第二話:偽りの断罪と、真実の誓い
断罪の日は、晴れ渡った空の下で執り行われた。
広場には、大勢の民衆が集まっていた。彼らの顔には、希望を取り戻した安堵と、悪役令嬢に対する憎悪が満ちている。
私は、鎖に繋がれ、処刑台のような壇上に立たされていた。
隣には、静かに祈りを捧げるヒロイン、リリア。
そして、その向かいには、王族の威厳を纏った王子、レオンハルト。
レオンハルトが、冷徹な声で私の罪状を読み上げる。
「エヴァンジェリン・グランヴィルは、王家の魔導石を盗み、その邪悪な力で王国を危機に陥れた。
よって、この場でその罪を断罪し、国外追放とする!」
民衆から、歓声と罵声が同時に上がる。
「悪役令嬢め! 国を追放されてしまえ!」
「よくやった、王子殿下!」
私は、その声を聞きながら、心の中で呟いた。
(これでいい。これが、私の役割だもの)
その時、一人の少年が、私の足元に石を投げつけた。
その石は、私の頬を掠め、小さな傷をつくる。
民衆の罵声が、さらに大きくなる。
私は、痛みに顔を歪めながらも、少年に微笑みかけた。
(あなたたちが、もう私を恐れなくていいように……)
その光景を、壇上から見つめる一人の男がいた。
兄、ルシアンだ。
彼は、公爵家当主として、私の隣に立つ。
「エヴァンジェリン・グランヴィルは、グランヴィル公爵家の名誉を著しく傷つけた。
よって、公爵家の名において、貴様を家から追放する」
彼の声は、誰よりも冷たかった。しかし、その手は、家訓が刻まれた紋章を、震えるほど強く握りしめている。
(兄様……!)
彼の瞳の奥に、私への深い悲しみが隠されていることに、私だけが気づいていた。
その時、リリアが私の前に立ち、静かに頭を下げた。
「エヴァ様……ごめんなさい」
彼女は、涙を流しながら、私の頬に触れる。
その手は、以前のような冷たい魔力ではなく、温かい血の通った手だった。
「私が、あなたの邪魔をしてしまったから……!」
彼女は、自分が暴走し、私に孤独な決断をさせたことを、深く悔いているのだ。
私は、鎖に繋がれた手で、リリアの頭を優しく撫でた。
「いいえ。あなたは何も悪くない。ありがとう、リリア様。
あなたと出会えて、私は独りじゃなくなった」
その言葉は、私の心の奥底からこぼれ出た、偽りのない本心だった。
その光景を見ていた王子、レオンハルトは、苦しそうに顔を歪める。
彼は、その場を離れると、誰にも見えない場所で、静かに涙を流した。
「すまない、エヴァ……! 私には、君を守ってやることができなかった…!」
彼は、自分の無力さを悔やんでいた。
そして、夜。
私は、国境の門の前で、ルシアンと二人きりだった。
ルシアンは、静かに私に鍵を渡した。
「この屋敷で、暮らせ。情報は、定期的に送る」
それは、国外追放された私を、影で支え続けるという、兄の誓いだった。
私は、兄の手に触れる。
「兄様……」
「行け。私の自慢の妹だ」
ルシアンは、私を抱きしめることなく、ただ私を見送った。
私は、振り返ることなく、闇の中へと歩き出した。
私の頬を伝う涙は、孤独と、そして温かい絆に満ちていた。
これからは、誰にも理解されない「悪役」として生きる。
しかし、私は、もう独りじゃない。
「私には、独りぼっちじゃなくなった。この世界で、ようやく見つけた私の居場所で、私は私の役割を全うする」




