エピローグ - 影で世界を見守る「悪役」
断罪から数年の月日が流れた。
私は、王国から遠く離れた、人里離れた山奥の小さな屋敷で暮らしていた。
周囲を深い森に囲まれたその場所は、かつて私が周回の中で見た、孤独な死を迎えた場所によく似ていた。
しかし、今の私には、その場所が「独りぼっち」の場所ではないことを知っている。
ある日の午後。
コンコン、と、屋敷の扉が静かにノックされた。
扉を開けると、そこには、フードを目深に被った二人の男と、一人の女性が立っていた。
「久しぶりだな、ヴェラ」
フードを脱いだのは、兄ルシアンだった。
公爵家当主としての威厳を纏いながらも、彼の表情は以前よりずっと穏やかだ。
彼の腕には、この屋敷で暮らすための物資が抱えられている。
「ヴェラ様! お会いしたかったです!」
もう一人のフードの人物が、私に駆け寄ってきた。
王子レオンハルトだ。彼は、王子の身分を隠すために、変装してここまで来てくれたのだ。
そして、最後に、リリアが私の手を優しく握りしめた。
「……大丈夫だった? 体調は崩してない?」
聖なる力を失い、ただの女の子になったリリアは、私の顔色を心配そうに覗き込む。
私は、三人の顔を一人ひとり見つめた。
彼らは、私の正体を誰にも明かすことなく、定期的にここを訪れてくれる。
ルシアンは、公爵家の権力を使って、私が世間から忘れ去られるように計らってくれた。
レオンハルトは、王子の立場から、私の名誉を密かに守り続けている。
そして、リリアは、私が独りぼっちにならないように、私に「居場所」を与えてくれている。
彼らは、私が「悪役」として生きることを受け入れた上で、それでも私を信じ、私を支え続けてくれた。
これこそが、私が何周もの人生をかけて、ようやく見つけた、かけがえのない「居場所」だった。
私は、静かに微笑んだ。
「ええ、大丈夫よ。この世界は、平和?」
レオンハルトは、私の問いに力強く頷く。
「ああ。君が守ってくれたからな。……君こそ、この世界の真の英雄だ」
その言葉に、リリアも力強く頷いた。
私は、ルシアンが持ってきた物資をテーブルに置きながら、窓から見える森を眺める。
「私はこの世界の『悪役』として生まれた。ならば、この力で世界を救うのも、私という『悪役』の役目だわ」
私の言葉に、ルシアンは静かに頷き、レオンハルトは誇らしげな笑みを浮かべ、リリアは私の手を握りしめた。
私は、もう独りじゃない。
誰にも理解されない「悪役」という役割を背負いながらも、私には、この世界で「私」として存在できる、かけがえのない場所がある。
それは、偽りの笑顔も、仮面も必要ない、心から安らげる、温かい「居場所」だった。
私は、彼らと共に、満ち足りた笑顔で、夜空に輝く星を見上げた。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
この後、番外編が続きます。
よろしければ、お付き合いいただけますと幸いです。




