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第28話 「試験運用――別の場所、同じ失敗」

お読みいただきありがとうございます。

第28話は、

再編された文書が

別の未管理領域で実際に使われた回です。

同じ手順でも、

場所が違えば結果は変わる。

その怖さを描いています。

北方第二未管理区域。

 ここは、最初から条件が違った。

 気温は低く、

 地盤は脆く、

 魔力の流れも不規則。

 それでも――

 王国の“再編文書”は、そのまま使われた。

 「境界設置、完了!」

 現地部隊の声が、

 拡声器越しに響く。

 杭は、等間隔。

 半径は、標準値。

 ――綺麗すぎる。

 「……嫌な感じがする」

 フェンが、遠隔観測用の魔導板を睨む。

 「最初から、

  決めすぎてる」

 「ええ」

 セリアも、硬い表情だ。

 「現場判断の余地が、

  ありません」

 ルークは、

 報告文と画面を見比べている。

 「文書通り……

  何も間違っていません」

 「だからこそだ」

 俺は、低く言った。

 試験運用開始。

 暫定安定化の魔力が、

 区域内に流れ込む。

 一見、問題はない。

 風は止まり、

 地面は落ち着く。

 「……成功?」

 現地の誰かが、

 安堵した声を出す。

 だが――

 「違う」

 俺は、即座に言った。

 「この静かさは、

  “止まりすぎている”」

 画面の端で、

 雪が――

 落ちない。

 舞っているはずの粉雪が、

 空中で、

 止まっている。

 「……え?」

 現地部隊の声が、

 不安に揺れる。

 次の瞬間。

 境界線の内側で、

 音が消えた。

 通信が、

 一瞬、途切れる。

 「っ、復旧!」

 画面が戻る。

 そして――

 地面が、割れた。

 亀裂は、

 境界に沿って走る。

 「うわああっ!」

 悲鳴。

 誰かが、

 転倒する。

 「境界が……

  境界が引っ張ってる!」

 その通りだった。

 固定された線が、

 世界を“引き裂いている”。

 「撤退!」

 俺は、即座に指示を飛ばす。

 「境界を壊せ!」

 現地指揮官が、

 一瞬、迷う。

 「ですが、

  手順書では――」

 「今だ!」

 「壊さないと、

  全部巻き込まれる!」

 一拍。

 その一拍が――

 致命的になりかけた。

 亀裂が、

 さらに広がる。

 地面が、

 沈む。

 「……間に合え!」

 リリスが、

 遠隔で魔力を流す。

 完全な管理じゃない。

 ただ、

 **“止めすぎたものを緩める”**だけ。

 固定された境界が、

 きしみ――

 崩れる。

 地面の動きが、

 止まった。

 通信の向こうで、

 荒い息が聞こえる。

 「……止まりました」

 現地指揮官の声。

 「人的被害は?」

 「……軽傷者、数名」

 「死者は……

  いません」

 その一言に、

 全員が、

 息を吐いた。

 静寂。

 誰も、

 すぐには喋れなかった。

 フェンが、

 先に口を開く。

 「……これが、

  “成功例”か」

 「いいえ」

 セリアは、

 きっぱり言った。

 「失敗です」

 「事故一歩手前」

 「場所が違えば、

  結果も変わる」

 ルークは、

 震える手で報告文を書き始める。

 「……文書通りにやって、

  こうなった」

 「削られた行が、

  何を守っていたか……

  よく分かりました」

 俺は、画面を見つめる。

 雪は、

 また、ゆっくり降り始めていた。

 世界は、

 壊れなかった。

 だが――

 危うく、壊されるところだった。

 「……これで、

  証明されたな」

 フェンが、低く言う。

 「“使える手順”は、

  一番危ねぇってことが」

 俺は、頷いた。

 鑑定士として、

 管理者として。

 今日ほど、

 削られた一文の重さを

 思い知った日はない。

 事故は、起きなかった。

 だが――

 もう、次は許されない。

 王国は、

 この結果をどう見るか。

 それ次第で――

 次に失うものが、

 決まる。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

今回は、

誰も指示を無視していません。

誰も悪意を持っていません。

それでも、

事故は起きかけました。

・文書通りにやった

・再現性を信じた

・現場の声は後回し

その積み重ねが、

“次は死者が出る”一歩手前まで

世界を追い込みました。

次話では、

この事故未遂の報告が

王国中枢に突きつけられます。

責任は誰にあるのか。

そして、

誰が決断するのか。

よろしければ、

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