第8話
夜風が平原にやってきた。
インモラルは前を見ると、テーブルに用意された食べ物がほとんどなくなっていた。
歓迎会はそろそろ終わりに近づいていた。
インモラルは席を立ちデザートを自分で持ってくると、
「さあ、私が作ったケーキです。」
いちごの入ったケーキは甘い香りがした。
インモラルは新入生一人一人にケーキをとってやった。
新入生40人は喜んでいた。
重要な話をするなら今だった。
インモラルは慎重に口を開く。
「今学期からはカリキュラムが大きく変わりました。皆さんがうまくついてこられたら、2ヶ月以内に東部大陸アカデミー全体で一番強い学生になるでしょう。」
「いや、私たちがいったいどうやって。」
生徒の半分がかすかに笑った。自信を与えるために言った言葉にしてはやり過ぎだという笑いだった。
「だめな理由があるんですか?」
インモラルが強く問うと、雰囲気が重くなった。
しばらくして、40人の中で一番体格のいい女子学生が話しだした。
「アンビションアカデミーは協会で順位が一番低いです。つまり、東大陸でもビリだということです。」
要するに現実性がないということだった。
インモラルは優しく言った。
「私が言いたいのは協会の順位を1位に変えるということではありません。ここで皆さんを他のアカデミーの新入生よりもさらに強くしてあげるという意味です。東大陸にいる同じ年の中で、皆さんが一番になるのです。」
とても背の低い生徒が手を上げた。
「いくらなんでも2ヶ月以内は厳しいのでは?」
「そうです。あり得ません。そんな方法があれば他のアカデミーもやるでしょう。」
確かに一理ある話だった。
インモラルは自信を持って口を開いた。
「いいえ、あり得ます。 そして、その方法は私のみができます。」
大柄な学生がくすくすと笑った。
「では聞こうじゃありませんか。」
言葉遣いが傲慢きわまりない。しかしこれで良い。学生は生意気だから学生なのだ。
「皆さんはダンジョンを攻略します。」
一瞬、平原を風が通り過ぎた。
食卓を囲んで座った生徒たちは、冷たい風ではないのに凍りついていた。
「2ヶ月以内ですか?」
「そうですね。2か月以内に。」
「普通はダンジョンを攻略するためには勉強だけでも1年と聞いているが…。」
インモラルはうなずいてそれに答えた。
「普通のアカデミーならそうです。しかし、私たちは最高になります。特に今回のシーズンにかける期待が大きいのです。」
すべての学生がおびえた。
体格の大きい学生だけが唯一冷静な表情だった。
「現在大陸のすべてのダンジョンにおかしな気流が流れています。これは協会新聞だけ読んでみても分かる事実です。元シーズンであるアカデミーの学生たちもそのために怪我をしたのではないですか?」
質問が鋭い。
「そうです。」
「ところで、どうやって私たちが2ヶ月以内にダンジョンを攻略するというのですか? 私たちも前のシーズンのようになるのではないですか?」
インモラルが答える直前だった。テーブルの端にいたアランは立ち上がって口を挟んだ。
「校長先生に無礼なことをしないでください!」
雰囲気がぴりついた。
アランが怒るとは誰も思っていなかったようだ。
アランはだれが見ても興奮していた。
女子生徒全員が何も言えず、アランの顔色ばかりうかがっていた。
女子生徒の中では体格の大きい女子生徒をにらんでいた。
インモラルはジェニーを手招きした。
「アランと一緒に校庭まで散歩に行ってこい。頭を冷まして。もし校門に人が来たら、私のところに来なさい。」
ジェニーはすぐにアランのところへ行った。
「ついてきて。」
ジェニーはアランを食事から連れ去った。
二人が消えた後だった。インモラルが口を開いた。
「話を続けます。まず、皆さんが前シーズンのようになることはありません。 今回のカリキュラムは私が作ったからです。」
食卓に座ったすべての学生が納得できずにいた。カリキュラムを変えたとしても、変わることはないという表情だ。
インモラルは続けた。
「そのカリキュラムとは、指導教授の特別性です。皆さんは誰よりも特別な教授。まさに私から直接講義を聞くことになります。」
生徒たちは驚いた顔をした。
日が沈む夕焼けがひときわ長く感じられるのは、学生たちが落ち着いていないからかもしれない。
インモラルは席から立ち上がった。
そして手を前に伸ばした。
しばらくして、強靭な一羽の鷹が空中に作られた。
氷でできた鷹は、羽ばたくたびに美しい氷の粉を舞い散らした。
氷鷹が空中を横切る間だった。
インモラルは今度は別の魔法を駆使した。
「火熱炎蛇。」
火をつけた蛇がテーブルにぱっと現れた。
蛇が長い食卓に沿って移動すると、通り過ぎたところに火がついた。
人が火傷をするほどの炎ではなかったが、かなり強烈な炎だった。
インモラルは魔法を使い続けた。
風がだんだん一箇所に集まっていく。インモラルの右手は風でいっぱいだった。
一瞬、ふっという音がした。
食卓にあった火が全て消えたのは、インモラルの手から飛び出した風サメによるものだった。
風の形をしたサメは火を全て食うと消えた。
「どうやったの?」
ある女子学生が理解できないという表情をしていた。
「さっきのサメは、火熱炎蛇のカウンタースキルではないじゃないですか!ところでどうやって火の軌跡を消したんですか?」
インモラルはにやりと笑った。
「カウンタースキルでなくても打ち返せるスキルがあります。ただそれは経験と知識だけが答えを教えてくれるのです。」
インモラルはそれらが私の頭にあるというふうに自分の頭を指しながら話を続けた。
「私はインモラル、アンビションアカデミーの校長です。誰よりも多彩な魔法を知っています。どうでしょう?私が作ったカリキュラムについてきてみませんか?」
束の間の沈黙。
そうするうちに、同時にあちこちから答えが飛び出した。
「はい!!」
「いいでしょう。2ヶ月以内にダンジョン一つを攻略する実力を身につけさせてあげます。 前のシーズンのようにはなりません。絶対にあんなことはありません。」
インモラルは自信があった。
強い力を望んでいる学生をあきらめない自信が。
生徒の成長を助けるのが校長の仕事だから。
一瞬、誰かが慎重に話した。
「えっと···では、剣術専攻の教授のレベルはどうなりますか?」
その質問を聞いて、約10名の女子学生が真剣な顔になった。
インモラルは入学願書を思い出した。
そこには剣術専攻を希望する者が10名いた。
さっきまで会話を交わしていた体格のいい女子生徒も剣術専攻だったのか、真剣な顔をしていた。
インモラルが口を開こうとした時だった。
「少なくともインモラル教授と同等のレベルであってほしいです!」
体格のいい女子学生が先に口を開いた。少し無礼なのではないかと、他の生徒が彼女を見つめたりもした。
インモラルは怒らなかった。
あえて言葉を絶ってまで意見を述べた理由を知っていたからだ。
体格のいい女子学生は不安がっていた。
不安な感情を隠すことができないのは、剣術専攻を希望した他の女子生徒たちも同じだった。
インモラルは尋ねた。
「恐れている理由は何ですか。」
何故かは分かっていた。
それでも返事を強要しなければならなかった。不安は輪郭がはっきりすることで消しやすくなる。
「校長先生が直接魔法を教えるなら、相対的に剣術科目はプッシュが弱いのではと思ったので…。」
普通のアカデミーならそうだ。剣術専攻と魔法専攻のどちらかに偏っているアカデミーが多い。
剣の道を進もうとする学生であれば当然の心配だった。
インモラルはゆっくりと話した。
「心配しないでください。皆さんに剣術を教えてくれる人は私よりレベルが高いです。しかも、東大陸でも剣術は最強です。」
剣術専攻を希望する女子学生10人の目が輝いた。
「本当ですか?誰なんですか?」
「剣神のケアス? それとも二刀流のライクシャ?それでもなければ、月光のアデル?!」
出てきた人物全員がインモラルのレベルをはるかに跳び越える傑物だった。
彼らは平均レベル300で、東大陸で一番の剣士たちだ。
ここにいる学生たちの入学金の10倍を払っても任用するのは難しいだろう。
インモラルは学生たちを眺めた。
「私たちの学校は多くの富を蓄えていません。それに剣の鬼才のほとんどは孤独に修練することを好みます。」
一言で言うと、彼らではないという意味だ。
期待に満ちていた女子生徒10人は一気に落ち込んだ。
インモラルはむしろ笑った。
その後落ち着いて話を続けた。
「ただ、うちの学校で剣術を教えてくださる方はですね。彼らよりもレベルが高いです。」
食事の席にいるすべての女子学生が驚いていた。
みんな興奮したあまり、どうしていいか分からないような表情だった。
「みんなびっくりしてるな。まあそれもそうか。」
太陽は平原の向こうへと消えかけていた。そろそろ歓迎会を終わらせなければならない。
インモラルは一人で食事の席を片付け始めた。
体格の良い女子学生だけが興奮を落ち着かせた状態であり、後に続いて片付け始めた。
体格のいい女子学生がインモラルのそばで手伝いながら尋ねた。
「私にだけ教えてください。私たちを剣の道に導いてくださる偉大な剣士のお名前を!」
「それはこれから感じる歓喜のために残しておくべきでしょう。」
「それではレベルだけでも教えてくださいよ~。」
他の生徒たちも掃除をし始め、耳をぴんと立てた。
インモラルは聞こえそうで聞こえないよう小さく言い放った。
「彼女のレベルは」
「……500です。」
掃除を手伝っていた女子学生は驚きのあまり石のように固まった。
他の生徒もあまり変わらなかった。
インモラル一人だけが黙々と掃除を続けていると、遠くからジェニーが走ってきた。
ジェニーは息を整え、インモラルの前に立った。
「校長。あなたの言う通り、校門に誰かが来た!」
「学生たちも見ているというのに、ため口で話すな。誰か来たんだ?」
「アダマント都市の実質的な頭!ルイビトン教主!」
インモラルはジェニーの首の横を手刀で軽くたたき、無礼を罰した。
その後インモラルはゆっくりと前に足を踏み出した。
「ジェニー、君が率先してここの掃除を終えた後、新入生を寮に案内しなさい。今日はみんながゆっくり休めるように。」
インモラルはジェニーの返事を待たなかった。
気になるのは校門にいる人だった。
インモラルはニヤリと笑った。
(ついに来たのか。東大陸の4大強者!レベルだけでも500!欲望の聖騎士ルイビトン!)
いつの間にか空には月が浮かんでいた。