例え海の底でも
真夜中。
人気のない海辺で、ルルディは座り込んだ踝までを海水に漬けながら、ぼんやりと月を見上げていた。
今夜は三日月で、あたりは薄暗い。
下半身のウロコの数は減らず、月の光に淡く輝いている。
「そろそろ戻らなくちゃ……」
寄せては返す波を脚に感じながら、ゆっくりと立ち上がる。
すると、ぼんやりしていて気づかなかった為か、唐突に、背後からの砂を踏みしめる足音がルルディの耳を打った。
「捕まえた。」
暗闇から伸びてきた腕に、手首を強く掴まれる。
「……君を探してる間、気が狂いそうだったよ。」
「せ、先生………」
腰が砕けてしまいそうな、耳元で囁かれる、甘いバリトンの声。
冴えざえとした青白い月の光に照らされて、無表情にそこに立っていたのは、シュウであった。
「どうして……?」
「わからない?」
呆然とするルルディの手首に込める力を、シュウは強めた。
絶対に逃すまいと、きつく掴む。
「大人を煽る悪い子だね、君は。」
優しくて甘すぎる蜂蜜を、耳に流し込まれるような錯覚をルルディは覚えた。
甘ったるいのに、どこか仄暗く薄闇に溶ける声。
ルルディが焦がれたそれは、かつて見た夢を紡ぐ。
「君が好きだから、ここまで追いかけて来たんだよ。」
これは夢の続きだろうか。
もし現実なら、彼を救う為にまた、逃げなくてはいけない。
胸が張り裂けそうに痛む。
「でも先生、わたしのこと好きだなんて、聞いてない……」
「君に好かれたくなければ、わざわざ外見を整える為に時間を使ったりしない。
君が卒業するまで、と。
我慢して我慢して、結果が逃げられましたじゃ、キレたくもなる。
……もう遠慮しないから。」
シュウは、動揺するルルディを引き寄せて、抱きしめる。
大人としての、取り繕った言葉はいらない。
本音をぶつけなければ、ルルディが逃げていくと、シュウは気づいていた。
「君が好きじゃなきゃ、殺人鬼にならないだろ?」
ルルディは、息を飲んだ。
なぜ、なぜ彼がそれを知っている?
「どうして、それを。」
「君が人魚になったのを今みて、納得したよ。
確かに、僕ならそうする。」
ルルディを探すために、シュウは神託を受けられる、国を逃げ出した元司教に会った。
その時、警告のように、シュウが殺人鬼になる未来は告げられていた。
ならば、少し考えたらわかることだ。
ルルディが、シュウから逃げ出した理由。
「ルルディ、君が恐れていたのは、僕が殺人をおかすことだね?」
ルルディを追い詰めるように、シュウは笑う。
腹の底から湧き上がるのは、怒りか、それとも悲しみか。
腕の中のルルディを、逃さないように、きつく抱きしめる。
「好きだ、ルルディ。
例え海底でも追いかけて分からせてやる……!」
激情を押し殺すような低い唸り声が耳を掠めた。
噛みつくような深い口づけ。
ルルディの胸はキュンとした。
初めての口付けはあの時のチョコレートより、甘くて。
好きだと言う言葉が、激しい中に優しさを残した唇の柔らかさから伝わってきて、嬉しくて。
嬉しくて。
ルルディは、知らず知らず、嬉し涙をこぼす。
ぽろぽろ。
涙は真珠の輝きを放って、こぼれ落ちていった。
間違えて書きかけを投稿していたので、再投稿です。
よろしければ★を頂けると嬉しいです。
本作は「雨の日には君を想う。」「視線の行方」と登場人物が繋がっているので、気が向いたらぜひご覧ください。




