第三話:影のヒーローの覚悟
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私、エヴァンジェリン。
どの周回でも、私はヒロインを虐げ、最終的には断罪される運命だった。
しかし、この物語の「悪役」は、私だけではなかった。
真の敵を倒すためには、私が「悪役」として世界を救うしかない、と。
悪役令嬢として戦う覚悟を決めた立つエヴァンジェリンの前に兄ルシアンが立ちふさがる。
エヴァンジェリンの真意に気づいたルシアンが取る行動とは。
さあ、物語の続きは本文で。
私の放った魔力の槍が、リリアに届こうとした、その瞬間だった。
「待て、エヴァンジェリン!」
怒号と共に、兄ルシアンが、まるで風のように私の前に立ちはだかった。彼は私を睨みつけ、その手には家訓が刻まれたグランヴィル家の紋章が輝いている。
「家訓に従え! その魔力で、彼女を傷つけることは許さない!」
兄の言葉は、まるで過去の周回で私を断罪した時のように、冷たく、そして厳しいものだった。
周囲の貴族や衛兵たちは、兄の登場に安堵の表情を浮かべる。これで、悪役令嬢は止められると信じているのだ。
(兄様……!)
私は、一瞬だけ動揺した。このままでは、リリアを救うことはできない。
しかし、兄を傷つけることも、私の本意ではない。
「兄様……どいてください!」
私の声は、焦りから震えていた。兄は、私の言葉を無視し、私とリリアの間で、まるで巨大な壁のように立ち塞がる。
「貴様の行動は、王家の敵だ! 今こそ、家訓に従い、貴様を断罪する!」
ルシアンの言葉に、周囲の歓声が上がる。彼は、公爵家当主としての役割を全うしようとしているのだ。
しかし、その時、私の魔力の槍が、彼に吸い込まれるように、すっと消えていく。
「な……?」
ルシアンは、驚愕に目を見開いた。私は、魔力の槍を消し去る代わりに、私の魔力を兄の身体に流し込んでいたのだ。
私の魔力は、影の魔術師の魔力を打ち消す唯一の力。兄に、この力を通じて、真実を伝えるために。
その瞬間、ルシアンの脳裏に、私が過去に経験した周回の記憶が流れ込んだ。
炎に包まれた街。
影の魔術師に操られ、暴走するリリア。
そして、たった一人で絶望と戦い、力尽きていく私。
彼は、私の孤独な戦いと、この魔力が世界を救う唯一の希望であることを、一瞬で理解した。
ルシアンの顔から、冷徹な表情が消え去り、深い悲しみと後悔が浮かび上がる。
「……そうか。お前は……」
兄は、私の真意を理解した。彼は、私を「家の恥」として断罪するのではなく、「世界を救う鍵」として、私の覚悟を受け入れたのだ。
ルシアンは、静かに私を振り返ると、再び公爵家当主としての、凍えるような声で宣言した。
「全軍に告ぐ! 悪役令嬢、エヴァンジェリン・グランヴィルは、我がグランヴィル公爵家の名において、この場で拘束する! 彼女の暴走を止める!」
彼の言葉は、私を「悪役」として断罪しながらも、同時に、周囲から私を守るためのものだった。
彼が私を拘束している間に、私がリリアの力を断ち切る時間稼ぎをしてくれるのだ。
ルシアンは、私にしか聞こえない声で、静かに呟いた。
「……行け。グランヴィル家の責務は、この私が引き受けよう。お前の使命を、果たしてこい」
兄は、私の孤独な戦いに、自らも「影」として加わってくれたのだ。
私は、兄の覚悟を背に、再びリリアに向かって魔力の槍を放つ。
「ありがとう、兄様……!」
その時、リリアの背後から、不気味な声が響き渡った。
「……愚かな兄妹め。もはや、手遅れだ」
影の魔術師が、ついにその姿を現したのだ。
これは、孤独な悪役令嬢が、抗うことのできない運命の中で、
かけがえのない仲間たちと「居場所」を見つける物語。
悪役令嬢として戦うエヴァンジェリンとその真意を知った兄ルシアン。
妹の覚悟を知り影のヒーローとなることを決めたのだった。
彼女たちの行く末を見守っていただけたら嬉しいです。
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