表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/71

第20話 「事故未遂――正しさが引き起こしかけたもの」

お読みいただきありがとうございます。

第20話は、

未管理領域そのものではなく、

人の判断が引き起こしかけた危機を描いた回です。

正しさと焦りが重なった時、

どんな危険が生まれるのか。

その一端を感じていただければ嬉しいです。

判断は、善意から始まった。

 だからこそ、止めにくかった。

 「……この範囲なら、安全ですよね?」

 ルークが指したのは、

 暫定安定化区域の、さらに外側。

 まだ線を引いていない場所だった。

 「安定化が機能しているなら、

  試験的に――」

 「ダメだ」

 俺は、即座に遮った。

 「そこは、

  まだ触る段階じゃない」

 ルークは、驚いた顔をする。

 「ですが、

  記録上は問題が……」

 「“記録上”な」

 フェンが、低く言った。

 「実感としては、

  まだ荒れてる」

 フェンの勘は、

 ここまで何度も当たってきた。

 だが、ルークは迷っていた。

 「……王国への報告期限が、

  迫っています」

 「何も進展がないと、

  介入が強まる可能性が……」

 その焦りが、

 判断を一歩、前に進めた。

 「短時間だけです」

 「境界線を、

  半径五メートル広げるだけ」

 セリアが、鋭く言う。

 「許可は出していません」

 「ですが――」

 ルークは、唇を噛む。

 「結果を示さなければ、

  現場そのものが解体されます」

 その言葉に、

 場が静まり返った。

 脅しではない。

 現実だ。

 「……俺がやる」

 ルークが、一歩前に出た。

 「責任は、

  私が取ります」

 その瞬間。

 嫌な感覚が、

 背筋を走った。

 「待て!」

 俺が叫ぶより早く、

 ルークの足が踏み出される。

 ――境界を、越えた。

 空気が、歪んだ。

 視界が、

 わずかに反転する。

 「……っ!?」

 ルークの足元が、

 沈んだ。

 消えたわけじゃない。

 だが、

 存在が薄くなる感覚。

 「ルーク!」

 フェンが、即座に跳び出す。

 だが、近づけない。

 触れれば、

 同じ現象が起きる。

 「……世界が、

  拒否しています!」

 リリスの声が、震える。

 「ここは、

  まだ“選べない場所”です!」

 俺は、歯を食いしばる。

 鑑定は、使えない。

 修正も、できない。

 だが――

 一つだけ、できることがある。

 「……ルーク!」

 叫ぶ。

 「動くな!」

 「自分の位置を、

  変えようとするな!」

 ルークは、必死に頷いた。

 「……はい」

 声が、少し掠れている。

 「……足が、

  自分のものじゃないみたいで……」

 それでいい。

 “抵抗しない”のが、

 唯一の正解だ。

 「リリス!」

 「はい!」

 「昨日の安定化、

  ほんの少しだけ――

  緩められるか?」

 「……可能です」

 「ですが、

  反動が……」

 「構わない」

 俺は、即答した。

 「今は、

  世界に“選択肢”を返す」

 リリスが、

 静かに魔力を流す。

 均一だった流れが、

 ほんのわずか、揺らぐ。

 その瞬間。

 ルークの足元が、

 戻った。

 「……あ」

 彼は、尻餅をつく。

 呼吸が荒い。

 フェンが、すぐに引き寄せた。

 「……馬鹿野郎」

 「死ぬとこだったぞ」

 ルークは、

 震える手で地面を掴む。

 「……すみません」

 「正しいと思って……」

 その言葉を、

 誰も否定できなかった。

 正しかった。

 理屈の上では。

 セリアが、低く言う。

 「これが、

  王国方式の“事故未遂”です」

 「数字と期限が、

  現場判断を押し潰す」

 ルークは、

 深く頭を下げた。

 「……私の判断ミスです」

 「現場を、

  甘く見ていました」

 俺は、彼を見下ろす。

 怒りは、なかった。

 代わりに――

 重さがあった。

 「覚えておけ」

 俺は、静かに言った。

 「世界は、

  早く進めた奴を評価しない」

 「間違えなかった奴が、

  最後に残る」

 ルークは、

 強く頷いた。

 事故は、起きなかった。

 だが――

 起きかけた。

 それが、

 何よりの警告だった。

 未管理領域よりも、

 人の焦りの方が、

 よほど危険だ。

 鑑定士の仕事は、

 また一つ、

 重くなった。

 それでも――

 引き返す道は、もうない。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

今回は、

「事故は起きなかった」けれど、

確実に一線を越えかけた場面でした。

・数字では問題がない

・理屈としては正しい

・期限と評価が迫っている

それでも、

現場では命が失われかけた。

ルークの判断は間違いでした。

ですが、彼の善意や責任感が原因でもあります。

次話では、

この事故未遂を経て

ルークが何を選び、

どこに立つのかが描かれます。

よろしければ、

引き続きブックマーク・評価・感想で応援していただけると励みになります。

どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ