第15話 王家の血と上の世界への道
「ただいま~!」
イヴァンと合流し激戦を終えた俺たちは疲れ切った体を引きずるようにして家に戻った。
1階の居間に入ると俺は即座にソファーに横になった。
俺たちはさっそく今起こってる事をルナから聞く事にした。
何故ルナが俺の部屋に現れたのか?
何故ルナが化け物に変貌した精霊に追われてるのか?
俺にとっては謎だらけだった。
まず先にイヴァンに合流する前の深夜の出来事を話した。
イヴァンは黙って俺の話を聞きながら、スマホを取り出し何かを検索し始めたようだった。
イヴァンもまた化け物との会話を語り始めた。
俺はその言葉を聞き流さぬよう注意しながらスマホで今日の奇妙なニュースが無いかを検索していた。
そしてルナは真剣な表情で口を開いた。
「あんた達私が真剣に話をしようとしてるのにそのスマホとか言うのを見ながら片手間に話を聞こうとするのヤメロ~!」
「ああ、ごめん!ごめん!」
ルナは改めて真剣な表情で口を開いた。
「いい?私はここの世界の人間では無いの。ここは上の世界。私の世界からはそう呼ばれていた」
「上の世界?」
「ええ、あなた達から見たら私の世界は下の世界ね」
「下の世界……」
「私の世界では多くの人間がマギアという名前の魔力を持っていて魔法を使うのが当たり前なの。そして人間と魔物が一緒に暮らしていて、町やお城では魔物が人間の代わりに働いている」
「魔物が働く?あの精霊が姿を変えられたと言ってたけどそれが魔物って事?」
ルナは考えながらこう答えた。
「それが……私にも分からないの! 私の世界では精霊も野生の魔物も町から離れた森や山に行けば色んな種類がたくさんいる。でもね、町にいる魔物は私が生まれるずっと前から人間と共存していたのよ。町の魔物と野生の魔物はまったく別の存在で、それが当たり前だと思っていた……。 それに野生の魔物はもちろん町にいる魔物だって言葉を話せないわ。 人の言葉を話せるとしたら本来なら精霊だけのはずなのよ」
「ここに来てる魔物とかいうやつは元精霊なんだろ?言葉くらい話せるんじゃねーの?」
「問題はそこなの。元精霊って事は誰かによって精霊が魔物に変えられてしまったって事。そして私はそうなった秘密を知ってしまったかもしれないの」
俺は水の化け物がルナのお父さんを慕っていた事を思い出してルナに質問した。
「もしかしてその精霊を魔物に変えてしまったのがルナのお父さんかもしれないって事?ルナのお父さんは何者なの?」
ルナは一呼吸置いた後質問に答えた。
「私の父はアルテミスハースト城の王であるグラザール・アルテミスハーストなの」
「はぁ?」
「そして私の本当の名前はルナエレシア・アルテミスハーストよ」
俺とイヴァンは盛大に驚いた。
イヴァンは恐る恐る質問をした。
「え、えっとルナエレシアちゃんは王女様なの?」
「そうよ。だから私に対してもっと礼儀をわきまえなさい!」
「ええ~」
「まっ!ぎこちない関係は嫌だし私の事はこれまで通りルナでいいよ!」
「はぁ~」
俺はルナに質問をした。
「それでどうしてルナはこっちの世界にやってきたの?王女なら本来は自分の国に戻らなきゃならないはずだろ?」
ルナは神妙な表情をして俺の質問に答えてくれた。
「あの日私はいつものように魔法の訓練の為にお城を離れて森の中の魔法訓練所に行っていた。だけどその日は父上が別の国に行っていて多くの兵士達も父の方に同行していたの。魔法の訓練なんて元から全然興味がなかった私は、残った兵士達に見つからないようにしながら魔法訓練所の中の今まで行ったことのない部屋をこっそり見て回る事にしたの」
「ようするに魔法の練習をサボってたって事だな?」
「ん~まぁそうなんだけど元々素質が無かったから退屈だったしね。(王女が魔法を習う必要が無かったし……)そして、私は古い扉の前にたどり着いた。何故か半分開いていたから私はつい興味本位で入っちゃったの。だけどそこは精霊を使った実験場みたいな場所だった……。たくさんのカプセルの中に精霊たちが閉じ込められていたわ。でもその時の私は何をしているのか分からなかったから、この部屋で行われている事をもっとよく知りたくて更に奥へ進んでしまった。そしたら今度はたくさんのカプセルの中に魔物が入っていた部屋だったの。だけどその魔物たちの姿は……まるで町の魔物そのものだった。」
「つまり町の魔物はその訓練所の中で誰かの手によって作られていたかもしれないって事か……」
「私は魔物のカプセルが繋がってるケーブルをたどって行った。たどり着いたのは他の部屋とは比べものにならないほど厳重に鍵がかけられた部屋。小さい窓から薄っすらと人のような姿が見えて最初は怖かったわ。でもそれ以上に見た事がある顔を思い出して気になってしまった。だから覗き込んでみたの……」
俺はルナが急に息遣いが荒くなったのを感じた。
「おい、ルナ大丈夫か?話したくないなら休憩してもいいんだぞ!」
「大丈夫。話を続けさせて……。……そこにいたのは、死んだはずの姉上だった。カプセルの中で両手を手錠で固定されて、まるで囚われの身のように身動き一つ取れないまま。それだけじゃないわ。姉上の体には無数のケーブルが絡みつくように繋がれていた……」
俺はルナの話を聞いて心の底からゾッとした。
イヴァンもその話を聞いてとても驚いているようだった。
「……どうして姉上がカプセルの中に?私は今何を見てしまったの?頭の中がぐちゃぐちゃで考えがまとまらなかった。そしたら実験室の中に誰かが入って来る音がした。隠れる場所を探していた私は部屋の隅にあった階段の上から微かに光が漏れているのを見つけた。外に出れるんじゃないかと思って静かに2階に駆け上がったの」
ルナは更に神妙な顔をして俺たちに話してくれた。
「2階に行くとそこは出口じゃなくて見た事が無い機械が並んでるお部屋だった。私が近づくとその機械は青い光を放ちながら動いていた。私の世界では機械で動くものは珍しかったからそれは何かは今でも分からない。その場所にいても捕まってしまうからその部屋からどこか外に出れる出口は無いかなと思って私は辺りを探していた。そしたら男が入ってきた」
「ルナはその男に捕まってしまったのか?」
「いいえ、入ってきた男はウェルシュナー博士という人でその部屋の責任者のうちの一人だと言っていた。扉は厳重に警備されていて鍵もかかっているはずだと言われて、どうやって入って来たのかと聞かれたわ」
「だけど厳重に警備されてるはずの扉には誰もいなくて開いてたんだろ?」
「そう、私も彼に同じ事を言ったわ。そしたら彼はあり得ないと言っていた。すると機械が作動する音が聞こえたの。博士は私を連れ出しこの部屋から急いで出るように言った。だけど2階から降りる階段の扉には外側から鍵がかけらてしまって私達はそこから出る事が出来なくなったの」
「そのウェルシュナー博士も一緒に閉じ込められたのか?」
「ええ、博士は機械が発動したら私達死ぬと言っていた。その声は本当に全てを諦めたようだったわ。私もショックを受けていたけど、私だけはもしかしたら王家の血を引いているから運が良ければ上の世界に飛ばされて生き延びられるかもしれないと言われた」
「王家の血……?」
「何もする事が出来なかった私はそのわずかな可能性に賭けてただ待つしかなかった……」
「そして機械が発動して俺たちの世界にやってきたって事か。でもどうして俺の部屋に?」
「それは分からないわ。機械が発動した後私は異次元の空間に飛ばされてしまった。その後は時間の感覚が分からなくてとにかくずっと異次元の空間で彷徨ってた記憶があるわ。正直もうここで死んでしまうんだと思ってた。でも急に目の前に光の裂け目が現れたの。私は必死になってその裂け目まで移動した。そしたら天空のお部屋にたどり着いた」
俺は不思議に思いながらもルナに質問を繰り返した。
「じゃあ偶然俺の部屋に出てしまったって事?そんな事ありえるのかよ」
「それは私にも分からないわ。何故この家の中にたどり着いたのかも分からない」
イヴァンはルナの話を聞いて質問をした。
「そのウェルシュナー博士って言うのはどうなったの?そのまま死んじゃったのか?」
「分からないわ。天空のお部屋に出たのは私だけだと思うから。でもそういえばウェルシュナー博士は私に謝りながらガラスの破片で私の手の平を切って自分の持っていた薬に混ぜて飲んでいた。王家の血が必要と言いながら最後の可能性に賭けていたわ。異次元の空間に飛ばされる前までは私たちは恐怖を紛らわせるために手をつないでいたけどその後彼は私の傍にはいなかった」
イヴァンはルナの話を整理し、もう一度要点をまとめてくれた。
「……つまり、ルナちゃんを追ってきてる魔物は人工的に精霊から魔物に変えられてしまったけど、ルナちゃんのお姉さんの王家の血と次元を通る事が出来る機械でこっちの世界に来てるって事になるな。あの水の化け物が言っていた話と照らし合わせるとその可能性は高くなる」
「ええ、こっちの世界に移動する事が出来る精霊はいるけど魔物は出来ないはずだったわ。でも王家の血を引いてる魔物ならこっちの世界に来れるのかもしれない」
ルナの話を聞いた俺はますますルナを元の世界に帰すことはできないと感じた。
ルナが元の世界に戻るということは死ぬこと以上に過酷な運命が待っているという事だから……。
「ルナ大丈夫だ。俺たちが何とかしてあの化け物達から守ってあげるから。ルナはひとまず休んでて!」
「ええ、ありがとう。でも天空、次あいつらに負けたら承知しないよ?」
「ああ、分かってる」
ルナはそう言うと俺の2階に上がって俺の部屋に入って行った。
俺はイヴァンと一緒に今後新しい魔物が現れたらどうするかの対策を練ようとしていたが、イヴァンはルナの話の衝撃を受け止めきれずしばらく言葉を失って黙り込んでいた……。