第3話 「初戦闘――鑑定士は“敵の正体”を書き換える」
お読みいただきありがとうございます。
第3話は本作最初の戦闘回です。
いわゆる“無双バトル”ではなく、
鑑定士ならではの戦い方を意識して描いています。
剣を振らない戦闘、
そしてヒロインとの関係性が、
ここから少しずつ形になっていきます。
楽しんでいただければ幸いです。
奴隷市場を離れ、街道へ出た直後だった。
「……来る」
隣を歩いていたリリスが、足を止める。
その声は小さいが、迷いがない。
「何が?」
問い返した瞬間――
地面が、爆ぜた。
土煙の中から飛び出してきたのは、
黒い外殻を持つ巨大な魔物。
牙、爪、異様に発達した脚。
だが――
「速すぎる……!」
冒険者ランクで言えば、
この辺りに出るのはせいぜいD級。
なのに、目の前の魔物は、
明らかにC級以上の動きをしている。
「逃げ――」
そう言おうとして、俺は気づいた。
リリスが、動かない。
いや、正確には――
動けない。
「制限が、残ってる……」
彼女の身体を、淡い鎖のような光が縛っている。
――そうか。
部分解除だけじゃ、
戦闘までは想定されていなかった。
魔物が跳ぶ。
一撃で致命傷になる距離。
俺は、剣を抜かなかった。
代わりに、目を開く。
――鑑定。
【鑑定結果】
名称:森林狼(亜種)
状態:異常進化
原因:魔力循環エラー
本来の強度:Dランク
やっぱりだ。
強いんじゃない。
おかしくなっているだけだ。
俺の視界に、選択肢が浮かぶ。
【修正権限】
対象:魔力循環
処理:本来の状態に戻す
「……リリス」
俺は、彼女にだけ聞こえる声で言った。
「少しだけ、任せる」
彼女が、わずかに目を見開く。
「あなたが……世界を、正すの?」
「そのつもりだ」
次の瞬間。
空気が、震えた。
魔物の身体を走っていた黒い魔力が、
一斉に霧散する。
動きが、止まる。
巨体がよろめき、
力なく地面に崩れ落ちた。
――倒した。
いや、違う。
戻しただけだ。
「す、すごい……」
リリスが、呟く。
その瞳に、わずかな光が宿った。
【通知】
世界樹管理者リリス
権限一部回復
影響:周辺環境の安定化
同時に、森のざわめきが静まった。
魔物の気配が、消えていく。
「……戦って、いないのに」
リリスは、不思議そうに俺を見る。
「これが、あなたの戦い方?」
「そうだ」
剣を収めながら、俺は答えた。
「俺は、敵を倒さない」
「世界の、間違いを直すだけだ」
しばらく沈黙が流れ、
やがて、彼女は小さく頷いた。
「……分かった」
「なら、私は」
彼女は一歩、俺の隣に立つ。
「あなたの“正しさ”を、支える」
その言葉と同時に、
俺の中で、何かがはっきりとした。
この世界では――
間違っているのは、俺じゃない。
そして、彼女でもない。
世界そのものだ。
なら、やることは一つ。
鑑定士として、
この世界を、正しくしていくだけだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
第3話では
・鑑定が戦闘になる仕組み
・魔物が強すぎた理由
・リリスの権限が少しだけ戻る瞬間
を描きました。
「倒す」のではなく「戻す」。
それが、この主人公の戦い方です。
次話では
世界樹管理者としてのリリスが、
初めて“目に見える力”を使います。
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