暗愚王子にランクダウン
魔法使いは、莫大な魔力を得て、世界のコトワリから弾き出されて、不老不死になってしまった存在だ。
この世界の人間は魔法は使えないが、生命を維持するために魔力を持っている。
数百年前は獣人やユニコーン、人魚やドラゴンが存在していて、人間も強い魔力を持っていた。
しかし、魔獣の体内で精製される魔石が魔道具の動力源となることが発見され、異世界から落ちてきたまれ人が、冷蔵庫などの便利な魔道具を考案するようになり、数百年の時を得て人間は魔力を失っていった。
今はもう、生命力を維持するためにしか魔力は存在していない。
ルルディの声に魔力を乗せることができるという能力は、声楽家を目指す者にとっての強みであった。
裏を返せば魔力が体から漏れていってしまうということで、病弱の原因はそれだった。
「目を覚ましてくれ、ルルディ。」
先の魔獣騒動の原因は、不明のまま。
魔力を使い切り、更に足りない分を生命力で補ったからか、保健室に運んだルルディの身体は冷たくて、シュウは生きた心地がしなかった。
「君を失うことなんて、考えられない。」
眠るルルディの手を取り、シュウは祈るように額に当てた。
「もう、愛想がつきましたの。
絶対に、こちらから婚約解消しますわ。」
保健室登校が終わったと思ったら、また逆戻りのルルディを、ネーレイスはブリザードを撒き散らしながら、保健室に見舞いに来た。
丸1日眠った後に数日の自宅療養を経て、ある程度状態が落ち着いたルルディは、やっとふっくら戻ってきた頬をまた痩けさせて苦笑いした。
「だめよ、ネーレイス。
ここは学校なんだから、誰の耳があるか。」
「人払いはドアの前でロクトがしてますわよ。
シューヴァ先生は、」
ちらっ
ネーレイスの視線を受けて、シュウは苦笑して肩を竦めた。
「僕は何も聞いてないよ。
小鳥の囀りだと思っておくからどうぞ。」
シュウは涼しい顔で事務仕事を始めている。
「あの盆暗、最近は王太子としての仕事をしないで、土曜日や日曜日に、城下町に視察ですって。
皺寄せがわたくしに来るのも時間の問題ですわ。」
「あらまあ、殿下呼びから盆暗にランクダウンしちゃってる。
視察って、ヒロインちゃんとのデートだったりして。」
「有り得ますわね、後でロクトに調べさせますわ。」
ギリギリ。
繊細なレース模様に透かし彫りされた象牙の扇子が軋む。
ネーレイスを宥めながら、ルルディは確認した。
「婚約破棄は、もう公爵閣下には伝えたの?」
「まあ、お父様に反対はされませんでしたわ。
国王陛下にも婚約解消を打診してますの。」
「あらー、じゃあ、フィーリウス王太子は今、泳がされてる状態かしらね。」
「ですわね。」
乙女ゲームのシナリオの裏側では、断罪ざまぁ返しの準備が着々とされている様子だ。
現国王陛下の男児はフィーリウスだけだが、王弟閣下のところに男児は二人いる。
スペアとしてしっかり教育されているらしいし、なんとかなりそうだ。
「魔獣騒動の原因もまだ調査中ですし、きな臭くなってきましたわ。」
「で、公爵閣下が学園に苦情をいれたんです。
未来の王妃の学園内の護衛はどうするんだって。
それで、ちょうどこの国に観光に来ていたS級冒険者を捕まえて、魔獣騒動が決着するまで、公爵家で雇ったんです。」
ガラガラ。
保健室の引き戸を開けて、ロクトが顔を覗かせる。
そろそろ、昼休みが終わる時間だ。
ロクトの後ろには、革鎧を着た彫りの深い顔立ちの冒険者が立っていた。
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本編は「雨の日には君を想う。」の人外ヒーロー、レインがでてます、気が向いたらぜひそちらもご覧ください。




