第三話:王子の試練と悪役の罠
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私、エヴァンジェリン。
どの周回でも、私はヒロインを虐げ、最終的には断罪される運命だった。
しかし、この物語の「悪役」は、私だけではなかった。
真の敵を倒すためには、私が「悪役」として世界を救うしかない、と。
「王家の魔導石」が、宝物庫から忽然と姿を消す。
現場に残されたのは「悪役の魔力」――エヴァンジェリンの隠していた力の残穢だった。
レオンハルト王子に問いただされ、はぐらかすエヴァンジェリンの真意は?
さあ、物語の続きは本文で。
リリアの聖なる力が暴走し始めた数日後、王国を揺るがす大事件が起こった。
王家が代々保管してきた「王家の魔導石」が、宝物庫から忽然と姿を消したのだ。
現場に残されたのは、魔導石から放たれるはずのない、不気味で冷たい魔力の痕跡。それは、間違いなく私が隠していた「悪役の魔力」と同じ気配だった。
「……やはり、君なのか?」
レオンハルト王子が、学園のテラスで私を呼び出し、静かに問い詰めた。
彼の瞳は、私を称賛した舞踏会の時とは違い、深い疑念と困惑に満ちている。
「宝物庫に残された魔力の痕跡は、君が以前、リリア嬢を救った時に使った魔力と酷似している。
……なぜ、魔導石を盗んだ?」
私は、この瞬間を待っていた。
影の魔術師は、私の覚醒を促すために、この事件を起こしたのだ。
彼らの狙いは、私を「悪役」として孤立させ、魔力を解放させること。
ならば、私はその罠に乗ってやる。
私は、微かに口角を上げて微笑んだ。
「それが、私の魔力だというなら……そのように捉えればよいでしょう」
「どういうことだ?」
王子は、苛立ちを隠せない様子で私を睨んだ。
「私は、ただ……王家の繁栄を願っているだけですわ。
この魔導石は、王子の手に渡っていては危険な代物でしたから」
私の言葉は、まるで王子を嘲笑っているかのようだ。
「危険だと? それは、王家への侮辱か?」
「ご自由に。殿下が、そう解釈なされるのなら……」
私は、あえて王子の怒りを煽るような態度をとった。
彼が私を敵と見なせば、影の魔術師は私に執着し、他の人々には手を出さないだろう。
これで、リリアも、兄も、この王国の平穏も守られる。
しかし、私の心中では、孤独な痛みが広がっていた。
私は、誰にも理解されないまま、独りでこの道を歩むしかないのだ。
私が立ち去ろうとした、その時だった。
私は、足元に小さな紙切れを落とした。
それは、魔導石が隠されている場所のヒントを記した、暗号めいたメモだった。
「……何のつもりだ?」
王子は、そのメモに気づき、不審そうに私を見つめる。
私は何も答えず、ただ静かに微笑むだけだった。
(これは、私が殿下に与えた、試練よ)
このヒントを頼りに真実を突き止めるか、それとも私を「悪役」として断罪するか。
その決断は、王子レオンハルトの「正義」が、真に世界を救う力を持つのかを試す、最初の試金石だった。
王子は、私の去っていく背中を見つめながら、手に握られたメモを強く握りしめた。
彼の心の中で、エヴァンジェリンへの疑念と、彼女の行動の矛盾に対する困惑が激しく交錯していた。
彼は、この謎を解き明かすために、独自の捜査を始める決意を固めた。
これは、孤独な悪役令嬢が、抗うことのできない運命の中で、
かけがえのない仲間たちと「居場所」を見つける物語。
王家の魔導石を盗み出した疑いがかけられるエヴァンジェリン。
犯人ではないのにはぐらかすエヴァンジェリンは王子に一つの試練を課すのだった。
影の魔術師の存在を感じたエヴァンジェリンは本当の力を解放することを決意しました。
彼女たちの行く末を見守っていただけたら嬉しいです。
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