頭の中はお花畑
この世界が乙女ゲームの世界であると仮定すると、ルルディはいわゆるモブに近い悪役令嬢と言われるタイプだ。
ゲーム開始時のヒロインと同じく高等学園の1年生である。
弟のルクスはいわゆるワンコ系ショタ後輩枠の攻略対象で、中等部3年生だ。
代々宮廷音楽家を輩出する子爵家に生まれたルクスは特にトラウマがあるわけでもなく、音楽のパラメーターさえ上げれば比較的簡単に攻略できるキャラクターである。
姉であるルルディは、ルクスルートでちょっと出てくる限りなくモブに近い悪役令嬢だ。
病弱な姉が体調を崩したから、とヒロインがデートをドタキャンされるエピソードがある。
後はヒロインと同じ歌唱コンクールに出て、 ヒロインの音楽パロメーターが低いと、ルルディが優勝するという立ち位置である。
クラスも違うから直接ヒロインと関わることはないのだ。
つまり、自由に動けるということである。
夏休みをほぼ潰すような数週間の療養を経て、ルルディは学園に復帰することになった。
心配した保護者により学校へ依頼があり、しばらくは保健室登校である。
それがとっても都合が良かった。
前世の記憶が戻る前から、推しとルルディは、知り合いだったのだ。
なんと!
既に割と仲良しだ。
包容力のある彼に、淡い初恋さえ抱いていた。
「体調はもう大丈夫?」
「はい先生。熱も下がりましたし。
ちょっと体力は落ちてますけど……」
苦笑するルルディの頭を、彼は優しくポンポンと撫でてくれた。
「無理しないでね、何かあったら言うんだよ?」
「ありがとうございます。」
お、お、推し、推しと喋ってる!
ルルディの頭の中は、大騒ぎで有頂天でお花畑だ。
優しいけど、掴みどころのない飄々とした口調。
長い前髪で目元が隠れがちな、もっさりとしたボサボサな髪型。
身だしなみに頓着がないのか、いつも白衣の下は黒のノーカラーシャツを着ている。
とどめの分厚い黒縁メガネ。
ルルディがチュートリアルで見た時の姿とは違うが、優しくて低い、下腹部にくるバリトンの声が完全一致である。
そう、間違いようがない。
推しは保健室の先生だった。
名前をシュウ・シューヴァという。
代々宮廷医を排出する伯爵家の次男で、医師免許を持つ秀才だ。
本来は宮廷医として働いているのだが、王太子が学園に通う間だけ、念のための保険医として学園に勤めることになったのだ。
病弱なルルディは保健室の常連であった。
まずは、なぜ先生がヒロインを襲ったのか、その原因を突き止めなければいけない。
ある程度の信頼関係を築いて、聞き出すのだ!
あわよくば、もっと仲良くなりたいという気持ちも否定できない。
無事にチュートリアルを乗り越えて推しを助けることができた暁には、恋人に立候補しようと思う。
ーーーいや、 仲良くなって事情を聞き出すには、こ、恋人になるのが一番ではないだろうか !
思い立ったが吉日だ。
いつも保健室に来るルルディに優しいし、脈はある!
「シュウ先生、好きです!付き合ってください!」
「……はい?
可哀想に、また熱がでてきたのかな?」
「違います、本気なんです。
前からずっと素敵だなって思ってました。」
真剣な表情をするルルディをじっと見て、けれど、シュウはふ、と笑った。
嫌な笑い方ではない。
わがままな子供を宥めるような優しい笑みだった。
「はいはい、ありがとう。
でも先生、年下は守備範囲外です。
そもそも生徒との恋愛はね、御法度なの。」
ぽふぽふとルルディの頭を撫でるシュウに柔らかいけれど強固な壁を感じて、ルルディはとりあえずの戦略的撤退を選択した。
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本作は短編「雨の日には君を想う。」「視線の行方」と登場人物が繋がっているので、気が向いたらぜひご覧ください。




