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第33話 転送と真実

手術室にたどり着いたものの、そこにあるはずの鏡がなかった。


「ルナ! ここは手術室で合ってるんだよな?」

「ええ、多分……手で触った感じだと映画と同じ手術台だと思う。でも、鏡が無いの」


鏡を壊さなければ映画の中から脱出することはできない。

しかし、その肝心の鏡がどこにも見当たらない。


沈黙の中、イヴァンが静かに言った。


「この世界から脱出するには映画と同じ方法で終わらせなきゃいけないんだよな?それなのに、あるはずの鏡が無いなんておかしいと思わないか?」


俺はイヴァンの言葉に頷いた。


「映画の通りならここには鏡があるはずだった。それなのに無い……って事は、この世界は映画そのままの世界じゃないって事か?」

「……それは、どういう事なの?」


ルナの不安げに問いかけにイヴァンは考えを更に深めた。


「最初に映画に閉じ込められた時は『ザ・ミラーズ・スラッシャー』の中だった。そこでミラーフェイスが現れた。そして俺が本当の顔をルナちゃんに渡して、ルナちゃんが炎の魔法で燃やすと映画が終わった。だけど今回は映画と内容が違うから終わらせる事が出来ない」


確かに、映画の終わらせ方の方法が無いなんて不自然だ……。


「そもそも、時の魔法で映画の中に閉じ込めれるなら、ミラーフェイスを倒した時にそのまま俺たちを捕まえればいいはずだ。それなのにわざわざ違う映画の中に閉じ込めた? 何のために……?」


イヴァンの声が険しくなる。


「……ヤバいな。映画館にスマホを置いてきちまった。もう時間がないか……」


何かを察したイヴァンが、急に俺に向かって言った。


「天空! 今スマホ持ってるか?」

「ん? ああ、ポケットの中に入ってる」

「貸してくれ! あと、絶対に目を開けるなよ!」

「は? 何言ってるんだ? まあ……いいけど!」


俺はポケットの中からスマホを取り出し、イヴァンに渡した。


「じゃあな、天空!」


次の瞬間――イヴァンは突然、俺を思いっきり蹴り飛ばした。


「ぐ、ぐはっ!?」


強烈な衝撃が俺の腹部に走り、俺は弾き飛ばされるようにして手術室の扉の外へと放り出された。


そして――


「……は?」


目を開けて俺が見たのは、手術室の扉ではなく鉄格子の牢獄の扉だった。


「……どういう事だ?」


混乱した頭で状況を理解しようとする。

だが、それよりも先に――


「イヴァン! ルナ!」


俺が叫んだその瞬間、鉄格子の牢獄の扉に鍵がかけられる音が響いた。


「どうやら、無事に出られたようだな」


冷静なイヴァンの声だが俺はまだその言葉の意味が理解できない。


「……どういうことだ、イヴァン?」

「分かったんだ。あの魔導士はずっと時の魔法を使っていたわけじゃない。俺たちは映画の中に閉じ込められたと思い込んでいたけど……実は違ってた。あいつの魔法は時間を操ってたんじゃなくて幻覚と場所の転移を使ったものだったんだ」

「思い込んでいただけ……?」

「ああ。俺たちは映画の世界に囚われたんじゃなくて幻覚を見せられながら別の場所に移動させられていた。最初からここに閉じ込めるための罠だったんだ」

「移動させる魔法?……転送魔法か」


その言葉と同時に、牢の床に魔法陣が浮かび上がる。


「きゃっ! な、何これ!? 体が動かない……!」


ルナの悲鳴が響く。


「くそ……やっぱりか……!」


魔法陣の輝きが徐々に強くなりルナとイヴァンの体を包み込んでいく。


「天空!」


イヴァンが鋭く叫んだ。


「俺たちがどこかに飛ばされたら、すぐに位置情報を送る! 映画館に置いてきた俺のバッグの中のスマホを使え! そこから俺たちの場所を特定してくれ! 頼んだぞ!」


光が一気に収束し、牢獄の中が白く輝く。


「イヴァン! ルナ!」


俺が叫んだ瞬間、光が弾け、二人は跡形もなく消え去った。

そして牢獄の中には誰もいなくなっていた。


「……絶対に見つける。待ってろよ。イヴァン……ルナ……」


俺はすぐにこの建物の出口を目指して駆け出した。

……ここは何処なんだ?


長い廊下を全速力で駆け抜ける。

そして突き当たりの扉を開けた瞬間見慣れた光景が目に飛び込んできた。


「ここは……!」


そこは、イヴァンと最初に合流し、ゾンビの大群と戦った映画館のホールだった。

よし、それならイヴァンのバッグがどこかにあるはずだ……!

辺りを見回し、俺は急いでバッグを探していた。


――しかし、その瞬間不意に背後から嫌な感じの声が響いた。


「おやおや、一匹取りこぼしましたか」


俺は反射的に振り向いた。

目の前にゆっくりと現れたのは土の精霊の魔導士だった。


「あなたが探しているのはこれですか?」


そう言って奴は悠然とイヴァンのバッグを掲げてみせてきた。


「てめえ……!」


俺は睨みつけながら一歩前に出た。


「イヴァンのバッグを返しやがれ!」


すると、魔導士は笑いながらあっさりとバッグを俺の方に向けて投げてきた。


「いいでしょう」


はっ?……あまりにも素直すぎるだろ。

また何か罠を仕掛けてるかもしれない……。

俺は警戒しながらバッグを拾い上げた。


「イヴァンとルナをどこにやった?」

「そのバッグの中にある携帯電話の位置情報を調べれば分かるのではないですか?」


……こいつ、全部知ってやがる。

イヴァンがそうするだろうことまで全部計算ずくかよ。


「いいでしょう。場所をお教えします」


魔導士は、余裕の笑みを浮かべながら言った。


「この近くに妖霧の山と言う特徴的な山があります。そのふもとの深い森を通り抜けると、大きな一本の木がそびえる草原に出るでしょう。我々はそこで待っております。まずは妖霧の山の入り口まで来てください」


「……我々?」


その言葉が引っかかった瞬間、別の入り口から静かに影が現れた。


「な、何?ミラーフェイスがいる……?」

「いいえ。今はただ姿をミラーフェイスに変えているだけです。本当の姿は土のゴーレムですよ」


 次の瞬間――


ミラーフェイスの体がぐにゃりと歪み、皮膚が砕け、土塊が剥がれ落ちていく。

剥がれ落ちた土の奥から灰色の岩が顔を覗かせ、目にあたる部分が光を灯した。


それは、巨大な石造りの人型、まさしく、土のゴーレムだった。


「では、お待ちしております」


魔導士が静かに手をかざすとその足元に淡く魔法陣が浮かび上がる。

同時に土のゴーレムの足元にも光が灯った。


「待て!」


俺が叫んだ瞬間、魔法陣が強く輝き二人の姿がかき消えるように消失した。

……くそ!

悔しさを噛み殺しながら俺は無言でイヴァンのバッグを開いた。

中を探るとすぐにスマホが出てきた。

急いで画面を確認し、知っているパスワードを入力してメールを開いた。

だが、イヴァンに貸していた俺のスマホからのGPS情報はどこにも届いていなかった。


冷静になれ、魔導士は言っていたじゃないか。

GPSがなくても、行くべき場所は分かっている。


俺はイヴァンのバッグを肩に掛け映画館の外に出ると、停めてあった自転車に乗って次の目的地へと走り出した。


しばらく走ると、制服姿の高校生たちとすれ違った。


「おい、あいつ、狭間天空じゃね?」

「ああ、そうだな」

「学校に行かないでこんなところで何してんだ?」


聞き覚えのある声が混ざっていた。

だけどそれどころじゃない俺は振り向かず、そのまま走り続けていた。


その姿を――

高校生の集団の中の一人がじっと見続けていた。


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