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序:天孫降臨

日本史の中において未だ謎多き人物・卑弥呼…。この巫女を天照大神の化身とする都市伝説をその時代に生きた、景行、仲哀天皇、神功皇后、そして日本武尊を絡めてストーリーとして書き上げました。

所説はありますが、今回は仲哀天皇を日本武尊の甥として作成しています。

歴史フィクションとして都市伝説を楽しんでいただけると嬉しいです。

あめ高天原たかまがはら


雲一つない澄んだ空に、金と銀の光が交差し、白銀の羽衣をまとった神々が静かに行き交う。高天原の中心には、天照大神あまてらすおおみかみが金色に輝く御座に鎮座していた。荘厳なる沈黙の中、天の神々が距離を保ちつつ、息を呑むようにその言葉を待っていた。


葦原中国あしはらのなかつくには、今や乱れに乱れている……」


天照大神の声は静かでありながら、雷のように全ての神の胸に響いた。



地上 ―― 葦原中国。そこは元来、神々の意志が根付き、調和と恵みの地として栄えていた。しかし時代が下るにつれ、人の欲と争いが国を蝕んでいた。地方の豪族は互いに領土を奪い合い、民は貧しさに喘ぎ、祈りの声すら届かぬ荒れ果てた村もあった。荒神あらがみを祀り、呪詛をもって敵を倒す者も現れ、神々の与えし秩序は崩れつつあった。


中国は、神々がかつて与えた調和の象徴であった。だが今や、その面影はなく、人々は血と欲に支配され、自然の声も聞こうとはしない。天照大神は長き時を見守り続けてきたが、その歪みはもはや看過できぬものとなっていた。


天照大神の傍らに控えていたのは、若き神・瓊瓊杵尊ににぎのみことである。彼の姿は凛々しく、その瞳にはまだ幼さと、神としての使命に対する恐れが同居していた。


「瓊瓊杵よ、お前に託す。地上に降り立ち、人の世を正すのだ。稲穂をもって、豊穣をもたらせ。剣をもって、乱を鎮めよ」


その言葉に、神々の中にはざわめく者もいた。なぜ彼なのか、と。


しかし、天照大神の選びは揺るがない。瓊瓊杵尊は、天照の孫でありながら、神々の中でも最も人に近い感性を持っていた。清らかであり、だが迷いも抱える。そこにこそ、天照は希望を見出していた。人の世を癒すには、力だけでなく、理解と共感が必要であると。


瓊瓊杵尊は頭を垂れる。


「御命、かしこまりました」


だがその胸の内は、静かに揺れていた。


「本当に、我にできるのか……」


彼は神の子であると同時に、心に人の弱さを宿す存在であった。人々の争いや、悲しみの深さ、憎しみの連鎖に、自らが囚われるのではないかという恐れ。


「我が言葉を疑っているのか」


天照大神の声が、彼の心を見透かすように響いた。


「いえ……ただ、その重さを感じております」


「ならばよい」


天照大神は微笑んだ。それは慈しみに満ち、そして決意に満ちた笑みだった。


「この千年、見守ろう。だが人の世に希望が尽きる時、我もまた地に降りよう」


瓊瓊杵尊の背には、天児屋根命あめのこやねのみこと布刀玉命ふとだまのみことが従っていた。彼らは神々の中でも特に信仰と儀礼を司る存在であり、瓊瓊杵の旅を支える道案内であった。


瓊瓊杵は天照より授かった稲穂を手に取る。それはただの植物ではなく、地上に再び神意を根付かせる象徴。


「稲穂は命。人々を飢えから救うもの。剣は秩序。無益な争いを鎮めるもの」


天照大神の言葉が、心に深く刻まれる。


天の浮橋あめのうきはしに立ち、天と地の境を見下ろしたとき、瓊瓊杵は深い息を吐いた。


「祖母上、我は人の世を信じます。そして、我自身を信じます」


そして、一歩を踏み出した。その姿を、天照大神は静かに、目を閉じて見送った。

その時、天照大神の声が風となって地上へと降りていった。


「人の世に、再び光を ――」


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