、首を振る。
「違う」
「これは……あなたが、道を戻しただけ」
そして、はっきりと告げた。
「私は、その管理者」
「だから――」
リリスは、一歩近づき、
まっすぐ俺を見上げる。
「あなたが世界を正すなら」
「私は、この世界を守る」
その言葉は、
契約よりも重く、
誓いよりも静かだった。
森が、応える。
風が、歌う。
世界樹管理者は、完全ではない。
だが――確かに、目を覚ました。
そして俺は確信する。
これが、始まりだ。
鑑定士と、世界樹管理者。
世界の“誤作動”を正すための、
最初の組み合わせが、今ここに揃った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
ついにリリスが部分的に覚醒しました。
ただし、まだ完全ではありません。
・なぜ世界樹の管理領域が欠損しているのか
・なぜリリスが奴隷として扱われていたのか
・世界の“誤作動”はどこから来ているのか
これらは、今後少しずつ明らかになります。
次話では舞台を街へ戻し、
主人公の過去――
そして追放した側の“現在”が動き出します。
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