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どうやら俺は最強らしい ~都会の魔物が弱すぎて、美少女たちから頼られるようになりました~  作者: 絢乃


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002 最強の魔物、配信に乗る

 翌日。

 俺は再びダンジョンに潜っていた。


(それにしても、昨日の稼ぎには度肝を抜かれたな)


 俺の集めた魔石に対し、換金所が提示した額は想像の100倍以上だった。

 ゴブリンやキラーウルフといったザコを倒しただけで数万円になったのだ。


 俺の地元なら、数万円どころか1000円すらもらえないだろう。

 害獣駆除の手当として大根一本もらえたら御の字だ。

 その程度の仕事なのに、東京では数万円ももらえてしまった。


 東京はバグっている。

 そう確信した俺は、さらなる高額報酬を求めることにした。

 そんなわけで、今日はより深い階層へ足を踏み入れていた。


 地下四十層――通称「深淵エリア」。

 ネットの情報では、Sランクの冒険者ですら慎重に進むという危険地帯だ。

 ソロで挑むなどもってのほかであり、パーティーが必須らしい。


 だが、俺はソロで挑んでいた。

 今の俺にパーティーを組む仲間はいない。


(やっぱりネットの情報はデマだったな)


 深淵エリアは、快適なハイキングコースだった。

 出てくる魔物は昨日よりも少し大きくて凶暴だが、やることは変わらない。

 見つけて、殴って、魔石を拾う……その繰り返しだ。


「この様子なら、さらに危険なエリアも攻められそうだな」


 俺はあくびをしながら、薄暗い通路を歩いていた。

 相変わらずのジャージ姿だ。


 すれ違う魔物は、俺の姿を見るなり逃げ出していく。

 野生の勘というやつだろうか。賢明な判断だ。


「ん? あれは……」


 遠くに金髪の美少女が見える。

 昨日、俺が助けたアイドル冒険者の早乙女(さおとめ)マリンだ。


 マリンのことは、ネットでダンジョンを調べている時に知った。

 配信を少し確認したところ、キラーウルフを倒す俺の姿がしっかり撮られていた。

 おまけにそのシーンがバズり、コメント欄がお祭り状態になっていた。


 つまり、マリンは俺のおかげで人気が急上昇中ということだ。

 早くも「謎のジャージ男を捜せ!」という企画を立ち上げていた。

 危険を承知でここまで来ているのも、俺を捜しているからだろう。


 だが、俺の知ったことじゃない。

 目立ちたいわけでもないので、俺は無視することにした。


(そんなことよりも……)


 俺はニヤリと笑った。

 目の前にとんでもない「ご馳走」が現れたのだから。


 全長二十メートルはある漆黒の竜「アビス・ドラゴン」だ。

 東京のダンジョンで最強クラスの魔物と言われている。

 遭遇したら即撤退が鉄則の厄災級の存在だ。


「グォオオオ!」


 ドラゴンが咆哮とともに着地する。

 地面が揺れ、衝撃波が周囲の岩を砕く。


 その音に反応して、マリンが駆け寄ってくる。

 ――が、敵を見るなり悲鳴を上げて物陰に隠れた。

 彼女のドローンのカメラが、ドラゴンの威容を映し出している。


「最悪……! あたし、ここで死んじゃうかも……」


 マリンが絶望している。

 だが、俺の感想は違った。


「すげぇ美味そう……!」


 思わず涎が垂れる。

 あの太い尻尾。

 引き締まった太もも。

 鱗の隙間から見える肉付きの良さ。


 間違いない――あれは極上の霜降り肉だ!

 地元の祭りで長老が振る舞ってくれた、希少な竜肉のステーキを思い出す。


「こいつ一体で、三ヶ月……いや、半年はメシに困らないぞ!」


 俺は凄まじい勢いで脳内電卓を弾いた。

 肉代が浮けば、その分を貯金に回せる。


 それだけではない。

 アビス・ドラゴンの魔石はいい値が付きそうだ。

 換金レートが狂っている東京なら、大金になることは間違いない。

 億万長者への第一歩だ。


「さあ、狩りの時間だ」


 俺はリュックからナイフを取り出した。

 解体用のナイフだ。

 これは俺が昔から使っている愛用の武器……などではない。

 今日、適当な百均で買ったものだ。


「グオオオオオオオッ!」


 俺が近づくと、アビス・ドラゴンが再び咆哮を上げる。

 その口から、岩をも溶かす灼熱のブレスが吐き出された。


「いやあああ! 終わったあああ!」


 マリンが絶叫する。


「おいおい、何の冗談だ?」


 俺は迫り来るブレスに向かって息を吹きかけた。


 フゥーッ!


 たったそれだけで、敵のブレスを押し返した。

 ドラゴンは自分の炎で顔を焼かれた。


「ギャアッ!?」


 ドラゴンが困惑したように悲鳴を上げる。


 その隙を俺は見逃さなかった。

 地面を蹴り、一瞬でドラゴンの懐に潜り込む。

 そこから跳躍して、ドラゴンの頭に飛び乗った。


(狙うは眉間!)


 脳震盪を起こさせて、鮮度を保ったまま仕留める。

 そうすれば、極上の竜肉ステーキを堪能できるはずだ。


「晩飯の献立は、竜肉のステーキで決まりだ!」


 俺は右拳を握りしめ、真っ直ぐ突き出す。

 巨大な頭蓋骨に衝撃を叩き込んだ。


 ドゴォォォォン!


 轟音が響き渡り、ドラゴンの硬質な鱗が粉砕される。


「ギアッ……!」


 アビス・ドラゴンは白目をむいてズシンと地に伏した。

 完全なる沈黙が場を包み込む。

 敵は活動を停止した。


「「え?」」


 俺とマリンが同じ反応を示した。


(これが東京で最強クラスの魔物……?)


 俺は敵の弱さに衝撃を受けた。

 もう少し抵抗されると思っていたのだ。

 まさかワンパンで沈むとは予想もしていなかった。


(まあ、敵が予想より弱い分にはかまわないか)


 予想以上に強くて負傷するよりはマシだ。

 俺は最強を目指しているわけではないからな。


「さーて、ご褒美の時間だ」


 俺は満足げに頷き、ナイフを構えた。

 待ちに待った解体タイムだ。


 俺はウキウキで作業を始めた。

 まずは血抜きからやらなくてはいけない。


「ふんふんふーん♪」


 思わず鼻歌を口ずさむ。

 竜肉の味を想像するだけでテンションが上がる。


 そんなとき、背後でフラッシュが焚かれた。

 振り返ると、マリンが震える手でカメラを構え、俺を凝視していた。

 ドローンのレンズが、俺とドラゴンを交互に映している。


「う、嘘……でしょ……? アビス・ドラゴンを、ワンパン……?」


(近くで見るとやっぱり可愛くて胸がデカいなぁ。でも、目立つからどこかに行ってくれねぇかなぁ)


 そう思いつつ、俺は知らぬ顔で作業を進めた。


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