容疑者が全員同じ名前なんです殺人事件
探偵ものですが、謎解き要素はありません。
ツッコミ役もいないので、ボケっぱなしになっているところが多数あります。
よろしければ、笑ってやってください。
「犯人は、この中にいます!」
私は高校生探偵の金田一美
偶然、参加した「絶海の孤島 春のパンまつりツアー」で殺人事件が起きた。
殺された被害者は、鈴木太郎さん
ある会社を経営している、50歳の男性だった。
鈴木さんもこのツアーの参加者で、メインロッジに到着したときには生存が確認できていた。みんなが各自の部屋に荷物を置きホールに戻ると、彼はナイフで胸を刺され殺されていた。
そして、容疑者は、私を含めた6人……
現在、この島にいる全員だった。
私はワクワクしていた。
なぜなら、高校生探偵を名乗っているが、今まで殺人事件に出くわしたことがなかったからだ。
そう…… 私は自称「高校生探偵」だった。
今まで、何の事件も解決したことがない。
しかし、私には自信があった……。
私が今までに読んだ推理小説は、10冊を越えている。そして、それらの小説すべてで、私は事件の途中に犯人を知ることが出来ていた。
決してわざとではない……。
風がページをめくったり、本を落としたら偶々ページが開いてしまったり……
偶然が重なった結果、私は犯人の名前を目にしてしまう。
(ついに、鍛え上げた私の推理力を見せるときが来たわ)
「おい! お前、何者なんだ!?」
強面の男性が尋ねてきた。
(ヒュー、来た来た…… 明らかに犯人ぽいけど犯人じゃない『強面の男性』! そして、そのセリフを待っていたわ)
「私は高校生探偵、金田一美! この事件は私が解決するわ!」
シャキーン キラッキラッ
私はそう言って、10年以上前から考えていた決めポーズをとった。
(フッ…… 決まったわ)
「では、早速ですが、皆さんの取り調べをさせてください。佐藤さん、立ち会っていただけますか?」
「は、はい…… 分かりました」
ツアーコンダクターの佐藤さんがそう言った。
私と佐藤さんは、別室でツアー参加者の取り調べを行うことにした。
「それでは、初めにお名前、年齢、ご職業をお願いいたします」
最初に取り調べを行ったのは、大学生くらいの青年だった。
「はい。名前は佐藤葵。20歳の大学生です」
「さ、佐藤葵!?」
青年が名前を名乗ると、ツアーコンダクターの佐藤さんが驚き、そう言った。
「佐藤さん…… どうされたんですか?」
私がツアコンの佐藤さんに尋ねた。
「いやぁ~、実は…… 私も葵という名前なんです」
(な、なんてこと…… 同姓同名がいる時点で推理小説としては破綻している。ヤバい…… 最初の事件から難易度が高いわ……)
「私達、新婚なんで一緒に取り調べでも良いですか?」
次に取り調べの予定だった女性が、部屋に入ってくるなり尋ねてきた。
「分かりました。お2人、一緒で大丈夫です」
私がそう答えると、
「あーくん、大丈夫だって」
女性がドアを開けて、そう言った。
すると、20代後半くらいの男性が部屋に入ってきた。
私は2人に名前と年齢、職業を尋ねた。
「俺の名前は佐藤葵です。年齢は27歳、職業は保険の営業をしてます」
男性が言った。
「私の名前も佐藤葵です。年齢は24歳、寿退社したので現在は無職です」
女性が言った。
「あーちゃん、違うでしょ。無職じゃなくて、専業主婦でしょ!」
男性がそう言った。
「あ~ん、そうだった~。あーくん、ありがと、チュッ」
女性がそう言って、男性の頬にキスをした。
(ラブラブやん…… 見せつけてくれるやん…… 私、未成年なんだから、少しは配慮してよ! そ、それにしても、この人達の名前も『佐藤葵』……。ていうか、夫婦で同じ名前はワケがわからなくない!? )
最後にあの強面の男性の取り調べを行った。
「名前は……」
「ちょ、ちょっと待ってください……。もしかして、あなたの名前は『佐藤葵』ですか……?」
「な、なぜ……それを! さ、流石は高校生探偵!!」
(や、ヤバい…… 容疑者全員……『佐藤葵』だわ……。こんな難事件、どんな名探偵も巡りあったことがないはず……。しかし、天才高校生探偵の私なら必ず解決できる!!)
「必ず、この難事件は私が解決してみせる……。タカシおじちゃんの名に懸けて!!」
タカシおじちゃんとは、私の家の近所に住んでいるおじちゃんだ。毎朝、学校に行くときに挨拶だけをする存在……。何かを教わったことがあるわけでもなく、恋心を抱いているわけでもない。そんなモブな存在だ。
(う~ん、どうしよう…… 訳が分からない……)
私は、取り調べで書いたメモを見ながら考えていた。
『佐藤葵 大学生 20歳 アリバイ有り
佐藤葵 保険会社勤務 27歳 アリバイ有り
佐藤葵 専業主婦 24歳 アリバイ有り
佐藤葵 不動産会社経営 47歳 アリバイ有り
佐藤葵 旅行会社勤務 32歳 アリバイ有り』
私達は全員、ずっと行動を共にしていた。船でこの島に来るときも、港からこのメインロッジに来るときも全員一緒だった。
各自の部屋に荷物を置きに行くときも、ロッジの中の案内も兼ねて、みんなで移動していた。その間、いなくなったのはトイレに行った鈴木さんだけ…… つまり、全員にアリバイがあった。
(ダメだ…… 何も分からない……)
私は、一度、鈴木さんの遺体を調べることにした。
鈴木さんの遺体は、倉庫に移動されていた。私は彼のスーツやズボンのポケットを探った。すると、1枚の紙切れが見つかった。
(こ、これは…… まさかダイイングメッセージ……)
その紙を見ると、そこにはこう書いてあった。
『ハンニン サトウアオイ』
(……うん ……知ってる)
鈴木さんが最後の力を振り絞り書いてくれたであろう、このメッセージは何の役にも立たなかった。
私は他に証拠がないか、鈴木さんの遺体を調べた。
すると、私は2つの証拠を見つけた。
1つは、ナイフの刺し方から、犯人は左利きの可能性が高いこと。
もう1つは、鈴木さんが紺色の糸屑を握っていたので、犯人は紺色の服を着ていること。
私は、この2つを夕食のときに確認することにした。
私が夕食会場に着くと、すでにツアーコンダクターの佐藤さんがいた。彼は紺色のジャケットを着ていた。しかも、右腕に腕時計をしているので左利きの可能性が高い。
(こ、これは…… もしかして、犯人はツアコン佐藤!?)
「あの~ 佐藤さん、つかぬことをお尋ねしますが、左利きですか?」
「はい、そうです。流石は高校生探偵ですね! よく分かりましたね!」
(来た……来たわ! やっぱり、犯人はこの人! みんなが揃ったら、問い詰めてやりましょう!!)
私がそんなことを考えていると、参加者のみんなが続々と夕食会場に集まってきた。全員、紺色のジャケットを羽織ながら……。
(え? ま、マジ…… 紺色のジャケットって流行ってるの? そう言えば、この島に着いたときも、みんな紺色のジャケットを着ていたわ……。私ったら、うっかり~ テヘペロ~)
しかし、私はもう1つの証拠で犯人を絞り込めることを確信していた。
「あの~ この中に左利きの方は、いらっしゃいませんか?」
飛行機での「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか」のノリで尋ねてみた。
すると、全員が手を挙げた……。
(ぜ、絶望……)
夕食が終わり、自室に戻った私は再度事件を考察していた。
(振り出しに戻ったわ…… あの糸屑を鑑識の方が調べれば、誰の物かは分かる……。しかし、ここは絶海の孤島…… 悪天候も重なり、警察は明日にならないと来れないらしい……)
「仕方がない…… ここは探偵秘密道具の1つを使うしかない……」
私はそう呟き、カバンからある物を取り出した。
テレレテッテレー
「運命のサイコロ~」
説明しよう!
「運命のサイコロ」とは、どこにでもある普通のサイコロである。何かに迷ったとき、もう運頼みしかないよね~
私は「運命のサイコロ」を振って、出た目の人を犯人にすることにした。
どの目を誰に割り振るのか、メモをしていく。
1・・・鈴木さんの自殺
2・・・ツアコン
3・・・大学生
4・・・あーくん
5・・・あーちゃん
6・・・コワモン
(よし! 振るぜ!)
私はサイコロを振った。
(え? この人が犯人なの!?)
翌朝
全員が朝食会場に集まったのを見計らって、私は推理ショーを始めた。
「皆さん、まずはこれを見てください」
私は、鈴木さんのポケットから見つけたダイイングメッセージを、みんなに見せた。
「こ、これは……?」
大学生が尋ねた。
「これは、鈴木さんのダイイングメッセージです。犯人の名前、『サトウアオイ』と書いてあります」
「それじゃあ、結局誰が犯人か、分からないじゃないか!?」
コワモンが言った。
「いいえ、そんなことはありません。私達がこのツアーの参加者が『佐藤葵』さんばかりだと知ったのは、鈴木さんが殺された後……。つまり、鈴木さんにとっての『佐藤葵』さんは、1人しかいないんです」
「それじゃあ、もしかして、ツアーコンダクターの……」
あーちゃんが言った。
「いいえ、ツアーコンダクターの佐藤さんは、私達に会ったとき、苗字しか名乗っていませんでした。だから、鈴木さんには佐藤さんの下の名前を知ることはできなかった。それに、佐藤さんも皆さんの名前を知らなかったはず……。なぜなら、このツアーに申し込むには、苗字だけでも、ハンドルネームなどでも良かったからです……。実際に、私は『漆黒の堕天使カズミ』で申し込みました。ですよね、ツアーコンダクターの佐藤さん?」
「は、はい……その通りです。私も皆さんのお名前は存じ上げていませんでした」
ツアコンが答えた。
「じゃあ、何で被害者は、知っていたんだ……」
あーくんが言った。
「それは、元々の知り合いだったからでしょう……。そして、鈴木さんを殺した犯人は……あなたです!!」
私は、あーちゃんを指差そうとした。しかし、なぜか床に落ちていたバナナの皮に滑り、あーくんを指差してしまった。
「な、なぜ……、なぜ……バレた……?」
あーくんが言った。
(え? あーくんが犯人?)
「あいつは、俺のことを脅迫していたんだ!! 『大口の保険契約を打ち切られたくなければ、あーちゃんを寄越せ』って……。だから、俺はあいつをこのツアーに誘い出し殺す計画をした……」
「あーくん…… そ、そんな……」
あーちゃんが言った。
その時、足音が聞こえ、朝食会場に複数の警察官が入ってきた。
あーくんは逮捕され、警察に連行された。
こうして、私の初めての事件は無事に解決した。
(フゥー、ラッキー、ラッキー。これからは、『幸運の女神カズミ』にしようかしら……)
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