幕間 悪役令嬢の断罪劇
「ネーレイス!貴様との婚約は破棄する!」
卒業パーティーに、在校生だが、ゆくゆくの王太子妃として参加していたネーレイスへ。
呼ばれてもいないのに壇上へ上がり、腕にはヒロインを引っ付けて婚約破棄を叫ぶのは、フィーリウス王太子殿下。
「眠いですわ。」
「寝ちゃだめですよ、お嬢様。」
「わかってるわよ、そんなこと。
誰のせいだと思って……」
「お嬢様、ここは抑えてください。」
アルカイックスマイルを保ちながら、お気に入りの象牙の扇子で口元を隠し、ネーレイスは執事に囁く。
フィーリウスは、やれネーレイスがヒロインを虐めた、階段から突き落とした、だの叫んでいるが、ネーレイスは聞き流す。
もちろん冤罪だが、もはやそういうことをグダグダ言う段階ではないのだ。
フィーリウスの侍従の姿がない。
然るべき所へ、報告に行ったのであろう。
ネーレイスが王太子妃になる道は、閉ざされた。
同時に、フィーリウスが国王になる道も、閉ざされた。
そういうことだ。
「仕方ないから、貴方で妥協してあげますわ、ロクト。」
「光栄です、お嬢様。」
「だから、わたくしに来た次の縁談相手を闇討ちするのはもう、おやめなさいな。」
「……さぁ、 何のことでしょう?」
これ以上茶番に付き合うのも時間の無駄なので、ネーレイスはロクトのエスコートで退場することにした。
壇上ではヒロインを虐めたことは許しがたいが、反省するなら側妃にうんぬんとフィーリウスが言っている。
もちろん側妃などならないが、わざわざ反応する義理もなくなった。
「……何もかも、もう遅いんですよ、フィーリウス殿下。」
ロクトはぼそっと呟き、うやうやしくネーレイスの手をとって、口付けた。
ネーレイスと婚約を解消したフィーリウスは、すぐに今までのネーレイスの優秀さを思い知ることになった。
目先のことしかやらないフィーリウスの尻拭いを、涼しい顔でこなしていたのは、元婚約者だった。
「なぜ!なぜこんなに書類があるのだ!」
「いなくなったネーレイス様の代わりには、文官を増やしましたよ。
これは単純に、殿下の書類処理が遅いだけです。」
仕事はたまる一方で、文官や宰相息子が冷たくなってきて、フィーリウスは逆ギレしてしまう。
イライラして癒やされようとヒロインへ会いに行ったら、ヒロインと顔の良い近衛兵との逢引を目撃。
泣き喚き、寂しかった、フィーリウスが寂しくさせたせい!
と、すがりつくヒロインを見て、フィーリウスは今更のように気づいた。
嫉妬していない。
フィーリウスは、ヒロインの浮気に失望したが、嫉妬はしなかった。
いつもいつも、腸が煮えくり返るような嫉妬を覚えていたのは。
必ず同じ執事を引き連れていた、美しいネーレイスのアルカイックスマイルが脳裏を掠める。
いつから、あの目が笑っていない微笑みを向けられるようになったか、フィーリウスは思い出せない。
膝から力が抜けて、彼は、へなへなと床に崩れ落ちる。
そして。
予定調和のように、王太子の位を降ろされた。
寄りを戻そうにも、ネーレイスは学園を自主退学し、ロクトと既成事実を作って結婚していた。
フィーリウスが、ネーレイスに婚約破棄を叫んでひと月後のことだ。
既成事実のタイミングの計算が合わないが、まあ、そういうことなのだ。
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本作は「雨の日には君を想う。」「視線の行方」と登場人物が繋がっているので、気が向いたらぜひご覧ください。




