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どうやら俺は最強らしい ~都会の魔物が弱すぎて、美少女たちから頼られるようになりました~  作者: 絢乃


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004 Fランク冒険者の実力測定

 翌日。

 俺は冒険者ギルドの窓口に来ていた。


 冒険者ギルドとは、冒険者に関する全般的な手続きをするための場所だ。

 パーティーの募集などもここで行うのが一般的らしい。

 こういう場所があることを、俺は昨日まで知らなかった。


(昨日は散々な目に遭ったな……)


 自宅に押しかけてきた三人の美少女たち。

 結局、彼女たちとは食卓を囲んで竜肉のステーキを食う羽目になった。

 あいつらは「毒見ですわ」「サンプル採取」「食レポだし!」などと勝手な理屈を並べ、俺の大事な食料をバクバクと食い荒らしたのだ。

 美味い美味いと絶賛されたので悪い気はしないが、結構な量を奪われたのは痛い。


 しかし、それも過去の話だ。

 可愛くも賑やかな美少女たちは、それぞれの自宅に帰っていった。

 同年代の女に囲まれるという貴重な経験を終えて、平穏が戻ってきたのだ。

 ――と、安心していたのだが。


「なんでまた居るんだよ……」


 俺は振り返り、ため息をついた。

 当然のような顔で、セラ、ルナ、マリンの三人が並んでいる。


「無論、監視ですわ! 朝比奈迅、あなたは信用できませんから!」


 セラが腕を組んで言い放つ。

 昨日と違って白を基調とした強化スーツを着ている。

 ボディラインがくっきりと出ているが、胸のサイズがあと一つ足りない。

 まぁまぁOKといったところか。


「やれやれ、とんだ言い草だな」


 昨日、彼女たちと話していてあることが発覚した。

 俺は正式な冒険者ライセンスを持っていなかったのだ。

 そもそも、ライセンスが必要だと知らなかった。


 結果、セラに「無免許で活動するなんて非常識ですわ!」と説教された。

 だから、今日はこうして冒険者ライセンスを取得しに来たわけだ。

 彼女が言う「監視」とは、それを見届けることだろう。

 もっとも、それは建前で、その後もつきまとわれる予感がしていた。


(女に囲まれて悪い気はしないし、まぁいいか)


 俺はギルド内を見回した。

 広々としたロビーは多くの冒険者で賑わっている。


「書類の確認が済みました。奥の訓練場へお通りください」


 受付嬢の指示に従い、俺は訓練場に向かう。


(やっぱりついてくるんだ……)


 案の定、マリンたちは俺の後をついてきた。


 ◇


 訓練場の待機室で、自分の番が来るのを待つ。

 下調べせずに来たので、これから何が起きるかはわからない。

 待機室は受験者専用なので、マリンたちの姿はなかった。


「次、朝比奈迅。入れ」


 野太い声に呼ばれる。

 訓練場に入ると、一人の教官が腕組みをして立っていた。


 スキンヘッドにサングラスと何だか怖い。

 しかも、スーツの上からでも分かる分厚い筋肉が目立っている。

 とてつもない威圧感を放つ巨漢だ。


「俺は教官の黒木(くろき)だ。下の名前はゲンだが、気軽に『ゲンちゃん』などと呼んだら殺すからな」


 巨漢の教官こと黒木が名乗る。

 殺されたくないので、何も言わずに頷いておいた。


「お前が噂の新人か。見た目はひょろいが……まあいい」


 黒木教官は、サングラス越しに俺を値踏みするように見た。

 その背後には、同じように俺を見る三人の姿がある。

 もちろんマリン、セラ、ルナのことだ。

 さも当然のようにいるし、保護者同伴のようで恥ずかしい。


「まずはステータス測定だ。この水晶に手を触れろ」


 教官が指差したのは、台座に置かれた巨大な水晶玉だ。

 魔力を流すことで、身体能力や魔力値を数値化する魔道具らしい。

 昨夜、ルナが持ってきた機械の上位版のようなものか。


 ところで、魔力って何だ?

 ルナも「魔力ガー」と言っていたが、地元では聞き覚えがなかった。

 質問しようか悩んだものの、大して気にならなかったので黙っておく。


「へいへい。これでいいっすか?」


 俺はあくびをしながら、水晶に右手を乗せた。

 その瞬間、水晶が凄まじい光を放ち始めた。


「ん、すごい魔力。やっぱり、迅、面白い」


 ルナが目を見開く。

 マリンは「わお!」と驚き、セラは絶句していた。

 その間も光は強まっていき――。


「ぬおっ!?」


 教官が思わず顔を背けた瞬間、水晶が粉々に砕け散った。

 パリーンッという甲高い音が響く。


「…………」


 訓練場に沈黙が流れる。

 俺は手についた粉を払い落とした。


「あの……これ、弁償ですか?」


 俺が恐る恐る尋ねると、黒木教官は引きつった顔で首を横に振った。


「い、いや……故障だな。じ、実は最近、調子が悪かったんだ。こちらの落ち度だから気にすることはない」


 教官は冷や汗を拭きながら、新しい記録用紙を取り出した。


「そうっすか」


 俺はホッと一安心。

 弁償ともなればいくらかかるかわからない。

 この手の謎めいた機械は高いと相場が決まっているので不安だった。


「測定不能だが、まあいい。結果がどうであれ、どうせFランクからのスタートであることには変わりはない。ということで、次は実技試験を行う」


「実技試験っすか」


「実際に教官と戦って実力を測定するものですわ!」


 セラが教えてくれた。


「今回は俺が直々に相手をしてやる。構えろ、朝比奈!」


 黒木教官は上着を脱ぎ捨て、ファイティングポーズを取る。

 凄まじい筋肉の鎧があらわになり、マリンたちが「おお!」と歓声を上げた。


「老いたとはいえ、俺は元Sランクの冒険者だ。お前のような若造は知らないと思うが、かつては『伝説の武闘家』と呼ばれたこともある。死にたくなければ本気で――」


 俺は教官の話を遮り、スッと右手を挙げた。


「早く終わらせていいっすか? スーパーの特売に行きたいんで」


「俺も舐められたものだ。いいだろう、かかってこい!」


「では……」


 俺は中指と親指を重ね、デコピンの構えを取った。


「デコピンだと?」


「魔物を倒せる程度の実力を証明するだけなら、これで十分なので」


「朝比奈、大人を侮辱するのもいい加減にしろォ!」


 激昂した教官が、地面を蹴って突っ込んでくる。

 前傾姿勢で、さながらラグビーやアメフトの選手のようだ。

 正確な年齢は不明だが、それなりに年を食っているにしては速い。


 だが、所詮は人間である。

 かつてSランクだった男でも、四足獣よりは遅い。

 俺にはスローモーションに見えた。


「いきますよ、黒木教官」


 俺は迫りくる教官にデコピンをお見舞いした。

 アッパー気味に右腕を振り、突き上げるようにして教官の額を指で弾く。


「ぐぼぉっ!?」


 教官が後ろに回転しながら吹っ飛んでいく。


「「「きゃあ!」」」


 マリンたちが慌てて教官を避ける。


 ドガァン!


 結果、教官は訓練場の壁に激突した。

 体が大の字にめり込み、白目を剥いて気絶している。


「……あ、やりすぎた」


 教官が元S級だったので、つい力を込めすぎた。

 これはロートルであることを失念していた俺のミスだ。


 とはいえ、東京の冒険者って弱すぎないか?

 何だか俺でもSランクになれそうな気がしてきた。

 口に出すと(はばか)られるので黙っておこう。


「「「……………………」」」


 しんと静まり返る訓練場。

 マリンたち三人は、それぞれ異なる反応を見せた。


「やはり貴方は……私の見込んだ通り、武の神髄に達しているようですわ……!」


 セラが恍惚とした表情で頬を染めている。

 少し前まで「監視」とか言っていた人間のセリフとは思えない。

 凄まじい手のひら返しだ。


「……今の衝撃波、計算と合わない。空気抵抗係数が異常。……ゾクゾクする」


 ルナがブツブツと呟きながら、俺を熱い視線で見つめている。

 手元では愛用のタブレット端末を光の速さで操作していた。


「やっば! 今の撮れた!? 教官ワンパンとか絶対バズるし!」


 マリンだけは相変わらずだ。

 昨日、晩メシの最中に撮影はNGだと伝えたのだが……。


「朝比奈……迅……」


 教官が意識を取り戻した。

 サングラスが割れ、つぶらな瞳が露出している。

 この短時間で気絶から回復するあたり、さすがは元Sランクだ。

 東京の底力を感じたような気がした。


「……ご、合格だ」


 教官は震える声で告げた。


「ただし、ランクは規定通りFからだ。例外はない。文句はないな?」


「はい。俺は別に何でもいいんで」


 東京の冒険者はランクにこだわるらしいが、俺は違う。

 誰に咎められることなく冒険者として活動できればそれでいい。

 大事なのは地位や名誉ではなくお金だ。


 こうして俺は、晴れて正式な「Fランク冒険者」となった。

 受付でライセンスカードを受け取り、大手を振ってギルドを出る。

 頭の中は、億万長者になった時のことでいっぱいだった。


 故郷のみんな……東京は最高だぜ!

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