第二話:聖女の暴走と、悪役の断罪
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私、エヴァンジェリン。
どの周回でも、私はヒロインを虐げ、最終的には断罪される運命だった。
しかし、この物語の「悪役」は、私だけではなかった。
真の敵を倒すためには、私が「悪役」として世界を救うしかない、と。
魔導石とリリアの力が共鳴し、暴走する。
それを止めるため、エヴァンジェリンは聖女を断罪する。
その真意はどこにあるのか。
さあ、物語の続きは本文で。
影の魔術師の策略により、魔導石は王城の上空へと浮かび上がった。
その光は、王国の空を不気味な黒と赤に染め上げ、街中にパニックが広がっていく。人々は悲鳴を上げ、混乱の渦に飲み込まれていく。
(急がなければ……!)
私は、影の魔術師に構うことなく、魔導石の光が向かう先を追った。
その光は、まるで導かれるように、リリアのいる学園へと降り注いでいた。
リリアの聖なる力が、魔導石の魔力と共鳴し、制御不能なエネルギーとなって暴走を始めているのだ。
私が学園にたどり着いた時、すでに光景は地獄絵図と化していた。
リリアは、中庭の中心で苦痛に顔を歪ませ、自らの聖なる力に身体を蝕まれていた。彼女の周囲には、彼女の力を恐れて逃げ惑う生徒たちの姿がある。
「リリア様……!」
王子レオンハルトも、遅れて学園に到着した。彼は、リリアの暴走を止めようと、魔力で結界を張ろうとする。しかし、リリアの力は彼の結界をいとも容易く吹き飛ばした。
「なんて魔力だ……! これでは、止められない……!」
王子の顔に、絶望の色が浮かぶ。
その時、リリアが私の姿を認め、弱々しい声で呟いた。
「エヴァ……様……、逃げて……! 私、もう……止まらないの……!」
彼女の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。その涙は、彼女自身の力によって、地面に落ちる前に蒸発していく。
私は、息を呑んだ。
(このままでは、リリアも、この世界も滅びる)
脳裏に、何度も繰り返した周回の記憶が蘇る。どの周回でも、リリアは暴走し、最後には影の魔術師に利用されて世界を破滅に導いた。
もう、演技をしている暇はない。
私は、過去の自分を断罪した、あの舞踏会と同じように、堂々と壇上…いや、中庭の中心に立つ。
そして、高らかに宣言した。
「リリア・エルトリア嬢! 貴女のその力は、世界の平和を乱す悪であると、ここに断罪する!」
私の言葉に、周囲の人々がざわめく。
「悪役令嬢だ…!」
「やっぱり、あの子が裏で糸を引いていたんだ!」
罵声が飛び交うが、私の耳には届かない。
「エヴァ様……? どうして……?」
リリアは、私が自分を断罪したことに、困惑と絶望の表情を浮かべる。
私は、躊躇なく自らの魔力を解放した。
私の魔力は、夜空を黒く染め上げ、大地を震わせる。
それは、これまでの周回で蓄積してきた、圧倒的な「悪役の魔力」。
その力で、私はリリアに向け、一本の黒い魔力の槍を放った。
「やめろ、エヴァンジェリン!」
レオンハルト王子が、私の行動に激しく怒り、剣を構えて立ちはだかろうとする。
しかし、私の魔力は、彼の一切の動きを封じ込める。
私は、悲しみに満ちた瞳で、リリアを見つめた。
(ごめんなさい、リリア様。これが、あなたを救う唯一の方法なの)
その魔力の槍は、リリアを殺すためではない。
彼女の聖なる力を完全に「断ち切り」、影の魔術師との繋がりを絶つための、最後の手段。
そして、この行為は、私を完全に「悪役」として世界に刻み込む、残酷な断罪だった。
私の放った魔力の槍が、リリアの身体に触れようとした、その瞬間――。
これは、孤独な悪役令嬢が、抗うことのできない運命の中で、
かけがえのない仲間たちと「居場所」を見つける物語。
聖女を断罪し、魔力の槍を手にするエヴァンジェリン。
リリアに槍を向ける真意は助けるためだった。
そこまでしてエヴァンジェリンが守ろうとするものは。
彼女たちの行く末を見守っていただけたら嬉しいです。
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