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第26話 「文書化――世界が嫌がる作業」

お読みいただきありがとうございます。

第26話は、

戦闘も異変も起きない回です。

ですが、

世界とどう向き合うかを

文章で定義する、非常に重要な話になっています。

楽しんでいただければ嬉しいです。

文書化は、静かな作業だった。

 だが――

 空気は、明らかに重い。

 「……ここから書き始めます」

 セリアが、魔導紙を広げる。

 題名は、簡潔だった。

 《未管理領域・暫定安定化手順(暫定)》

 その時点で、

 リリスの眉が、わずかに動いた。

 「……世界が、

  少し、硬くなっています」

 「書いただけで?」

 ルークが、小声で言う。

 「はい」

 リリスは、はっきり頷く。

 「“決められそうだ”と、

  感じているのだと思います」

 フェンが、椅子にもたれかかる。

 「めんどくせぇな」

 「人間も、

  決められそうになると

  反発するだろ?」

 「それと同じだ」

 その例えは、

 妙に的確だった。

 「工程一」

 セリアが、読み上げる。

 「未管理領域の外周に、

  暫定境界を設置」

 「境界半径は、

  現場判断により変動可――」

 「止めて」

 俺は、即座に言った。

 セリアが、筆を止める。

 「その書き方だと、

  “変動可能”が

  例外扱いになる」

 「……確かに」

 「逆だ」

 俺は、地面を見る。

 「固定は禁止」

 「変動が前提」

 「“同一条件は存在しない”と

  明記しろ」

 セリアは、

 少し考えてから書き直す。

 《境界は、常に変動するものとする》

 《固定を試みてはならない》

 その瞬間。

 風が、

 わずかに流れた。

 「……楽になりました」

 リリスが、小さく言う。

 ルークが、目を見開く。

 「文章で……

世界が?」

 「ええ」

 俺は、頷く。

 「世界は、

“どう扱われるか”を

感じ取ってる」

 「命令されるのか、

対話されるのか」

 「それだけで、

反応が変わる」

 セリアは、

一度、ペンを置いた。

 「……厄介ですね」

 「ですが、

嘘は書いていません」

 次の項目に移る。

 「工程二」

 「安定化は、

世界樹管理者立ち会いのもと――」

 「補足しろ」

 俺が言う。

 「“代替不可”」

 「代理は禁止」

 「資格だけでは、

足りない」

 セリアは、

一瞬、口元を緩めた。

 「王国は、

嫌う表現ですね」

 「知ってる」

 「だが、

事実だ」

 書き足された一文。

 《立ち会いは形式ではなく、実在を伴うこと》

 その瞬間。

 境界線の向こうで、

草が、

かすかに揺れた。

 フェンが、

目を細める。

 「……今度は、

喜んでる感じだな」

 「ええ」

 リリスが、

微笑った。

 「“分かろうとしている”と

伝わったのだと思います」

 文書は、

一行進むたびに、

世界と交渉していた。

 便利にする文章は、

反発を招く。

 正確に書く文章は、

時間がかかる。

 「……なるほどな」

 ルークが、

ぽつりと言う。

 「これ、

手順書じゃない」

 「注意書きの塊だ」

 「その通り」

 俺は、答えた。

 「使い方じゃない」

 「使えない理由の説明だ」

 セリアが、

深く頷く。

 「王国は、

これを“成果”とは

呼ばないでしょう」

 「だろうな」

 フェンが、

肩をすくめる。

 「でも、

事故は減る」

 それが、

唯一の正解だ。

 文書化は、

進んでいく。

 遅く、

面倒で、

評価されない形で。

 だが。

 未管理領域は、

先ほどより、

確かに落ち着いていた。

 世界は、

決められることを

嫌がる。

 だが――

理解されることは、

拒まない。

 それが分かっただけでも、

今日の作業には

意味があった。

 鑑定士の仕事は、

今日も地味だ。

 だが、

世界を壊さないための

一番大事な仕事だった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

今回描いたのは、

「便利な手順」ではなく

「危険を避けるための注意書き」です。

・再現性はない

・固定してはいけない

・必ず立ち会いが必要

どれも、

制度から見れば扱いづらい内容です。

ですが、

世界は“理解されること”を拒みません。

次話では、

この文書を受け取った王国側の反応が描かれます。

果たして、どう受け止められるのか。

よろしければ、

引き続きブックマーク・評価・感想で応援していただけると励みになります。

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