第150話 パンドラを救うと誓った男と新たな力
タナエルたちの姿が地平の彼方へ消えた後も、三台の魔導装甲車は速度を落とさず走り続けていた。
荒野にエンジンの轟音が響く。
吹きつける風は鋭く、容赦なく頬を打った。
その時だった。
隣を走る魔導装甲車の屋根に立ち、風を受けていたカティフラクトが軽やかに踏み切り、俺の乗る車両へ飛び移った。
屋根に着地すると、わずかに体勢を整え、すぐにこちらへ視線を向ける。
「貴様、よくあの怪我で動けたものだ。一体どうやった」
「ああ。腕だけ動かせるように、エピメスに回復魔法をかけてもらったんだ」
「……回復魔法か」
言葉の後、沈黙が落ちる。
荒野を駆ける魔導装甲車の振動と唸るエンジン音だけが二人の間に響いていた。
やがてカティフラクトが口を開いた。
「魔影軍の軍団長が回復魔法を使えるとはな」
「それがそんなに変な事なんか?」
「当然だ」
彼は迷いなく即答した。
「回復魔法を扱える者が戦いの最前線に出るなど、敵に真っ先に殺せと言っているようなものだ」
その言葉は乾いた風の中で冷たく胸に響いた。
俺は何も言えず、ただ視線を前方の地平へ向ける。
しばらく、言葉のない時間だけが流れた。
やがて俺は小さく息を吐く。
「……あいつら、まだ追ってくると思うか?」
俺の問いにカティフラクトは間を置かなかった。
「いや、タナエルは慎重な男だ。次に来るときは戦力を揃え、確実に――いや、間違いなく殺しに来るだろう」
その断言は妙に現実味を帯びていた。
再び沈黙が落ちる。
意を決し、俺はもう一度口を開いた。
「なぁ……お前らは、本当に俺たちについて来て良かったのか?煌月家から追われる身になってしまっただろ?」
カティフラクトは何も答えなかった。
ただ一度だけ小さく息を吐き、無言のまま、車両のハッチを開けると車内へと降りていった。
俺も後に続くようにゆっくりと車内へ入る。
魔導装甲車の内部は薄暗く、床が絶えず震えている。
その瞬間、ルナが立ち上がった。
「あなた、その胸の傷……」
駆け寄る彼女にカティフラクトは首を横に振る。
「問題ない。それより今はパンドラ様を元に戻す方法を考えるべきだ。時間が惜しい」
その言葉に俺は思わず拳を握り締めていた。
爪が掌に食い込む。
ネクロスの魂に支配されたパンドラ。
脳裏に浮かぶ、あの、漆黒の瞳。
「あのハゲ野郎……。最初から分かってやがったんだ。あの鍵がネクロスの封印を解く鍵だって」
抑え込んでいた怒りが声の奥から滲み出る。
「そしてジェラントスの前で箱を開けさせるように仕向けた。パンドラの真実を知りたいって気持ちをあいつは利用したんだ」
俺たちは誘い込まれていた。
すべて仕組まれていた。
それが罠だとも知らずに。
「玄冥魔軍のアジトに戻ったら全部吐かせてやる」
俺は怒りを押し殺すように呟いた。
◇
やがて視界の先に大きな森が現れた。
アムネシアの森。
カティフラクトが隣の車両へ視線を送り、言った。
「ここで車を止める。煌月守衛軍もここで待機させるつもりだ。この人数で帝国のアジトに入れば目立ちすぎるからな」
三台の魔導装甲車がゆっくりと減速する。
やがて停止すると、隣の車両のドアが開き、ルージェが降りてきた。
カティフラクトが続けた。
「私はノソファエルに会いに行く。彼ならパンドラ様からネクロスの魂を引き剥がす方法を知っている可能性がある」
つい先ほどまで敵として戦っていた相手だ。
だが今は同じ目的で動いている。
ルージェが言う。
「……この状況では争っている場合ではない。我々も力を貸そう」
ルージェの言葉に短い合意の沈黙が流れた。
次の瞬間、玄冥魔軍の兵士たちが一斉に飛翔魔法を発動した。
彼らの背後で魔力が膨れ上がり、幾筋もの光の尾を引いて宙へと舞い上がる。
「急ぐぞ。一刻の猶予もない!」
カティフラクトの鋭い声が風を切る音とともに鼓膜を打つ。
俺たちは迷うことなく、森の奥に隠されたアジトへ向かった。
そこには、二人の影が俺たちを待ち構えていた。
ティモーリスとアミラだ。
「戻ったか」
ティモーリスの低い声。
だがその表情は険しい。
「ティモーリス様。状況が変わりました」
ルージェが一歩前へ踏み出す。
着地したばかりの俺たちを囲むように、森の冷たい空気が一気に張り詰めた。
「休戦を誓ったはずのパンドラですが、ネクロスの魂に体を乗っ取られました。煌月家は……再び脅威となりました」
ティモーリスの眉が深く寄る。
「……何故そのような事になったのだ」
ルナが城内で起きたことを説明する。
パンドラの箱。
ネクロスの魂。
そしてネクロスがパンドラの体を奪ったこと。
話が終わる頃には周囲の空気は重く沈んでいた。
ティモーリスが低く呟く。
「ノソファエルは……最初からこれを狙っていたのか」
その言葉の真意を確かめるように、俺たちはアジトの奥へ進む。
木の廊下を歩くたびに乾いた足音が響く。
やがて、ノソファエルの魂を封じている部屋の前に辿り着いた。
扉の前に立つ兵士が緊張した面持ちで敬礼する。
「開けろ」
ルージェが命じると、兵士は即座に扉へ手をかける。
重い扉がゆっくりと開く。
だが――中には誰もいなかった。
部屋の中央。
そこに描かれた魔法陣だけが淡く明滅していた。
「……い、いない」
俺は呟く。
「おい、ノソファエルはどこだ」
見張りの兵士が青ざめた顔で震える。
「わ、分かりません……誰も……誰一人として出入りしていません」
俺は一歩踏み出した。
呪符は剥がれておらず、封印も正常に稼働している。
それなのに――
中にいたはずのノソファエルの姿は消えていた。
「くそっ……」
拘束具に触れた俺の指先に伝わるのは、凍てつくような石の冷たさだけだった。
ティモーリスが低く言った。
「……早急に作戦を考えねばならぬ。深淵封鎖の間に集まってくれ」
誰も異を唱えなかった。
重苦しい空気を引きずるように、俺たちは深淵封鎖の間へと足を進めた。
◇
深淵封鎖の間。
石の壁に囲まれた広い空間の中央には石壇が据えられている。
かつてパンドラが魂転移の儀を行った場所。
ノソファエルの魂をその身から引き剥がした場所。
静まり返った空間の中、数人の影が集まっていた。
ダビネとエバーの姿もそこにあった。
重い沈黙を破ったのはカティフラクトだった。
「それで――パンドラ様を元に戻す方法はあるのか」
焦燥を押し殺した声だった。
ティモーリスは石壇を見下ろしたまま答えた。
「パンドラの体を支配している魂を追い出す方法ならば存在する」
わずかな沈黙が流れる。
全員の視線がティモーリスへ向いた。
「パンドラはこの場所で魂転移の儀を行った。その際、心の内へ入ったルナが魂魄分離の呪符を使い、ノソファエルの魂を追い出した」
ゆっくりと視線が上がる。
「同じ理屈だ。ネクロスの魂も理論上は引き剥がす事ができる」
空気がわずかに張り詰めた。
理論上――その言葉は希望よりも重く場に沈んだ。
カティフラクトがすぐに口を開く。
「その魂転移の儀は、煌月城では行えぬのか」
アミラが首を横に振った。
「不可能です」
はっきりした答えだった。
「魂転移の儀は、この森の精霊力を媒介にして初めて成立します。深淵封鎖の間以外では発動しません」
沈黙が広がる。
誰もすぐには言葉を発しなかった。
やがてカティフラクトが拳を握る。
「ならばネクロスをこの場に連れて来る他あるまい」
視線が鋭くなる。
「実際、貴様らは一度パンドラ様をここへ連れて来ているのだからな」
その言葉にエピメスが苦く笑った。
「それはパンドラの協力があったからです。今は違う。心までもネクロスに完全に支配されている。今のパンドラを眠らせて、この森まで運ぶなど……不可能だ」
空気が重く沈む。
誰も口を開かなかった。
その沈黙がパンドラを取り戻す希望が消えたことを告げていた。
カティフラクトの指がゆっくりと握り込まれる。
「他に方法はないのか。私の力が必要ならば、どんなことでも協力する」
その言葉を聞きながら俺は中央の石壇を見つめていた。
拳の奥には、あの時の衝撃と重みがまだ残っている。
俺はゆっくりと口を開いた。
「――俺が、ネクロスをここまで連れて来る」
その瞬間、全員の視線が俺へ集まった。
カティフラクトの目が細まる。
「何を聞いていたのだ。その方法が無いと言っているのだ」
俺は深く息を吐いた。
「簡単な話だ――俺が、あいつをぶっ倒す」
沈黙。
空気が凍りついた。
カティフラクトの声に怒気が混じる。
「……貴様は正気か。戦ってみて分かっただろう。ネクロスとの力の差は歴然だ。貴様が勝てる相手ではない」
その通りだ。
だから否定はしない。
「ああ、負けたさ」
はっきりと言う。
「だけど、あの時の俺には迷いがあった。パンドラの姿を見て全力を出せなかった」
脳裏に浮かぶパンドラの顔。
そして、あの漆黒の瞳。
俺はゆっくりと言葉を続けた。
「最後の一撃だけは違う」
カティフラクトの眉がひそめられる。
「手ごたえがあったとでも言うのか?あの時、片手で止められただろう」
「ああ、止められたさ。だけど――あいつは俺の力を止めきれなかった」
場が静まり返る。
俺は言葉を選びながら続けた。
「もし、あいつが本当に完全無敵なら、あんなに必死に俺の拳を掴んだりはしない」
決定打ではなかった。
だが、確かに届いていた。
カティフラクトの視線が鋭くなる。
「……貴様は自分が何を言っているのか理解しているのか」
「分かってる」
静寂が落ちる。
「ちょうどいい。カティフラクト、お前に見てもらいたい技があるんだ。ルナも付き合ってくれ」
二人は目を見開く。
「今、この状況でか?」
「おう!」
拳を握る。
「もしこの技が完成すれば、絶対にあいつを倒せる」
ティモーリスが静かに口を開いた。
「……我々は他の可能性も探る。念のため魂転移の儀の準備も進めておく」
それは俺の賭けを認める声だった。
そしてルナとカティフラクトと共に深淵封鎖の間を後にした。
◇
アジトの裏の森を抜けると視界が一気に開けた。
正面には空を遮るように切り立った巨大な岩壁がそびえている。
「……ここで何をする気だ」
カティフラクトは腕を組み、わずかに顎を引いたままこちらを見ている。
「見てろよ」
俺はゆっくりと目を閉じた。
空から森へ落ちた、あの瞬間を思い出す。
地面に身体が迫り、人生が終わるかもしれないと理解したあの時間。
死の恐怖はあった。
だが、それ以上に――この右手に全てを賭けるしかなかった。
「前は、空から落ちながらだった」
静かに呟きながら右腕を前へ伸ばす。
指先がわずかに震えている。
「今度は立ったまま、技として放つ」
右手だけに意識を集中させる。
……違う。
まだ散っている。
胸の奥、背中、肩、腹――身体のあちこちに散らばっていたオーラ。
あの時の感覚を思い出す。
左手で右腕をしっかり掴むと、身体の奥底にあったオーラが腕へと集中していく。
「うおおおおおぉぉぉ!」
左手を離し、掌を前へ向ける。
――ドォォンッ!!
遅れて空気が揺れる。
次の瞬間、岩壁の中央が内側へめり込み、地面が激しく震えた。
凄まじい地響きが足元から突き上げてきて、粉塵が遅れて舞い上がる。
数秒の沈黙。
風が白く濁った空気をゆっくり押し流す。
岩壁の中央が深く凹み、その周囲は放射状に砕け、崖の一部が崩れ落ちていた。
カティフラクトは何も言わなかった。
ただ目を見開き、崩れた岩壁を凝視している。
ルナの声が静かに響く。
「……全身のオーラを圧縮して放ったの?」
俺は荒い息を吐き、掌を見つめる。
カティフラクトが歩み寄り、陥没した岩壁を確かめた後、じっと俺を見つめた。
「……貴様、今のは魔法ではないな」
「ああ」
「だが、単なる打撃の衝撃波でもない。……衝撃そのものを凝縮して、空間に叩きつけているのか……?」
「……そうだ」
カティフラクトは再び岩壁へ視線を向けた。
「確かに威力はある。だが……今度は岩から離れて、同じ技をもう一度放ってみろ」
俺は頷き、数歩下がって距離を取る。
先ほどと同じように左手で右腕をしっかり掴み、身体の奥からオーラを右手に集中させる。
「うおおおおおぉぉぉ!」
――ドンッ。
衝撃の音が響いた。
だが、岩壁の表面を抉る程度で陥没には至らない。
カティフラクトは淡々と指摘した。
「やはりな。対象から離れるだけで威力が急激に落ちる。これではネクロスを倒す決め手にはならない」
事実だけを並べる口調だった。
彼は自らの左手で右腕を掴み、教え諭すように言った。
「私の魔法は、魔力の通り道を固定することで威力を保つ。それには幾度も訓練を重ね、練り上げてきた過程がある。だが貴様のそれは、私の表面的な動きを真似ているに過ぎん。器のない水が形を保てぬように、放たれた瞬間に散って当然だ」
冷たい言い方だが嘘ではない。
ルナが隣で頷きながら、補足するように口を開いた。
「そうね。天空の体に流れるオーラを視ると、確かに右手に集まってはいるわ。でも、掌を離れた瞬間にオーラが行き場を見失って、バラバラに逃げ出しているのよ」
「……オーラが分散しているわけか」
確かに近距離で放つなら殴るのと同じ感覚だ。
だが、距離が開いた瞬間に俺の制御を離れて霧散してしまう。
「惜しいところまでは行ってるんだけどなぁ。……どうしても、遠くに飛ばすイメージが湧かないんだよな」
ルナが少し考え込む。
「オーウェンも似たような技を使っていたわ。その時は体内のオーラが一点に集まって、それが一気に放たれていたわ」
俺はすぐに食いついた。
「それはどうやるんだ?」
ルナは一歩前へ出た。
真剣な顔で構え、空気を抱え込むように両腕をゆっくり左右へ広げる。
次に腕を大きく回し、地から天へすくい上げるように円を描いた。
すると彼女を中心に小さな空気の渦が生まれ、足元の枯れ葉がカサリと浮き上がる。
引き寄せたオーラを胸の前で合わせる。
一点を見据え、右手を後ろへ引き絞った。
「はあああぁぁ~!」
ルナは勢いよく右手を前へ突き出した。
静寂。
……何も起きない。
カティフラクトが眉を寄せた。
「貴様、何をふざけているのだ」
ルナが即座に振り向く。
「ふざけてないわよ!これでも真剣にやってるのよ!」
頬を膨らませ、両手を腰に当てた。
だが、さっきの動きを思い返す。
腕を回した瞬間に空気の流れが変わった。
ほんのわずかだが、確かに中心へと引き寄せられる感覚があった。
――オーラを集めるという意識か。
「よし、俺もやってみる」
カティフラクトは小さく息を吐いた。
呆れた様子だが、その視線は逸れない。
俺は岩壁の前へ進み出る。
両腕をゆっくり広げて胸を開き、身体の奥にあるオーラを胸の中心へ引き寄せる。
散らすのではなく集める意識で全身のオーラを渦のように右腕へと集めていく。
やがて肩、背中、腹、脚――体の隅々からオーラが濁流となって右腕へ流れ込んでいった。
「よし……行くぞ」
掌の奥に、はっきりとオーラの圧が生まれた。
今にも弾けそうな力が掌の内側で脈打つ。
俺は前を見据え、踏み込んだ。
「うおおおおおぉぉぉ!」
掌を突き出す。
カティフラクトもルナも息を呑んでその一撃を見守る。
――静寂。
風が抜ける音だけが耳に残る。
岩壁は微動だにしない。
「あ、あれ?」
俺は右手を見る。
掌には間違いなく爆発寸前の圧が残っていた。
だが、放とうとした瞬間にオーラは逆流し、外へ放たれなかった。
カティフラクトが淡々と言う。
「やはり、貴様の技ではネクロスに通じんだろう。別の方法を探るべきだ」
冷静な結論だった。
ルナが顎に指を当てる。
「う~ん、遠くに飛ばすイメージが出来ないなら……思いっきり投げてみたらどう?」
その一言で、胸の奥に眠っていた感覚が弾けた。
投げる。
遠くへ、一直線に。
「ルナ!それだ!」
俺はもう一度、壁へ向き直る。
遠くへ一直線に投げるイメージ。
あの投げ方を何度も練習したじゃないか。
肩を使い、腰を捻り、全身を一本の軌道に乗せる。
俺は左手で右手首を軽く掴む。
そして、投球動作のように、ゆっくりとワインドアップする。
左足に体重を乗せ、全身をバネのようにしならせる。
天を仰ぐように右腕を高く掲げた瞬間、身体の奥に散らばっていたオーラが一本の軸を伝い、全身の力が右腕へと収束する。
ルナが息を呑む。
「凄い……天空の右手に、オーラがどんどん集まってる……!」
カティフラクトの目も細くなる。
俺は一気に踏み込む。
左手を離し、腰を回し、肩を振り抜く。
そして掌を突き出す瞬間、左手で右手首をがっちりと押さえ込む。
軌道を最後までぶらさない。
「はあああぁぁー!」
――ドォォンッ!!
遅れて届いた凄まじい衝撃波が、岩壁を内側から爆破したかのように抉り取った。
直撃した中心が深くえぐれ、そこから無数の亀裂が岩壁全体へ走った。
次の瞬間――
轟音とともに、崖の一部が根こそぎ崩れ落ちた。
視界を埋め尽くすほどの粉塵が空へ舞い上がる。
俺は荒い息を吐きながら、ゆっくりと腕を下ろした。
掌が熱く、オーラの圧が肌を押し返す。
だが今度は――確かな手応えがある。
「……はぁ、はぁ……出来た」
胸の奥が震え、思わず笑みがこぼれた。
「やべぇ……すげぇ威力だ……」
ルナが目を見開いたまま固まっている。
「さっきと全然違う……集まったオーラがちゃんと飛んでる。遠くまで、一直線に……!」
カティフラクトは削り取られた岩壁を凝視したまま、しばらく動かなかった。
「……道理を無視した力だな。これならネクロスに通じるかもしれん」
認めたくないものを認めるような、重く低い声だった。
オーラはまだ荒い。掌の感覚も完全じゃない。
だけど――ネクロスに届く可能性が、ようやく見えた。
粉塵の向こうの岩壁を見据え、俺はゆっくり右手を開いた。
次はもっと正確に、もっと速く。
俺はもう一度、拳を強く握りしめた。
――パンドラを取り戻すために。




