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第一話:兄の疑念と、独りの決意

乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私、エヴァンジェリン。

どの周回でも、私はヒロインを虐げ、最終的には断罪される運命だった。

しかし、この物語の「悪役」は、私だけではなかった。

真の敵を倒すためには、私が「悪役」として世界を救うしかない、と。



ルシアンの執務室に呼び出されるエヴァンジェリン。

兄に自らの真意が理解されず、思わず本音を漏らします。


家訓に従い、妹を断罪すべきか否か、ルシアンは葛藤します。



さあ、物語の続きは本文で。

 翌朝、私は兄ルシアンの執務室に呼び出された。


 扉を開けると、そこには書類の山に囲まれ、眉間に深い皺を寄せた兄の姿があった。

 彼の背後にはグランヴィル公爵家の家訓が刻まれた巨大な石板が飾られている。


「力は王家のために、感情は家に捧げよ」。

 その言葉が、兄の冷徹さを象徴しているかのようだ。


「……座れ」


 ルシアンの声は、昨夜の微かな動揺を消し去り、再び氷のように冷たかった。

 私は言われるがまま、向かいの椅子に座る。

 兄の視線が、昨夜の魔力の暴走で震えた私の手をじっと見つめている。


「昨夜の部屋の異変について、もう一度説明しろ」


 彼は、私を値踏みするかのように、厳しい口調で問い詰めた。


「魔法の練習、などという嘘は通じない。あの魔力は、お前の隠していた力だろう」


「……」

 私は何も答えず、ただ静かに俯いた。


「答えろ、エヴァンジェリン。なぜ、その力を隠していた?」

 彼の声には、怒りよりも、妹の理解できない行動への困惑が滲んでいる。


 私は、過去の周回で兄に冷たく断罪された記憶を思い出した。

 あの時、兄は私を「家の恥」と罵った。この周回で、この関係を壊したくはない。


 私は、顔を上げ、完璧な淑女の笑顔を浮かべた。


「兄様は、私を家の名誉を汚す存在だとお思いですか? 私は、公爵家の力として、王家と友好関係を築こうと努めていたのです」


 私の言葉は、あくまで「善良な令嬢」としての建前を貫いていた。


 ルシアンは、その言葉に微かに顔を歪めた。

「……貴様は、家訓を理解しているのか?

 貴様の魔力は、家の名において王家を守るために使われるべきだ。

 それを隠し、戯言を並べるなど……!」


 彼の怒りが、ついに感情を露わにする。彼は椅子から立ち上がり、私に詰め寄った。


「その魔力は、どこで手に入れた? お前は、家訓に従う者ではないのか? その力は、もしや悪に染まっているのか?」


「……兄様には、私の心が理解できないのですか」


 私の口から、思わず本音が漏れ出た。

 兄はいつも、私の力を「家の力」としてしか見ない。私の感情も、願いも、何も理解してくれない。

 そんな兄の態度に、私の心は再び孤独に苛まれた。


 その瞬間、ルシアンの表情に、一瞬だけ揺らぎが見えた。

 しかし、すぐに彼は家訓を思い出したかのように、冷徹な表情に戻った。


「……もうよい。下がれ。今後、その力を公の場で使うことは許さない。もし家訓に背くようなことがあれば、公爵家がその責任を負う」

 彼は、私を警戒し、警告しているのだ。


 私は、静かに立ち上がり、執務室を出た。

 扉が閉まる音と共に、私は心の中で呟いた。


(兄様にも、もう話せない……)


 私は、この孤独な道を行くしかない。

 兄の葛藤も、王子の疑念も、リリアの無垢な笑顔も、すべてを守るために。

 私は、誰にも理解されないまま、「真の悪」として覚醒するしかないのだ。

 誰も信じず、ただ独りで戦う。


 ルシアンは、扉の向こうで妹の気配が完全に消えたことを確認すると、深くため息をついた。

 彼の脳裏には、妹が最後に放った「兄様には、私の心が理解できないのですか」という悲痛な言葉がこだましていた。


(……私は、本当に妹を理解できていないのか?)


 家訓に従い、妹を断罪すべきか否か。ルシアンの心の中で、かつてないほどの葛藤が生まれていた。

 これが、彼が「影のヒーロー」へと変化する、最初の第一歩だった。

これは、孤独な悪役令嬢が、抗うことのできない運命の中で、


かけがえのない仲間たちと「居場所」を見つける物語。






エヴァンジェリンを家訓に従い、妹を断罪すべきか否か、ルシアンは葛藤します。


ルシアンは「影のヒーロー」へ変化するか否か。




彼女たちの行く末を見守っていただけたら嬉しいです。




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