癒やしの唄
眼鏡を外して眉間を揉むシュウに気づいて、ルルディはお茶を飲む手を止めた。
昼休みの時間だが 、今日のルルディは保健室で持ってきたお弁当を食べることにしていた。
ふたり分のお弁当を作ったのは我が家のシェフだが 一応、シュウの胃袋を掴まえよう大作戦である。
「先生、また偏頭痛ですか?」
「 寝不足がね。
ついつい論文を夜中まで読んでしまって。
僕は薬が効きにくい体質だから、参ってるよ。」
髭も剃っていないのか、無精髭のシュウは苦笑いをした。
伯爵家の次男のくせに身なりに気を使っていないが、貴族向けのアパルトメントで一人暮らしをしているらしい。
しょっちゅう徹夜明けの顔をしている。
まさに、医者の不養生。
「じゃあ、私、歌いましょうか?」
「お願いできるかな、助かるよ。」
ルルディの歌には、ほんのわずかな魔力がこもっているらしく、歌い方によっては鎮静鎮痛効果があった。
たまたまルルディの鼻歌を聴いたシュウの片頭痛が治ったのが、発見のきっかけだ。
シュウの役に立てて、ルルディは嬉しくて仕方ない。
ルルディがそよ風が吹くように、そっと歌いだす。
心が安らぐ柔らかい歌声に心をゆだねるように、
シュウは目を閉じた。
「ありがとう、だいぶ楽になったよ。」
「 いえいえ。薬が効かないのも大変ですね。」
「そうなんだよ、自分で投薬実験できないのはね、なかなか。」
「あ、じゃあ私が代わりに実験台になりましょうか ?
ちょうど病弱だし。」
アピールポイントになるかしらとルルディが提案すると、シュウは真面目な顔をして否定した。
「そういう自虐的なことを言うのやめなさい。
君は適切な薬を飲むべきだよ 。
大事な体なんだからね。」
「はい、ごめんなさい。」
「ん。」
しゅんとするルルディに、気持ちだけは受け取っておくよ、とシュウはつい頭を撫でてやる。
甘やかしている自覚はあるが、慕われていると思うと悪い気はしないのだ。
気を取り直して、ルルディはシュウとの会話をつないで行こうと話しかけた。
「先生、今日は何の論文を読んでるんですか。」
「これはね、かなり昔の論文なんだ。
眉唾ものだよ。
でもそういうのも、診断する時に可能性を潰すために必要だから、見ておかないとね。」
「どんな内容ですか?」
「先祖返りした獣人の治療法さ。
先祖返りした体に、今の魔力が薄れてきた体が対応しきれなかったみたいだ。
魔力不足だよ。
昔は奴隷制度があったから、奴隷の魔力濃度の強い血液を用いて、治療する方法を考案したみたいだね。
魔力は血液に残りやすいからね。
特に心臓なんかの……あ、ごめん。
ちょっとグロテスクな話になっちゃったね。」
生き生きと論文のことを語る姿は楽しそうで、ずっと年上の男性なのに、なんだか可愛いなと感じてしまう。
こういう先生の姿はわたしだけが知ってればいいのにな、と恋する少女は思うのだった。
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本作は短編「雨の日には君を想う。」「視線の行方」と登場人物が繋がっているので、気が向いたらぜひご覧ください。




