第一話:三つ巴の夜
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私、エヴァンジェリン。
どの周回でも、私はヒロインを虐げ、最終的には断罪される運命だった。
しかし、この物語の「悪役」は、私だけではなかった。
真の敵を倒すためには、私が「悪役」として世界を救うしかない、と。
王城の結界が破られ、エヴァンジェリンは決意とともに王城の庭園に立ちます。
その視線の先に立つのは悪役令嬢が倒すべき敵。
さあ、物語の続きは本文で。
その夜、王城の結界が突如として破られた。
魔導石の気配を追っていた私は、すぐさまその異変に気づく。
影の魔術師が、いよいよ魔導石の力を完全に手中に収めようとしているのだ。
私は公爵邸の窓から飛び出し、夜の闇に紛れて王城へと急ぐ。
(もう、善良な令嬢の仮面は必要ない)
私の魔力は、夜の風に乗って加速し、あっという間に王城の敷地へとたどり着く。
王城の庭園は、まるで魔物の住処と化したかのように、黒い霧に覆われていた。
庭園にいた衛兵たちは、苦しそうにうずくまっている。
「くっ……これは、なんだ……」
彼らの顔は、苦痛に歪んでいた。影の魔術師の魔力が、彼らの生命力を奪っているのだ。
私は、迷わず衛兵たちの前に立ち塞がる。
「無駄な抵抗はやめなさい」
私の声は、夜の闇に響き渡った。
衛兵たちは、私を敵と見なし、剣を構える。
「悪役令嬢……! やはり貴様だったのか!」
「王家の秘宝を盗み、まだ足りないというのか!」
彼らの罵声が、私の耳に突き刺さる。
(いいわ。それでいい)
私は、彼らを傷つけることなく、無力化させるための魔法を放つ。
魔力が放たれた瞬間、衛兵たちの体が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
彼らは気を失っているだけで、怪我はない。
しかし、その光景は、彼らの目には「悪役による無力化」としか映らないだろう。
その時だった。
「エヴァンジェリン!」
背後から、怒りに満ちた声が聞こえた。
王子レオンハルトだ。彼は、数人の騎士を率いて、私の前に立ちはだかる。
「やはり君だったのだな。なぜ、ここまで裏切るのだ!」
彼の瞳は、私への疑念と、裏切られた怒りに揺れている。
私は、あえて冷たい笑みを浮かべた。
「裏切ったなど、人聞きが悪いですわ、殿下。私は、ただ、この魔導石を手に入れたかっただけです」
そう言って、私は魔導石が隠されている場所へと足を進める。
「待て! 君は一体、何者なんだ……!」
レオンハルトの声が、私の背に突き刺さる。
(私は、この世界の『悪役』よ)
心の中でそう呟きながら、私は魔導石へと手を伸ばした。
しかし、その瞬間、魔導石から不気味な黒い光が放たれ、私の手から弾き飛ばされる。
そして、魔導石は空中に浮かび上がり、その光が夜空を赤く染め上げていく。
「ようやく来たか、悪役令嬢よ」
闇の中から、影の魔術師が姿を現した。
その顔は、黒いローブに隠され、誰なのかは分からない。
(この魔導石は……私が手を伸ばすことで、あいつを誘き出すための餌だったのね……!)
私は、影の魔術師の狡猾な罠に、嵌められたことを悟る。
レオンハルト王子と影の魔術師に挟まれた、絶体絶命の状況。
しかし、私の心には、恐怖よりも、ついに来たかという高揚感が湧き上がっていた。
「さあ、始めましょうか、殿下。私と、この魔術師との、三つ巴の夜を」
私は、不敵な笑みを浮かべながら、覚悟を決めた。
これは、孤独な悪役令嬢が、抗うことのできない運命の中で、
かけがえのない仲間たちと「居場所」を見つける物語。
王城の結界が破られ、真の敵がエヴァンジェリンの前に現れます。
かけがえのない場所を守るため、悪役令嬢として敵を倒ぶ道を選びます。
彼女たちの行く末を見守っていただけたら嬉しいです。
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