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『異界樹物語』  作者: 大井翔
第一章

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第31話 呪われた湖と本当の顔

イヴァンが動きを止めた。

驚きに見開いた目で、まるで別人を見たかのように俺を見つめている。


「俺に任せてくれって……お前、一人で戦うつもりかよ?」


「ああ、そうだ」


俺は短く頷いた。

迷いは一切なかった。

やるべきことは分かっている。


「こいつと真正面から戦ってもキリがない。ここは俺が時間を稼ぐ。だから――この映画を終わらせるためにミラーフェイスの本当の顔を見つけてくれないか」


声に出すことで決意が形になった。

落ち着いて告げるとイヴァンはゆっくりと視線を化け物に戻し、深く、ゆるやかに息を吐いた。

しばらくの間、重苦しい沈黙の中でミラーフェイスを睨みつけていたが、やがてその肩から力が抜けるように少しだけ顔を上げた。


「……分かった。お前を信じる」


そう言ってイヴァンは拳を軽く俺の肩に押し当てた。

その仕草には激励と託すという重みの両方が込められていた。

わずかに口元をほころばせながら、ぽつりと釘を刺す。


「でも……絶対に死ぬなよ。お前がやられたら俺は一生後悔する事になるからな!」


「ふっ……分かってるさ」


俺も笑った。

笑うことで恐怖を押し返し、重くなりかけた空気に少しだけ風穴をあける。

そして同じように拳をイヴァンの肩に返した。


「顔探し、頼んだぞ。イヴァン」


「任せろ、天空!」


イヴァンは振り返ると同時に地面を蹴りルナの方へ駆け出した。

足音が遠ざかっていく。

けれど俺は振り返らない。

その背中が見えなくなる前にすでに目の前の現実へと向き直っていた。


――ミラーフェイス。


この歪んだ空間を支配する存在。

本当の顔を見つけなければこの異常な映画の幕は下ろせない。

誰かが囮となり、その時間を稼がねばならない。

その役目は俺だ。


「――ふぅ」


一度、息を整える。

胸の内に渦巻く不安も恐れも全てこの一息に込めて吐き出した。

そして目を開く。


「……いくぞ、ミラーフェイス」


言葉は相手に通じるかどうか分からない。

だがそれは俺自身に対する宣言でもあった。


地を蹴る。

咆哮が喉から迸る。


「うおおおおおおおおおっ!!」


幕が上がった。


◇ ◇ ◇


天空がミラーフェイスとの死闘を繰り広げているその間もイヴァンとルナはひたすら湖の縁を駆けていた。

白く霞む水面の向こう、わずかに揺れる光の粒が波に呑まれて足元に散っていく。

だが二人は足を止めない。

胸を焦がすのはただひとつ――あの男に託された時間を無駄にしないこと。


「ねえ、天空を一人にして本当に大丈夫なの?二人がかりでも全然敵わなかった相手でしょう?」


湖畔を走るルナが不安の滲む声で問いかけた。

足取りは軽くとも、その言葉の重さは痛いほどに伝わってくる。

イヴァンはそれを振り払うように強く前を睨みながら答えた。


「大丈夫だよ、ルナちゃん。あいつが本気になるまでには少し時間がかかるんだ」


「……本気?」


「うん。天空は俺みたいにオーラを自在に操れない。でも別の才能がある。オーラが見えなくても、あいつの身体は時間とともに戦いに馴染んでいくんだ。最初は押されてても気づいたら攻撃を見切って無意識に反撃の形を作ってる。自分の体が勝手に形を変えていくみたいにね」


言いながらイヴァンはほんの少し口元を緩めた。

それは友への信頼からくる確信だった。


「格闘のセンスだけは……間違いなく天才なんだ、あいつ」


その言葉にルナは小さく息を呑み、横目でイヴァンを見た。

そしてやや驚いたような声で呟く。


「へぇ……なんだか野生の獣みたいね、天空って」


「……まぁ、そういうとこはあるかもな」


頷きながらもイヴァンの表情はすぐに引き締まる。

彼の視線は湖の向こう――まだ見えない場所をまっすぐに見つめていた。


湖畔を駆ける足音は次第にリズムを乱し始めていた。

イヴァンは走り続けながら小さく独り言を漏らし始める。


「俺が……俺が守らなきゃいけないんだ。天空を……あいつだけは、もうこれ以上、あんな顔をさせちゃいけないんだ……」


その言葉はまるで誰かに言い聞かせるような、あるいは自分を縛りつける鎖のような重さを孕んでいた。


「もしまた、俺のせいであいつが傷ついたら……今度こそ、本当に戻れなくなる……だから、だから……!」


拳を握りしめる音さえ聞こえてきそうなほどに、彼の手は強く握られていた。


「絶対に、守り抜く。今度こそ、裏切らない……!」


走りながら語られるその言葉にルナはじわじわと眉をひそめていった。

ふとした瞬間、横目で彼の顔を覗いた――そして足が止まった。


息が詰まり、背筋にひやりとした感覚が走った。

イヴァンの顔はどこか異様だった。

焦燥と固執がない交ぜになり、理性の奥で何かが綻び始めているような、そんな表情。

それは誰かを想う優しさを通り越し、どこか異常ともいえる執着の色すら感じさせるものだった。


「……イヴァン……?」


ルナはそっと口を開いた。


「ルナちゃん?どうしたの?」


イヴァンが立ち止まり、気遣うように振り返る。

だが、穏やかな声に反して瞳には張り詰めた緊張が浮かんでいた。


ルナは視線を逸らさず、まっすぐに問いかけた。


「イヴァン……あなたが天空の親友なのは分かってる。でも……どうしてそんなに天空のことを想っているの?」


一瞬、沈黙が落ちた。

ルナの言葉は決して責めているわけではなかった。

ただ純粋な違和感――それを口にしただけだった。


「最初はね、親友なら当然の行動だって、そう思ってた。でも……」


ルナの声は静かだった。


「あなたの言葉には友情だけじゃない何かが混ざってる。まるで……そう、償いとか、あるいは罪悪感みたいな……」


イヴァンの瞳がわずかに揺れた。

視線を落とし、肩がわずかに震える。

やがて彼は下を向いたまま呟くように口を開いた。


「……ルナちゃん。……ごめん。今ここで全部は話せない。俺は……天空にもまだ言ってないことがある」


その声には確かな痛みがあった。

何かを抱え込んだまま、ずっと誰にも明かせずにいたような――そんな声だった。


「でも……今はそれよりもミラーフェイスの本当の顔を見つけなきゃならない。あいつを救うためにも……それが、先だ」


ルナはしばらくその顔を見つめていたが、やがて静かに頷いた。


「……そうね。今は、先に進まなきゃいけないものね」


二人は再び走り出す。

だが、ルナの心にはイヴァンの言葉が深く残っていた。

彼の視線の奥にあった過去の影。

それが、いったいどんな記憶なのか――その影の正体をルナはまだ知らない。


イヴァンは走りながら、息を整える隙も惜しむように再び言葉を続けた。


「もしこの魔法の終わり方が映画の通りだとしたら……湖のほとりに小さな小屋がある。その前にかかった木の橋、その奥に停められてる古いボート。そいつの真下――沈んでる鏡の箱の中にミラーフェイスの本物の顔が封じられてるはずだ」


「……映画と同じ設定になってることを……祈るしかないわね」


ルナの声に切迫した焦りが滲む。

だが、祈るだけでは足りないのは分かっている。

だから走る。

ただ前へ、前へ。


風が二人の頬を打つ。

その時、遠くで轟音が響いた。

天空が今も戦っているのだ。

あの圧倒的な怪物と、ただ一人で。


彼に背中を預けた以上ここで立ち止まるわけにはいかない。


「急ごう、ルナちゃん。あいつに時間を稼がせたままで終わるわけにはいかないんだ」


「うん……!行こう!」


水辺を裂くように二人の影が闇に溶けて走っていく。

その先にある真実の顔を目指して――。


◇ ◇ ◇


ミラーフェイスはまるで獣のように低く唸りながら、肩を揺らして俺の様子を窺っていた。

その仮面の奥にある表情は読み取れない。

だが確かに――あいつは俺を見ている。


静寂を裂くように俺は短く息を吐いた。


「……来いよ」


挑発でもなく虚勢でもなく。

ただ真っ直ぐにそこに立ち塞がる怪物へ向けたまっさらな意志の一言だった。

地面を踏みしめた瞬間、ミラーフェイスが爆発した。

その巨体が地響きとともに一直線に突っ込んでくる。


――ドドドドドッ!!


あまりの質量に空気がねじれる。

信じられない速度。

巨体とは思えぬ加速。

目を逸らしたら最後、一瞬で呑み込まれる。


だが俺の目はもう逸らさない。


「見えてるぜ!」


その拳が振り下ろされる直前、俺は足をほんの数センチずらした。

紙一重。

皮膚をかすめるほどの至近距離でその衝撃をやり過ごす。


そして――


「……くらえっ!!」


カウンターを狙った拳を俺は全力で叩き込んだ。


「インフィニット デストラクション パンチ!!」


――ドゴォン!!


拳がミラーフェイスの脇腹に突き刺さった瞬間、鈍く濁った音とともに衝撃が奔る。

その一撃は地中深くに波紋を撃ち込むようだった。

肉でも金属でもない異形の存在に確かな手応えが伝わる――。


「ぐぉっ……!」


ミラーフェイスの巨体がたしかに揺らいだ。

揺らいだが、倒れはしない。

獰猛な反撃の気配がすぐに返ってきた。


「くっ――!」


ブォンッ!!


空気が割れる。

横薙ぎに放たれたその拳は腕というより鉄柱だった。

避けなければ一撃で全身がバラバラになる。

俺は低く腰を落とし、滑るように地面を這ってその拳の下をすり抜けた。


「――甘ぇな」


砂塵が視界を切り裂く。

ミラーフェイスの懐に一気に潜り込む!


「喰らえ!これが俺の新技だ!!」


足元から全身を一本の軸として――

地面の力ごと叩き上げるように渾身のアッパーを打ち放つ。


「アポカリプティック バニシング アッパー!!!」


――バキィィィンッ!!!


拳がミラーフェイスの顎を正確に撃ち抜いた瞬間、衝撃音が空気を裂き、巨体が一瞬宙に浮いた。

仮面の表面に走っていたひびが今や面全体を覆い始める。


「どうしたよ……?さっきまでの威勢はどこ行ったよぉぉぉ!?おらあああああ!!」


今がチャンスだ。

逃すわけにはいかない。

俺はさらに一歩踏み込み、拳と蹴りを乱打する。


ドガッ!ドガッ!バキィッ!!


連撃。

力じゃない。

重さ、角度、間合い――それらすべてを殺意に変えて打ち込んだ。

拳が仮面を打ち砕き、蹴りが胸板を深く抉るように炸裂するたびに欠片が音を立てて飛び散った。


――だが。


「ガァァァァァァァアアアアッ!!!」


怒声。

雄叫び。

ミラーフェイスが突如、両腕を大きく広げたかと思うと、次の瞬間――


「なっ……!?」


信じられない速度でその腕が俺を包み込むように迫ってきた。

逃げ場はなかった。

気づいた時には鋼のように固い指が俺の両肩をがっちりと掴んでいた。


「ぐっ……!!」


激痛。

骨が悲鳴を上げる。

血の気が引き、息が詰まるような圧迫感。

左右から押し潰されるような力が身体の奥まで染み込んでいく。


「離せっ……!この……っ!」


もがき、暴れ、肩をひねる――それでも逃れられない。

鋼鉄のような手はびくともせず、まるで巨大な罠に嵌められたようだった。


「くそっ、こいつ……!!」


息が詰まり、肺が膨らむ余地もなくなる。

頭が痺れ、意識がじわりと暗転していく。

――あまりにも規格外だ。


◇ ◇ ◇


湖の縁を走り続けていたイヴァンとルナの視界に、ついに目的の小屋が飛び込んできた。

それは薄霧に霞む湖と苔むした陸地の境界線に、まるで水面へと身を預けるようにして建っていた。

壁板はところどころ剥がれ、打ち捨てられた年月を語っている。

屋根も崩れかけ、今にも傾きそうなその小屋はまさしく映画に登場したあの場所と一致していた。


「……あそこだ!」


イヴァンが声を上げて先へと駆け出す。

小屋の前には一本の細い木製の橋が伸びており、湖へと突き出すように作られていた。

橋の表面は傷んでおり、板の一部は歪み、釘は錆び、わずかな踏みしめにも軋んだ悲鳴を上げている。


その先に――

古びた一艘のボートが係留されていた。


「イヴァン、あなた……泳げるの?」


ルナが不安げに問いかける。

だがイヴァンは振り返りざまに力強く答えた。


「ここで待っててくれルナちゃん!俺が行く。泳ぎなら得意なんだ!」


そう言い残すとイヴァンは慎重に橋を渡り、ボートのある場所へと足を進めた。

その下の湖面は信じられないほど静かで不気味なまでに波がない。


「……行くぞ」


独り言のように呟いて、制服のまま彼は湖の水面へと身を投じた。


――ドボォン。


水は驚くほど冷たかった。

全身が瞬時に凍え、肺にまで冷気が突き刺さるようだったが迷っている暇はない。

イヴァンはすぐに泳ぎを始め、ボートの陰の下へと潜っていった。


湖中は思った以上に暗く、濁っていて視界は悪い。

だが彼の目は確かにそれを捉えた。


「……あった……!」


映画で見たそのままの箱。

鏡のような表面を持つ金属質の箱が湖底の泥に半ば埋もれるようにして沈んでいた。

どこか禍々しい光を反射しながらまるで発見されるのを待っていたかのようにそこにあった。


必死に箱の蓋をこじ開ける。

水中の視界はぼやけていたが、その中身は――紛れもなくあれだった。


皮膚と骨を継ぎ合わせたような歪んだ顔。

感情を持たない骸のような表情が静かに水中で揺らめいていた。


「……これだ……!」


その瞬間――


――ズバァァァンッ!!


湖面が爆ぜた。

まるで巨大な岩が落ちてきたかのような水しぶき。

続いて聞こえたのは、かすかな怒声と遠くから誰かが叫ぶ声だった。


「イヴァン、急げ!!ミラーフェイスがそっちに行ったぞ!!」


天空の叫び。

しかし水の中にいるイヴァンの耳にはその声は届かない。


だが、水をかき分ける振動――それだけで十分だった。

奴が、ミラーフェイスがこちらに向かって突っ込んできていることを肌で感じ取れる。


「……くそっ、間に合え……!」


拳を握りしめる代わりに顔を必死で抱えたまま、彼は必死に水面を目指して泳ぐ。

肺が焼けつくように痛み、鼓動は耳の奥で凶暴に響き渡り、意識の淵を揺らす。


――バシャァァァン!!


水面を割って顔を出すと同時にイヴァンは力任せに顔を投げつけた。

目が眩むほど眩しい光が湖面に飛び出す。


「ルナちゃん!!受け取って!!」


それは――ミラーフェイスの本物の顔だった。


だがその瞬間だった。


冷たい感触。

いや、そんな生易しいものじゃない。

氷のような、鉄のような、禍々しさすら感じる腕が背後から回り込み――イヴァンの身体をがっちりと捕らえた。


「……っ!!」


咄嗟に抵抗する暇すらなかった。

水中に再び引きずり込まれる。

勢いはあまりに強く、イヴァンの意識は一瞬で暗い深みに飲まれていく。


刺すような冷たさの水に肺は限界を告げていた。

酸素が足りない。

心臓が暴れ出し、視界は揺れ、意識が遠のいていく。


――でも。


(ルナちゃん……早く……!)


喉の奥で叫びにもならない声が渦巻いた。

届かないことがわかっていても祈りのように空気を求め、彼の意志はまだ沈まなかった。


ルナの足元に水音を立ててずぶ濡れのミラーフェイスの本当の顔が転がった。

よく見るとただの骸骨ではなかった。

乾いた皮膚のようなものがところどころに貼りつき、黒ずんだ斑点のような変色が点々と浮かんでいる。

まるで時間に取り残された肉の名残のようだった。

そして何より――その空洞の奥で赤い光がかすかに瞬いた。


死んだはずの目が今もこちらを睨んでいるように見えた。


「うわ……気持ちわる……!」


ルナは顔をしかめ、ためらうことなく両手を前に突き出した。

その瞳の奥に迷いはなかった。


「ランベリ フローガ!」


詠唱と共に炎が舞い上がる。

瞬間、轟音とともに火柱が顔を包み込んだ。


――ボウッ!!


紅蓮の光が湖畔を照らしたその瞬間、空気が歪み、水面が突如として激しく波打ち始める。


「ギィアアアアアアッ!!」


耳をつんざく絶叫が、まるで湖全体から響いてくるかのように轟いた。

水中では巨大な影が暴れる。

ミラーフェイスの体が痙攣するように暴れ回り、その仮面には無数の亀裂が走っていく。

バリバリッ――無数の亀裂が走り、やがて仮面は崩れ落ちた。

そしてその異形の姿もまた水中へと沈み、波紋を残して完全に姿を消した。


ゴボゴボ……ッ!


湖面が揺れ、ほどなくしてイヴァンが水を割って浮上してきた。

肩で息をしながら、必死に岸へと泳ぎ始める。


「おい、イヴァン!大丈夫か!?」


岸辺にいた天空が叫び、すぐに駆け寄る。

イヴァンはなんとか岸まで辿り着き、ずぶ濡れのまま地面に崩れ落ちた。


「……ああ、なんとか……。ミラーフェイスは倒したのか……?」


「おう!ルナがやったぜ!」


「さすが……ルナちゃん……!」


イヴァンは水を滴らせながら笑い、仰向けに倒れ込む。


「……終わったのか、これで……?」


「ああ、この話はこれで終わりだ。この時の主人公はまだ生きて生還している。……さすがに『ザ・ミラージュ・スラッシャー20』まではやらないと願いたい……」


「げっ!『ザ・ミラージュ・スラッシャー』ってそんなに続編あるのかよ……」


笑い声が空気を緩ませた、その瞬間――

不意に空気が凍りついたように冷たくなった。


「ようやくクリアしましたか。なかなか……良い映画が出来上がりましたよ」


不気味な声が湖面から響き渡った。

三人が振り返ると霧のような水の中からゆっくりと一人の男が現れる。

紫のローブをまとい、眼差しだけが異様に鋭い。

魔導士だった。


「てめえ……!いい加減にしろよ!早くここから出せ!」


イヴァンが地面から起き上がり、怒りに満ちた声をぶつける。


しかし、魔導士は微笑みながら冷たく告げた。


「残念でしたね。お遊びはまだ終わっていませんよ」


その言葉とともに彼が杖をひと振りする。

すると三人の足元に無数の時計の文字盤が浮かび上がった。


時の針が狂ったように回り出す。

秒針は逆回転し、時間そのものが軋む音が空間に広がっていく。


「さて、次の映画は――ルナエレシア王女。あなたの恐怖を体験してもらいましょう」


杖を振り下ろした瞬間、空間が大きく軋み、風景が溶け出すように歪んでいった。

湖も、小屋も、波も、空も。

すべてが白に呑まれ、視界が一瞬で真っ白に塗り潰される。


――そして。

ドンッ……鈍くて冷たい音が床を打ち、三人の体を叩きつけた。


「……ここは……?」


ルナがうっすらと目を開け、恐怖に震える声で言った。


「天空……やばい……私、この場所、知ってるわ……!」


「……ああ、俺も……どこかで見たことがある気がする……!」


「間違いない……これは――映画『視線病棟』の中よ……!!」


その言葉を皮切りに冷たい闇が再び三人を覆い始める。

白く無機質な廊下。

壁には監視カメラ。

どこからか聴こえる無数の囁きとノイズ。


そして、天井裏から響くのは――あの忌まわしい視線の気配。

時の魔導士の狂気じみた笑い声がどこまでも続く。


新たな悪夢が忍び寄るように幕を開けた。

異界樹物語を読んで頂きましてありがとうございます。

ここから世界一面白いストーリーが展開していきます。


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