表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

最終話:香観師の約束

都の南、翡翠湖のそばにある孤児院。

静華は、香調司の随行とともに、そこを訪れていた。


依頼の少年――ユウは、沈黙したまま、誰の問いにも答えず、ただ空を見ていた。


彼の身元も記録も不明。

だが静華は、そっと一壺の香を取り出した。


玲華の残した“最後の香”。

それは母が未使用のまま残した調香であり、未だ誰にも分析されていない“無名香”だった。


(香は語る。たとえ言葉がなくても)


香を焚くと、柔らかくも懐かしい香気が満ちた。


──甘い橙の花、冬を思わせる冷たい白梅、そして遠く潮の香り。


静華の脳裏に、少年の記憶が流れ込む。


――海に沈む船。

――誰かの手。

――「ユウ、逃げなさい!」と叫ぶ女性の声。


その女性の髪は黒く、長く、香包こうづつみを手に握っていた。


静華の目に涙がにじむ。


(彼は母に守られた……彼もまた、“香に救われた者”だった)


香の記憶が断ち切れると、ユウが小さく声を出した。


「……あったかい、匂い……」


それが、彼の最初の言葉だった。


静華はそっと微笑み、彼の手を握った。


「もう大丈夫。香はちゃんと、君の声を伝えてくれたよ」


――その後、ユウは徐々に記憶と言葉を取り戻し、香童として香調司で学ぶことになる。


静華は観香官として都の香事件を司りながら、

時に“香による観測”を通して、人の記憶と心を癒す役目を果たしていく。


母の遺志を継ぎ、

香で人を操るのではなく、香で人の“想い”を繋ぐために。


春の終わり、花の香る風が吹き抜ける中、静華は空を見上げてそっと囁いた。


「母さん、きっと私は……ここで香を守っていくよ」


物語は、香の彼方へと続いていく。



ここまでお読みいただきありがとうございました。

続編も気になる、という読者の方がいらっしゃいましたら、

「お気に入り」や「感想」を残していただければ嬉しいです!


また、続きとなる第2部の連載の方を始めましたので、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ