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第5話

 いつの間にか日は完全に暮れていた。


 インモラルは月が空の真ん中に来る頃になってようやく足を止めた。


 アダマント都市の高い城壁。


 インモラルが到着した場所は城壁の近くに位置した貧民街だった。


 貧民街まで来ると、男の数が目に見えて減った。


 目に入る人たちはみんな女性だ。


 夜に男性がいない理由は、女性が全般的に男性よりも強いためだった。


 これは「滅亡する世界のアカデミータイクーン」の土台設定だ。


 ゲーム自体も傾いた性比を持っていた。


 男性NPC1人当たり、女性NPCは20人。


 すべての大陸が女性の人工受精を当然視し、不調和性比に大きな疑問を持たない。


 ゲーム会社側のインタビューが思い浮かんだ。


(極限の難易度を楽しむ日本人を満足させるためには仕方がなかった。)


 最初はこれの意味が分からなかった。


 オープン1時間後、男性キャラクターを作ったユーザーがメスのゴブリンに強姦されて死んだという話を聞いて、後になって気づいた。


 世界に設置されたモンスターの95%はすべてメスだ。


 残りの雄は大体弱体で、これは人間種も同じだった。


(男として生きていくということは、どちらにせよ難易度が高いことだ。)


 これがゲーム会社の本当のメッセージだったのだ。


 皮肉な方法ではあるが、インモラルは何度もゲームをプレイしたため慣れていた。


 真っ暗な夜にひっそりとした貧民街の女性NPCだけがうろうろする状況の中でも、落ち着きを失わなかったのもそのためだった。


(記憶が正しければ、ユーザーの間で人気絶頂のショタNPCがこの貧民街に住んでいるはずなんだが。)


 インモラルは貧民街の路地へと入って行った。


 女教主に捧げる供え物がこのどこかにあった。


 性比が傾いたせいで、ほとんどの女性は飢えている。 ルイビトン女性教祖も同じだ。それに趣向が気難しい。


(可愛い見た目と善良な心を持った男性。)


 インモラルはそんなNPCを探すために路地を歩き回った。


 貧しいが善良な心を持ったNPCが確かにここに住んでいた。


 ただ、出現時間や居住場所までは覚えていなかった。


 足が痛かった。汗の臭いもすごい。


「こんな夜中に中年のおじさんが汗臭さを漂わせてるの?」


 インモラルの前に5人の女性がのそのそと現れた。


 インモラルは貧民街の路地の真ん中に囲まれてしまった。


「中年の汗の臭いがいいということなのか?好みが実に独特だな。」


「自分が走っていたのに年齢なんて関係ない。それにあなたも本当は望んでるでしょ?」


「俺が?」


「貧民街で汗を流しながら歩き回るなんて、自分を食べてほしいという意味じゃなければ何?」


 なるほど、彼女らの立場ではそうするに値する。


 アカデミーの校長であることがわかれば、勝手に逃げるだろう。


 インモラルは口を開いた。


「私はインモラルだ。道を開けたまえ。」


「…インモラル?」


 反応を見た感じ、全く分かっていないようだった。


 5人の中で一番前にいる女性が言った。


「インオーラル?名前からすごくやらしいわね?」


 インモラルは呆れて笑ってしまった。


「笑ってるの?ねえ?私たちがおかしいの?」


 インモラルを取り囲む女性たちの目は尋常ではなかった。


 貧民街の人々であるため武器が飛ぶ可能性もあった。


 女たちはそれぞれ角材やガラス瓶を握っていた。


「さっさと終わらせよう。俺は女だからといって手加減はしない。」


「男のくせに命令するな。かじかむ股を広げなさい。」


 女性の5人中4人は、すぐにでもインモラルを襲おうとした。


 たった1人の女性だけが状況を見守っていた。


 インモラルは集団の頭領を一気にとらえた。


 簡単に1人だけ制圧して状況を終わらせようとした。


 しかし、それよりも前にインモラルに4人の女が飛びかかった。


「すき間をねらうのよ!」


 威嚇的な角材とガラス瓶がびゅうびゅうと振り回された。


 インモラルは体を軽く動かして攻撃を全てかわした。


 貧民街の人々のほとんどはレベルが10未満だ。


 一方で、インモラルのレベルは90だった。


 インモラルはあえて魔法を使わなかった。


 拳を握りしめて凶器を持った女を攻撃した。


 インモラルは慈悲がなかった。拳1発で1人。


 インモラルを攻撃した4人の女性はすぐに地面に倒れた。


 インモラルは一人残された女性の方へ歩いて行った。


 親分だと思った女性は他の4人よりも体が小さかった。


 身長も一番低く、胸はほとんどなかった。


 ところが妙に可愛い感じがする。それに貧民街の人にしては衛生的でおとなしく見えた。


 インモラルは女性を前にして頭をかしげた。


「目にかかるか、かからないかくらいの前髪。丸い目にはっきりとした目鼻立ち。赤ちゃんアルパカのようなこの印象は···」


 女は恐怖心から縮こまっていた。


 インモラルは女性の腕を無理やりつかもうとした。


「何をしている!私の妹から手を離せ!」


 一人の女性がいつの間にか路地に入ってきて、インモラルを阻んだ。


 インモラルは一歩後退した。


 路地に入ってきた人はみすぼらしい服でありながら、体のラインを生まれ持った女性だった。


 腰はスリム、お尻は輪郭がはっきりしていて弾力があるようだった。


 女性はすらっとした長い脚で一歩でインモラルの前に立った。


 すぐ荒々しい声が続いた。


「なぜ私の妹をむやみに触るんだ?年老いたやつが年甲斐がない。」


 口が荒い。顔と血気を見て20代前半のようだが、年齢に比べて背が少し高い。


 目つきも怖く、髪色まで冷たい金髪であるから少し怖い。


 現実であれば強い目つきに圧倒され、返事すらできなかっただろう。


 しかし今は違う。


 インモラルはレベルが90だ。ブロンド女のチンピラなんか、レベルの面では最弱スライムだった。


 インモラルは恐れることはなかった。


「大人に対して礼儀がないやつは年甲斐があるのか?言葉に気をつけろ。」


「気を付けるのはその汚いズボンの下にある欲情だろう。」


 相手の荒い言い方は少しもよくならなかった。


 力で制圧しようか。いや、目標物を見つけた以上、事を起こす必要はなかった。


 この女性がターゲットと親密な関係ならなおさら。


 適当に怖がらせるだけだ。


 インモラルは、すべてを知っているかのように話した。


「私は同性には興味がない」


「……なんだと?」


 金髪の女性はその時やっと慌てた様子を見せた。


「男に興味ないと言っている。」


「ボケてるのか?何を言ってるんだ?」


 インモラルは金髪の女性の後ろを指差した。


「ほかの人は騙せたんだろう。背が低くて可愛い外見だから、短髪の女性に見えるのは当然だ。それでも俺は騙せない。」


 最初は親分だと思っていたが、勘違いだった。


 幸運にもターゲットに簡単に出会うことができた。


 金髪の女の後ろに隠れているあの男の子が、ユーザーの間で人気絶頂だったあのショタNPCなのだ。


 ファンの集まりにふさわしい外貌だった。ゆったりとした服を着ると、ただの女に見えた。


 あの場合はわざと女のふりをしていたのだろうが。


「この卑猥な老人が…!私が来る前にもう手探りしていたのか!」


「言葉に気を付けろと言ったはずだ。貧民街に噂を流してやろうか?お前の愛する妹が実は男だったと。」


 金髪の女性は体を震わせた。


 インモラルはくさびを打ち込んだ。


「困ったな?そうするしかない。この剣難なところで、あのかわいい子が実は男だということが明らかになってみろ。」


 金髪の女性は顔をしかめた。


 インモラルはそれに対してわざとさらに嘲弄した。さっき聞いた荒っぽい言葉の復讐だった。


「貧民街の人々が皆集まって、お前の弟を犬のように食い出すだろうな。お前が止めても5分ももたないと思うが?お前は自暴自棄になって残りの一口でも食べるだろう。」


 貧民街のひっそりとした路地に静寂が舞い降りた。


 しばらくして、金髪の女性は勢いが衰えず、目元に涙を浮かべていた。


 弟をそれほど愛しているようだった。


「…私に何を望んでいる?」


 インモラルが本当に悪い大人であれば、金髪の女性は屈服した瞬間から奴隷状態になっただろう。


 インモラルは価値のある学生を求めに来たのであって、奴隷を求めて来たのではなかった。


「お前の弟にアカデミーの学生として来てもらおう。」


 金髪の女性は驚いた表情だった。


 続いて、インモラルが校長だという事実も知ると、戸惑いながら途方に暮れた。

 インモラルは金髪の女性の後ろに向かって言った。


「お前のお姉さんも寂しくないようにしてやろう。私と一緒に行こう。」


 考える時間は十分与えた。しかし、帰ってきたのは静寂だった。


 インモラルは不思議そうな表情で金髪の女性の後ろを見た。


 小柄な男の子は目が半分閉じていた。すぐに男の子はふらっと倒れ込んだ。


 インモラルは深刻な状況であることがすぐに分かった。


 男の子に駆け寄りすぐさま彼を背負ったのもそのためだった。


 インモラルはすぐに治療所に駆けつけた。



 空の真ん中に月が浮かぶ夜。


 インモラルは暗い路地を横切って貧民街に最も近い教会に到着した。


 小さな治療スペースに男の子を寝かせた。その後、すぐにセラピストを呼んだ。


「若いのになぜここまで放っておいたのだ?まったく…。」


 司祭服を着た老婆のセラピストは、到着するやいなや舌打ちをした。


 インモラルは丁寧に尋ねた。症状を治療できるかどうかを確認するのが優先だった。


「体調が悪いとおもったときにすぐ来ないとね。ここまで来たら時間も魔力もかなり消耗するんだ。少し大きな作業になってしまった。」


 インモラルは表情をやわらげた。


 とにかく治療できるという意味だったからだ。そして、それとなく病名について聞いた。


「病魔そのものは珍しいものではない。男性だけが経験する症状で、10代の終わりに必ず一度は荒れるしかないからね。」


 インモラルは病名と説明を聞いて不思議に思った。


 ゲーム内でこの病気に触れたことがあった。セラピストが舌打ちするほどの病気ではなかった。


 セラピストが大きな作業だと言っていたため、詐欺を働いていると考えた。


 しかし、すぐに詐欺ではないことが分かった。


 セラピストは残念そうな顔をしていた。


「発病初期が大変だから、皆すぐ協会に来るんだ。初期だと金額そこまで高くないし、時間もかからない。それなのになぜ今来たのか…。」


 インモラルは一緒に来た金髪の女性をちらりと見た。


 彼女は全く知らなかったという表情でぶるぶる震えていた。


 インモラルは状況を理解した。もともとお金がなければ体に異変があっても我慢するようになる。本当に貧しく生きたことのある人だけが知っていた。


 小さく設けられた治療空間に、しばらく静寂が起こった。


 インモラルは慎重に何日かかるかを尋ねた。


「丸一日かかるだろう。状況によっては珍しい麻酔ポーションも使うつもりだ。」


「分かりました。ではそれでお願いします。」


「分かったとは言ってもポーションの代金まで合わせると30ゴールドを超える。貧民

街出身なら一日中、6年間毎日働いてやっと稼げるお金だよ。」


 老婆のセラピストが冷たい目をした。さっきからそわそわしている金髪の女性が気になるようだった。


 あえて貧民街出身を例にしたのもそのためだ。


 お金がなければ消えろということだろう。


 世の中は言うまでもなく冷たいものだ。


 老婆のセラピストが最後に尋ねた。


「できるかね?」


「私はアンビションアカデミーの校長であるイムモラルです。無礼を言うのも程々になさってください。正直に言うと、実力の確かな知り合いに任せたいところなのですが、急いでいるのであなたに任せるだけです。」


 インモラルは重い声で話を続けた。


「治療が完全に終わったら、アカデミー宛に代金をつけておいてください。間違いがないように。」


 老婆からはさっきのような生意気さが消えていた。


 分かったという言葉と共に振り返り、補助治療士に指示をして治療準備を始めた。


 インモラルは歩を進めた。


 治療を見守るほどの余裕がなかった。


 そろそろアカデミーに戻って休憩を取らなければ。


 教会の外に出る直前だった。


 男の子の姉である金髪の女性が入り口に割り込んできた。


「私はあなたに助けてくれと言った覚えはない。」


 インモラルは目を見開いた。


 そして続く声には怒りが溢れていた。


「これ以上私を刺激するな。もう一度犬のような態度で話せばその口を裂いてやる。大切な人一人すら守れないくせに調子に乗るなという意味だ。 私がその気になれば、これを口実にお前の弟を強制的に入学させることができた。そうしなかったのはなぜか分かるか?」


 金髪の女性はそっと身震いした。


 インモラルは続けた。


「貧乏という理由で未来が決まる人生は、犬のように悔しいからだ。」


 バタン教会の門が閉まった。


 インモラルは外に出た。夜明けの空気が月夜の下をかすかに回っていた。


「チクショウ。慈善事業なんて性に合わないのに。」


 インモラルはしばらくの間、理性を手放して前を向いて歩いた。頭を冷やすには冷たすぎる夜だった。

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