UTOPIA その3
夕食はいつも静かだ。
向いの席の長谷則さんは、口数が元々少ない。私もあまり人と話すのは好きな方ではなかった。
だが、一年前に料理教室に通っていたためか、味には煩い。
そんな私でも、静寂を守っていられるのだから、これは長谷則さんの料理は素直に凄いと言えるだろう。
ここ、OUTLINEというゲーム世界へ来てからというもの。私はせっかく高いお金を払ってまで学んだというのに、自分の料理を作っていなかった。長谷則さんが、すぐに台所を占領してしまったからだ。
もしかしたらだが、私よりも長谷則さんの方が料理に煩いたちなのだろう。
実際、今日の卵料理は玉子の黄色味だけを使っているのだが、黄色味が綺麗過ぎたのだ。両手で白身だけを取り除くのだが、それが料理教室の先生と同じかそれ以上の達人レベルなのだ。
昨日の一昨日に作ってもらったハンバーグステーキも、目と舌を疑ってしまうほど、とても上手にできていた。
「長谷則さん? 今更だけど、どこかで料理をしていたの?」
「え? どうしたんだい?」
「今更よ。今更。料理上手ねって」
「あ、ああ。俺の実家が小さな料亭だったんだ」
「そう……どうりで……」
「あ、そっちにある醤油取ってくれ」
「はい。醤油」
「ありがとう」
それと、長谷則さんは、なんでも小さな頃から、料亭の警備員から素手で武器を持つ相手を倒す空手と言われている徒手空拳という格闘技を教わったのだそうだ。
夕食が終わると、お互い自室に帰る。
たまに一緒の部屋で寝ることもあるが、本当にたまにだった。