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どうやら俺は最強らしい ~都会の魔物が弱すぎて、美少女たちから頼られるようになりました~  作者: 絢乃


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003 美少女たちの襲来

 アビス・ドラゴンを解体して持ち帰った次の日――。


「一、十、百、千、万……」


 自宅である築四十年のボロアパートの一室で、俺は通帳を眺めてニヤけていた。

 記載された数字の桁が明らかにおかしいが、間違っていない。


「五百万……!」


 それが、アビス・ドラゴンの魔石の換金結果だ。

 受付のお姉さんが白目を剥いて震えていたのを思い出す。


(まさか本当にこれほどの大金が手に入るとは……)


 たしかにアビス・ドラゴンは、他の魔物に比べると強かった。

 ネットで「東京で最強クラス」などと恐れられているだけのことはある。


 だが、それは東京に限った話だ。

 俺の地元なら、村長から感謝の言葉と数千円をもらって終わりだ。

 やはり東京はバグっている。最高だ。


 ただ、一つだけ懸念があるとすれば――。


(解体してる時、マリンにガン見されてたんだよな……)


 そう、アイドル冒険者兼配信者の早乙女マリンだ。

 俺が竜肉を切り分けている最中も、彼女はカメラを回し続けていた。

 呆然としているようで話しかけてはこなかったが、俺の姿が世界に晒されたのは事実だ。

 ネットの反応は怖くて確認していない。


「ま、深く考えても仕方ないか」


 俺は通帳を閉じ、意識を目の前のちゃぶ台に向けた。

 そこには、昨日持ち帰った戦利品が並んでいる。

 山盛りの竜肉ステーキだ。


「いただきます!」


 俺は箸を伸ばし、分厚い肉を頬張った。


 美味い。

 口の中で脂が溶け出し、濃厚な旨味が広がる。

 地元の祭り以外では滅多に食べられない極上の味だ。

 これが半年分もあるのだから、東京での生活も安泰だろう。


 そう高を括って、二枚目のステーキに手を伸ばす。

 その時だった。


 ドンドンドンドン!


 玄関のドアが激しく叩かれた。

 借金の取り立てのような勢いだ。

 俺は箸を止めて眉をひそめた。


「……誰だ? 新聞の勧誘なら間に合っているぞ」


 俺は渋々立ち上がり、玄関へ向かった。

 地元では起こりえない出来事に、妙な緊張感が走る。


「はいはい、何です――」


 チェーンをかけたまま少しドアを開けて、俺は言葉を失った。

 狭いアパートの廊下に、場違いな美少女がひしめき合っていたからだ。

 それも一人でなく三人もいる。


 一人は、何かと縁のある早乙女マリン。

 今日もフリルのついた鎧を着て、手にスマホを持っている。


「あ! いた! 迅くん、見つけたし! 昨日はよくも置いてってくれたわね!」


 マリンが俺を見るなり声を上げた。

 当たり前のように名前を呼んでくるが、名乗った覚えはない。

 おそらく換金所でのやり取りを盗み見られていたのだろう。


 待てよ。

 名前はまだしも、どうしてこの場所を知っているんだ?

もしかして、尾行されていたのか?

 そう考えると、目の前の美少女が不気味に感じられた。


「置いていったも何も、俺たちはパーティーじゃないだろ。田舎者の俺には頭がパンクしそうな事態なんだが……とりあえず、後ろの二人は?」


 俺はマリンの後ろにいる美少女たちに目を向けた。


 一人は、腰まである艶やかな黒髪を姫カットにしたクール系だ。

 凛とした表情に、切れ長の目。

 仕立ての良さそうな制服を着ており、腰には日本刀を差している。

 育ちの良さと剣呑な雰囲気が同居した、武家の令嬢といった風情だ。

 胸の大きさは……悪くないが物足りない。今後の発育に期待したい。


 もう一人は、銀色の髪をショートボブにした小柄な少女。

 頭には大きなヘッドホン、体にはサイズの合っていないダボダボのパーカーを着ている。

 目の下に薄いクマがあり、なんだか眠そうな目をしている。

 手にはタブレット端末を握りしめていた。

 こちらの胸は……ダメだ。夢も希望もない。まな板だ。


「貴方が動画の男、朝比奈迅ですね? 私は神崎(かんざき)セラ。真偽を確かめに参りました」


 黒髪の女が前に出た。


(神崎セラ……聞き覚えのある名だな)


 たしか、剣術で有名な家の令嬢だったはずだ。

 東京のダンジョンについて調べている時に、ネットで見た気がする。


「真偽って、何の?」


「とぼけないでください。あのような巨大なドラゴンを素手で倒すなど、物理的にあり得ません。あれは詐欺か、あるいは貴方が魔王の類であるかのどちらかです」


 セラは真っ直ぐな瞳で俺を睨みつけた。

 どうやら俺を疑っているらしい。

 なんだか面倒なことになりそうだ。


「詐欺でも魔王でもない。俺はただの一般市民だ。帰ってくれ」


 俺はドアを閉めようとした。

 だが、その隙間からパーカーの少女が滑り込んできた。

 猫のような身軽さだ。


「……ボクは星野(ほしの)ルナ。データ、取らせて」


 ルナは俺の顔を至近距離で覗き込み、タブレットをかざしてきた。


「あの映像、興味深い。身体強化の数値が計測不能だった。キミ、未知のサンプル」


「ちょっ! おい、勝手に入るな!」


 俺はルナを止めようとする。

 その隙を突いて、マリンがドアをこじ開けてきた。


「ちょっ! 抜け駆けはずるい! あたしが最初に見つけたんだから!」


「お待ちなさい! 私が先ですわ! まずはその実力、この剣で確かめさせてもらいます!」


 セラも強引に割り込んでくる。


「俺は静かに過ごしたいんだ。配信者やら何やらはお断りだ!」


 必死に追い出そうとする俺と、それに抗う美少女たち。

 狭い玄関がパニック状態になる。


「こうなったら強引に確かめさせてもらう! 朝比奈迅、覚悟しなさい!」


 セラが痺れを切らしたように、腰の日本刀を抜き放った。


(おいおい、狭い廊下で抜刀するとは、とんでもないお嬢様だな)


 などと思っている間にも、鋭い刃が俺の顔面へと迫る。

 本気で斬るつもりのようなので、俺もガードさせてもらうことにした。

 手に持っていたコンビニの割り箸で刃を挟む。


「やれやれ、危ないな……」


「……は?」


 セラが目を見開き、凍りついたように固まる。

 全力の一撃を、ただの割り箸で受け止められたのだ。

 常識的に考えれば混乱するのも無理はない。


「少しは落ち着いたか? 危ないから真剣を振り回すなよ」


 俺は箸を離し、何食わぬ顔で注意した。


「そ、そんな……私の剣技が、割り箸如きに……!?」


 セラはショックでふらついている。


 一方、ルナは不審な動きを始めた。

 どこからともなく奇妙な機械を取り出して俺に向ける。

 その機械にタブレットを接続し、何やら操作をしている。


「……魔力測定、開始」


 ブォンという低い音が鳴り、機械が光り輝く。

 俺に関する謎の数値を測っているようだ。


「……すごい。針が振り切れてる。計測不能……え?」


 ボンッ!


 突然、ルナの手元の機械が爆発して黒煙を上げた。

 許容量を超える負荷がかかったらしい。


「あう……壊れた……」


 ルナは顔を(すす)だらけにして、呆然と呟いた。

 俺の家で爆発騒ぎを起こすのはやめてほしい。


「もう、めちゃくちゃじゃん! でも、この修羅場も配信すればバズる!」


 マリンだけは嬉々としてスマホのカメラを回していた。

 コメント欄が高速で流れているのが見える。


「というわけで、突撃! 最強ジャージ男のお部屋訪問!」


「おい! だから勝手に上がるな!」


 俺の制止も虚しく、三人は俺の六畳間になだれ込んだ。

 そして、ちゃぶ台の上の竜肉ステーキを見て動きを止めた。


「「「これ……」」」


「……俺の晩飯だからな。食うなよ?」


 俺は釘を刺したが、彼女たちの目は輝いていた。

 三人揃ってジュルリと舌なめずりをしている。


(あの時、マリンを助けたのは失敗だったな……)


 俺は「やれやれ」とため息をついた。


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