UTOPIA その5
端末から背筋を伸ばして、思いっきりノビをする。
これで、今日の仕事は終わりだ。
帰ったら、何をしようかな?
お庭の普通の植木に水をやるのもいい。
長谷則さんと一緒に、寝床があるビルの階下の屋台で飲むのもいい。
二階に差し掛かる踊り場にある液晶テレビで、世界崩壊を見つめ世界の王者となった気分を味わうのもいいだろう。ゲームの世界だからそれは許されるはずだ。
どちらにしても、私はこれから長谷則さんと一緒に寝床のあるビルへ帰宅するのだ。
あ、そうだ。
駐車場のある1Fで、それぞれの高級車に乗り、新宿の夜景を満喫することができる。どこまでも暗闇が続く道を飽きずにドライブするのもいいだろう。
全世界のお金は私たち二人には十分過ぎるほどだ。
どこかで、うんと無駄遣いをしてやっても誰にも咎められないだろうし、この仕事をほったらかして、一生遊んでもいいのだろう。まあ、ゲームマスターには怒られるだろうけど……。
ゲームマスターは、あれ以来。どこかへと消えた。
もう、戻ってこないのかも知れない。
そうだといいのだ。
ゲームマスターも放棄した。このゲーム世界で、私と長谷則さんは、例えよぼよぼだったとしても、世界の崩壊の最先端を、新宿の端にある寝床のあるビルで、音楽を流しながら、静かに観察しているというのも悪くないのだ。
これが、本当の自由?
人類が大昔から憧れていた。あるのかないのかもわからない。あの幻のような本当の自由?
……そうなのかも知れない。