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第6話

 インモラルはアカデミーに戻った。


 アカデミー開講まで残りわずか4日。


 クエストの締め切りは迫っているが、成果はなかった。


 ふと貧民街にあったことを思い出した。目標物をひったくるつもりだったがかえって金だけが飛んで行ってしまった。


 インモラルは校長室の机の前で嘆いた。


 これでは現実にいた時と変わりがない。まだ自分は中途半端な行動から抜け出せずにいる。


 インモラルは席から立ち上がった。


「いいだろう。まだ分からないことだ。今日は面接日だし何人来るのか見てみようじゃないか。市場の流れは大体把握しておいたから、足りない数はその時に満たすのでも遅くはない。」


 インモラルは冷静さを保とうとした。


 その後、窓を開けて外の風に当たっているといつの間にか昼になった。


 インモラルは身なりを整え、椅子に座った。


 もうすぐ学生が面接に来る時間だった。


 大学に入る前に面接を受けるように、アカデミーも同じく面接があった。


 対面で人柄、容貌、才能、出身を確認し、学校にふさわしい人材か判断した後、合致すれば合格通知を下して入学させる。


 特別なことはなにもない入学過程だ。


「普通のアカデミーだったらの話だが……。」


「アンビションアカデミー」のイメージはダンジョン事件で最悪だった。 そのため、入学願書も20件しか届いていない。


 クエストの達成条件は、新入生32人の誘致だった。


 失敗した場合、アカデミーは閉鎖される。


 現在時点で12人も不足しているのだ。


 もちろんそれも入学願書の数だけ学生が面接に来た時の話だった。


 インモラルは乾いた唾を飲み込んだ。


 すぐに校長室のドアをノックする音がした。


「どうぞ。」


 二十になったばかりのような顔つきの学生が入ってきた。


 女子学生で、かなり平凡だった。


「えっと…札を見てそのまま入ってきたのですが、面接場所はここで合っていますか? 助教教授がいないみたいで、尋ねる人がいませんでした。」


 インモラルは心の中でドキッとした。


 現在アカデミーで働く人はたった一人だった。


 この事実を明らかにしてもいいことはなかった。


「もちろんです。ようこそ。」


「えっと…ここは校長室とのことですが、まさか校長先生ですか?」


 インモラルは慈しみ深い笑みでうなずいた。


 実際は気が気でならなかった。面接を受けに来た学生が慌てた表情を隠すのが明らかに見えた。


 当然のことだ。普通、面接は専攻教授がする。


 面接を校長が直接するなんておかしい。


 面接は10分から15分で終える予定だった。


 インモラルは15分ぴったりまで時間をかけて面接をした。


 わざと話をして心をつかんでおくつもりだった。しかし、学生も馬鹿ではなかった。


 一通り時間になると、次の面接のためにもう出てもいいかと聞いてきた。


(営業ができなかったわけではないが…。)


 相手の心がすでに閉ざされていたため、どうしようもなかった。


 最初の面接者は帰っていき、2番目の面接者が入ってきた。


 予定されていた15分はあっという間に過ぎた。結果は同じだった。


 彼女もここにいる理由がないというような表情で校長室を出た。


 3番目の面接者はまだよかった。苦肉の策で急造したアイデアのおかげだった。


「制服を着る代わりに学科の上着のみ着てもいいですよ。」


 学生の心理を利用した広報が多少うまくいった。


 3番目の面接者は悩んだ表情で校長室を後にした。


(よし。まずはこのやり方でいこう。)


 インモラルは少し光が見えたようだった。3分ぐらいだ。


 3番目の面接者を最後に面接者の足が途絶えた。まさかと思って廊下の外に出たが、待機者が誰もいなかった。


「応募者20人のうち、 3人しか来てないだと?」


 あっという間に背中が汗だくになった。


 インモラルはぎゅっと目を閉じた。


 思ったより事がこじれていた。


(資本金も使い果たして影響力のある広報も不可能···。)


 中途半端な人間の結末はいつもこうだ。


 余裕がすっかり消えた渦中に、後ろから突然声が聞こえてきた。


 インモラルは目を開けて振り向いた。


「こんにちは、校長先生。」


 恥ずかしそうに声をかけてきた人は、胸にすっぽり入るほど背の低い男の子だった。


 その顔に見覚えがあった。


(目にかかった前髪、丸い目に将来イケメンになりそうな目鼻立ち。赤ちゃんアルパカのようなこの印象は···。)


 男の子はインモラルが治療費を出してあげたあの子だった。


 男の子はインモラルが治療費を出してあげたあの子だった。


 体が良くなれば一度は顔を出すと思っていた。


 しかしそれが今日だとは思わなかった。


 それにアダマント都市からここまでは遠い。


 汗のにおいがするのを見るに、純粋に歩いてきたような気がした。


 インモラルは言葉を選んだ。


「体調はどうだ?」


 男の子はまず、体のことを心配してくれたことに感謝の表情を浮かべた。


「ありがとうございます。校長先生のおかげで元気になることができました。」


 貧民街で育った割には格式ある挨拶だった。


 不器用なりに身だしなみにも気を使うのが可愛かった。


 ところで、どうしてこんな態度を取るのだろうか。インモラルはまさかと思った。


「よく来たね。まあまず中に入りなさい。」


 二人は廊下から校長室に入った。


 インモラルは男の子の目的に気づいていた。


 お茶まで入れてあげたのもそのためだった。


「私がここまで来たのは…。」


 男の子が注意深く口を開いた。善良さがにじみ出る声だった。


「…ここに来たのは入学をしたいからです。」


 インモラルはいつもよりさらに真剣に話した。


「真剣に悩んでみたのか?アカデミーに通うということは、君の未来がダンジョンに帰結するという意味だよ。」


 終わりは死に限りなく近い。


 すべてのアカデミーの学生はこの事実を認知している。


「はい。死がいつも私を狙っているのがいいんです。死線を越える私はこれからも強くなっていきますから。」


 王道ジャンルの主人公のようだ。


 いざ出発すると、戦士の姉、魔法使いの姉、聖職者の姉に囲まれて、昼夜場所を問わず、とても吸われそうな顔をしているというのに。


(見た目はエロいゲームの主人公だが、精神面は王道の主人公だからな。)


 いずれにせよ、人柄と容姿は合格点だ。


 ただ、アカデミーは才能と出身も見る。


 コミュニティによると、NPCの才能は平凡レベルだったと記憶している。


 ひたすら容姿ワンツールであるNPCというか。


(いや、どちみち憑依によってすべての大陸に不確定要素が追加されたはずだ。この男の子も強制的な手段を使えば何か才能を開花させることができる。)


 そもそも才能についてはそれほど悩む必要はなかった。


 一番弟子にするつもりはなかったからだ。


 では最後に出身はどうだろうか。この点は見るまでもなく脱落だ。


 校長室に重い空気が流れた。


 男の子が唾を飲み込むその時だった。インモラルはゆっくりと口を開いた。


「入学を許可しよう。ただし、授業料は入学してから返すんだ。そしてここ数日は私の使いとして働くように。」


「え?本当に…本当にそれでいいんですか?」


 実際、様々な物差しで測る必要すらなかった。


 すべて男の子に緊張感を与えるための時間稼ぎだった。


 ルイビトン女教主に会ってから、このショタNPCは無理にでも入学させるつもりだった。


 前回は持病のせいで手放さなければならなかった。


 チャンスが来た今、念のため多方面に苦心してみた。やはりその結論は有益だった。


 現在アカデミーの問題はこの一人ですべて解決されると断言する。


 この子自体が市場の流れであり、経営道具なのだから。


「さあ、これが入学願書だ。自己紹介部分は書かなくてもいいし、署名だけしなさい。すぐに仕事を始める必要がある。」


 男の子は嬉しそうな顔で紙とペンを渡された。


 入学願書はあっという間に作成されていった。最後署名欄にサインをすれば終わりという時だった。


 校長室がぱっと開き、1人の女性が入ってきた。


 腰はスリムで、お尻の輪郭がはっきりしているあの体は前に見たことがあった。


 校長室に入った女性は男の子の姉だった。


「アラン!……トイレに行くんじゃなかったの!?一人で校長室に来て何をしているのよ?」


 男の子が口を開いた。


「姉さん、僕はこの学校に。」


 途中で言葉が切られたのは、インモラルが代わりに叫んだからだった。


「君の弟が直接来て言った。力をつけたいと。自分の姉を守らなければならないと。自分の姉を愛していると!」


「いや、私はそこまでは。」


 インモラルはまたもや言葉を遮った。


「そんな弟の覚悟を君が阻む資格があると思うか?弟が病気になったことも知らなかったくせに?」


 突然入ってきた金髪の女性は石のように硬くなった。


 女性は顔が赤くなり何もできなかった。


 インモラルは今だと思い、入学願書をもう一枚出した。


「君の弟の成長を目の前で見る機会を与える。ただ入学したら、言われたことを文句を言わずしなければならないだろう。」


 インモラルは金髪の女性が男の子の入学に反対するということは大まかに想定していた。


 そのため金髪の女性を助教に抜擢し、こき使おうという心算だった。


 女性は返事がなかった。迷っているのだろうか。


 インモラルは腕が痛いというふりをした。


 インモラルは腕が痛いというふりをした。


「アカデミーを卒業すれば、弟が病気になった時何もできないなんてことはないだろう。」


 その言葉を静かに添えると、


 金髪の女性はぐずぐずしながらも結局願書を受けとった。


 日の照りつける午後。


 校長室にはペンの音が響きわたり、2人はそうしてアンビションアカデミーの学生になった。



 1時間が過ぎた。


 男の子の名前はアラン。姉の名前はジェニー。


 その二人から入学願書を受け取ると同時に仕事を与えた。


 まずジェニーにはアカデミー建物の入口に立って面接者を校長室まで案内してほしいと頼んだ。


 一方、アランには校長室の隣の席に座らせた。


 書記のように、会話の内容を書くよう指示したが、正直にいうと人寄せパンダの役割だった。


 インモラルの予想は的中した。


 アランとジェニーを入学させ、午後に計3人の面接者が来た。


 彼女たちは皆、書記として座っているアランをちらりと見て積極的に面接に臨んだ。


 午前に面接を受けた3人とは態度がまったく違っていた。


 午後の面接者3人は最後に同じ質問をした。


「隣にいる書記の方は学校で働いている方ですか?」


「そうではありません。あなたと一緒に入学する学生です。」


 その言葉を投げた時、面接者はうれしくてたまらないという表情だった。


 嬉しくてたまらないのはインモラルも同じだった。まるで自分の手のひらで市場の流れが転がっているようだった。


 いつの間にか日が暮れた。


 インモラルは悩んだ末、アランとジェニーをアカデミーの裏に設けられた寮へと送った。


 寮は片付けがまだ不十分だった。


 一旦二人を休ませ、朝起きたらジェニーにだけ寮を掃除するよう命令しておいた。


 ジェニーは意外にも不満を言うことはなかった。


 アランにこっそり理由を聞いてみると、朝食、昼食、夕食を適時に食べられるからだという。


 インモラルはなんだか苦しかった。もちろん、だからといって仕事を減らしてはあげることはなかった。


 すべて面倒をみていれば事業にはならない。


 それより気を使わなければならないのは開講日だった。


 インモラルは校長室にアランを呼び寄せた。


「昨日徹夜で作ったアカデミーの学科の上着だ。今年度は学科別にクラス分けをしないから、学科上着と呼ぶにはちょっとあれだが…。それでも結束を示すのにこれほどのものはないだろう。」


「変わった見た目の上着ですね。」


 それもそのはず。


 現代の服を参考にして作ったのだから。


「自主制作だからだよ。正確な名称はジャンパーだ。学科ジャンパー。略して科ジャンとも言う。」


「科ジャン…。」


 アランは家宝を受け継ぐような表情で注意深くジャンパーを受け取った。


 インモラルはアランのにこにこした目を見て命令した。


「ジャンパーを着てアダマント都市に行ってきなさい。訪問しなければならない教会は計5つだ。到着したら司祭にこの張り紙を渡しなさい。連絡は既にしてあるから、教会内の掲示板に張り紙を貼ってくれるそうだ。」


 アランは張り紙を受け取って読んだ。


「開講日が3日しか残っていないなんて、初めて知りました! 当日に面接に来ても入学を許可するという内容のようですが、私がこのような貴重な任務を受けてもいいのでしょうか?」


「恐れる理由は何だ?」


「貧民街出身の私がこの服を着て歩き回ったとして、学生たちがこれ以上来なくなるのではと心配です…。」


 インモラルは目を見開いて言った。


「笑いが出るね。胸に刻みなさい。君は今やアンビションアカデミーの学生だ。いつかすべての大陸人が最高だと認めるようになるアカデミー、まさにこのアンビションアカデミーが君の出生であり、身分となるのだ。」


 アランは背を向けた。


 インモラルはアランが涙を隠すために急いで背を向けたことにすぐに気づいた。


 インモラルはアランの背中を強くたたいた。


「行ってこい、アラン。3日後、その服は私たちの自慢の物となっているはずだ。」

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