005 美少女と荷物持ち
ギルドを出たその足で、俺はダンジョンの入口に来ていた。
来たくて来たのではなく、半ば強引に連行されてやってきたのだ。
「さあ、行きますわよ! 迅さんがライセンスを取得したことですし、早速パーティーの連携確認ですわ!」
セラが張り切った声を上げた。
ぴちぴちの強化スーツに身を包み、腰には日本刀を差している。
気合い十分といった様子だ。
何食わぬ顔で俺のことを「迅さん」と呼んでいるが、指摘しないでおこう。
「迅くん、ちゃんとカメラ回してよね? あたしの活躍、撮り逃したら承知しないし!」
マリンが俺に小型カメラを手渡してくる。
彼女は今日もフリルのついた軽装鎧だ。
防御力よりも見た目を重視したアイドル仕様である。
当然のように、周囲にはドローンカメラが飛んでいる。
そのうえで俺に撮影させるのだから理解に苦しむ。
「……ん。ボクは、データの収集ができればいい」
ルナは眠そうに目を擦りながら、俺の背中に隠れるように立っていた。
ダボダボのパーカー姿は、これから冒険に行くとは思えないほど無防備だ。
もっとも、俺もボロボロのジャージ姿なので人のことは言えない。
「……そもそも、どうして俺がついていかなきゃならないんだ?」
俺はため息をついた。
「水臭いこと言わないでくださいな。私たちはもう仲間でしょう? 一緒に食卓を囲んだ仲ではありませんか」
セラが心外だと言わんばかりに眉をひそめる。
マリンとルナも「そうだ、そうだ」と頷く。
「どうやら俺とお前たちの間には、大きな認識の差があるようだ。だいたい、俺は明日から高校生になるんだ。入学式の準備を――」
「おい、邪魔だぞ。ダンジョンゲートの前で喋るんじゃねぇ!」
他の冒険者PTが俺たちの間を通っていく。
彼らは目の前にある黒い楕円形のワープホールに入っていった。
そのワープホールこそが、ダンジョンゲートだ。
「ほら、邪魔だってさ! 私たちも早く入ろうよ!」
「そうですわ! 皆様、私に続きなさい!」
セラが抜刀してゲートに飛び込んでいく。
マリンもそれに続いた。
「やれやれ、勝手な奴らだ」
「でも、一緒にいて飽きない。迅、私たちも行こう」
「そうだな」
俺はため息をついたあと、ルナと一緒にゲートをくぐった。
◇
「成敗ですわ!」
「セラ、ナイスゥ! その調子ー!」
ダンジョンでは、セラが単独で戦っていた。
見事な太刀筋で魔物を一刀両断にしていく。
マリンは声援を飛ばしつつ、カメラに向かってアピールしていた。
「マリンとルナは戦わないのか?」
「ん、ボクは戦闘の気分じゃない」
ルナが気怠げな調子で答えた。
「私は戦っているよ! セラに支援魔法をじゃんじゃんかけてる!」
「魔法……?」
何を言っているのだろう。
そんなものがこの世にあるわけがない。
聞かなかったことにしよう。
「あ、そうだ! 迅くん、知ってる? あたしとセラちゃんって、ここから近い聖華女子学院の生徒なんだよ」
「聖華女子学院……?」
「名門のお嬢様学校! 偏差値だけじゃなくて、家柄も高くないと入れない由緒正しき女子校! どう? 見直した?」
「セラは俺でも知っている名家だが、マリンもどこぞの令嬢だったのか」
「ふふん、まぁね?」
「ちなみにですが、私たちは二年生ですの。迅さんよりも一つ年上ということになりますわね」
戦いを終えたセラが会話に加わった。
「へぇ、年上だったのか。てっきり年下だと思っていた」
「……ボクは、迅と同い年。だから、明日は入学式」
ルナがボソリと呟いた。
「きっと俺なんかには入れない賢い学校に行くんだろうな」
「そうでもない。誰でも入れる馬鹿学校にした」
「意外だな。どうしてそんなところに?」
「マリンたちの学校と近かったから」
昨日の晩メシで知ったが、ルナは超が付くレベルの天才らしい。
俺の魔力を測定しようとして壊れた機械も、彼女が自分で作ったものだ。
一人だけ「魔力ガー」とよく言っているし、本当に賢いのだろう。
「ここから先は敵も強くなりますから、気を引き締めて参りましょう。ひとまずここで陣形などを決めましょうか」
セラが指揮を執る。
「いつもどおりでいいじゃん! セラが突っ込んで、私が支援! ヤバくなったらルナの魔法をぶっ放しながら逃走!」
また魔法などと言っている。
驚いたことに、ルナとセラは気にしていない。
(もしかして、本当に魔法が実在するのか?)
そんなことを思っていると、セラが言った。
「では、迅さんは私の隣で一緒に戦いましょう! 互いに武の頂を極めん者として――」
「いや、俺は荷物持ちでいい」
俺はセラの言葉を遮った。
「荷物持ち……ですか?」
「戦うのは面倒だし、服が汚れるのも嫌だ。大人しく魔石の収集係をやるよ」
俺が戦闘を避けるのは、マリンが言う「魔法」を見たいからだ。
それに、後ろで控えているほうがいざという時に助けやすい。
「……分かりましたわ。その代わり、いざという時は頼りにしていますからね」
セラは不満げながらも承諾してくれた。
◇
地下十五層。
湿気の多いジメジメとしたエリアだ。
壁や床が粘液で濡れており、歩くたびに不快な音がする。
「うぅ……気持ち悪い場所ね。早く抜けて撮影スポットに行きたいんだけど」
マリンが露骨に嫌そうな顔をした。
アイドルとしては、映えない背景はNGらしい。
周囲のドローンも心なしか俯いているように見えた。
「警戒してください。この辺りはスライム系の魔物が多いと聞きます」
セラが刀に手をかけ、慎重に歩を進める。
その時だ。
天井からボタボタと何かが降ってきた。
「きゃあっ!」
マリンの悲鳴が響く。
見上げると、半透明のゼリー状の物体が大量に張り付いていた。
スライムだ。
それもただのスライムではない。
触手のように長い突起をうねらせている。
そのうちの一体が降ってきた。
「テンタクル・スライムですわ! 迎撃します!」
セラがすかさず斬撃を放つ。
しかし、その攻撃はスライムに通用しなかった。
刃はスライムを切ることなく、柔らかい体にぶにょんと弾かれたのだ。
「だったら、あたしの魔法で!」
マリンがどこからともなく杖を取り出した。
少なくとも先ほどまでは手ぶらだったはずが、これも魔法の力なのだろうか。
(なんにしても、ついに魔法が見られるぞ!)
俺はワクワクしながら戦いを見守る。
「いくよー!」
マリンが杖を構える。
しかし、先手を打ったのは敵だった。
新手のテンタクル・スライムが降ってきたのだ。
「ひゃっ!? な、なにこれ! ぬるぬるして……!」
スライムの触手がマリンの全身に絡みつく。
さらには彼女の鎧の内側にも侵入する。
「いやぁん!」
マリンが嬌声を漏らす。
頬が火照っていて、苦しいというより気持ちよさそうだ。
「マリンさんから離れなさい!」
セラが助けに入ろうとする。
――が、彼女も別のスライムに絡め取られた。
「くっ……! 刀が……!」
スライムに締めつけられて、セラの手から刀が落ちる。
触手はさらに攻勢を強め、セラの強化スーツを這い回っている。
「ひゃうっ! やん! やめなさい!」
セラが怒るが、それに従うスライムではない。
「……解析完了。敵の弱点は体内の核。それを壊せば倒せる」
ルナがタブレット端末を眺めながら言う。
そんな彼女にも、当然ながらスライムの魔の手が及んだ。
「んっ……服の中に……入ってくる……」
ルナが不快そうに身をよじる。
だが、その表情は次第に恍惚としたものへと変わっていく。
(これはこれは……)
三人の美少女が触手まみれになって悶えている。
なんとも扇情的な光景だ。
「これなら動画の再生数も伸びそうだ」
俺は小型カメラでマリンたちを撮影する。
命の危険がなさそうなので、敵の討伐より撮れ高を重視した。
年頃の男としても、ここはできる限り助けたくないところだ。
「ちょ、ちょっと迅くん! 見てないで助けてよぉ!」
マリンが涙目で叫ぶ。
スライムの触手が彼女の太ももを這い上がり、スカートの中へと侵入していく。
「朝比奈さん! お願いします!」
セラも必死の形相だ。
誇り高き剣士が、粘液に濡れて辱められている。
「……迅、ヘルプ」
ルナが力なく手を伸ばしてきた。
(もう少し拝んでいたいが……何があるかわからないし、終わらせるか)
俺は助太刀に入り、スライムを皆殺しにした。
ルナは「核が弱点」と言っていたが、デコピンでも普通に死んだ。
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