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第13話

 円形競技場となっていた平原は元に戻っていた。


 平原の中央にあったアデルも今は見えなかった。


 平原に残っているのは少数の生徒だけ。


 それさえも帰る準備をしていた。


 そんな状況で、急いで平原に駆けつけるのはアランだった。


「何をしていたらこんな遅くなるの?」


 アランを見つけたジェニーがそう尋ねた。


 息を整えるアランは質問に質問で答えた。


「インモラル校長は?戦いはどうなったの?」


「もう終わったわ。あなたが好きでたまらないインモラルが簡単に勝った。」


「やっぱりさすがだな···!」


 ジェニーは呆れた。


「やっぱりって、レベルの差が100もあるのにお前はそれでも勝つと思ったってこと?」


「あの方は違う。何か僕みたいなものとは違うんだ。だから勝つしかないんだよ。」


 ジェニーは髪をねじった。冷淡な金髪をくるくるとするのは機嫌が悪いという意味だった。


「それがどうしたっていうの?どうせあの人もただの同じ人間よ。」


「まあ、運命の値が違うってことだよ。僕が背負わなければならない運命の値と、校長が背負った運命の値···。勝つしかないのもそういう意味でね。」


 ジェニーはひねくれている様子だった


「どういう意味かまったく分からないわ。」


「そうかな、そのままの意味なんだけど。」


 ジェニーは照れくさそうに笑うアランのことを理解するのを諦めた。


 ジェニーがため息をついていると、突然アランの右腕が目に入った。


 アランの腕は傷だらけだった。


 腕のあちこちにナイフで切られた跡がそのまま残っていた。


 傷は誰かのサポートで治ったようだったが、ジェニーは驚き、興奮してアランの体をくまなく探した。


 腕だけでなく体のあちこちが傷だらけだった。


 そしてジェニーどなり声を上げた。


「あああ!誰だ! 誰がやったんだ?!私のアランに手を出すなんて!!?だからお前は私がいなきゃならないんだよ!」


 ジェニーは怒りで興奮していた。


 一方、アランはきれいな微笑みを浮かべながら平穏な顔をした。


「大したことないよ、全部剣の練習で怪我した傷だから。誰かに殴られたわけじゃない。」


 それを聞いてジェニーの目が大きく開いた。


「練習したって?剣を?」


「ルイビトン教祖様と少しね。」


 ジェニーの口が少し開いた。ジェニーは予想外のことだったためしばらく何も言えなかった。


 やっとまた口を開いたジェニーはこう尋ねた。


「セクハラをしたのではなく、お前に剣を教えたってこと?ルイビトン教祖が?」


 アランは自分の傷を軽く撫でると、自信を持って言った。


「僕は絶対にインモラル校長の役に立つよ!」




 アンビションアカデミー。


 その寮の裏の平原を過ぎると森が出てくる。


 インモラルの邸宅は森のそれほど深くないところにあった。


 インモラルは目を覚ました。


 昨日アデルと戦闘をしたせいか、体が少し疲れている。


 違う、むしろ原因は戦闘ではないかもしれない。


 インモラルはベッドに横になったまま首をかしげた。


 そばですやすやと音を立てて眠っている人が見えた。


 熱い日差しと夕立が日常の都市で暮らす美女は、きっとこんな感じなんだろう。


 すらりとした眉毛と厚い唇がその証拠だ。


 昨日、あの唇でキスをされた時は妙な気分だった。


(私をあんなに卑下しておきながら急に私を求めて。女というのは実に分かるようで分からないな。)


 確実に今ルートのアデルは見当がつかなかった。


 インモラルが知っているゲームの中のアデルは「剣の境地」に到達しようとする欲が誰よりも大きい人物だった。


 理性的な趣向は覚えていない。


 独特な性的嗜好を持っている人物ではなかったため、覚える必要がなかった。


(いったいどんな作用が起きたのか···。)


 明らかなのは、ゲームのルートによってキャラクターの性格が変わる場合があるという点だ。


 今回もそのような事例なのか。


(いや、そこまで重要なことじゃない。)


 これほど美しい女性と一夜を過ごしたのはこれが初めてだった。


 その点が重要だ。


 ゲームの中に入ってからずっと仕事ばかりしていた。


 そのストレスが吹き飛ぶほど、美しい女性と関係を持つということは強烈な経験だった。


 インモラルは昨夜のことを思い出した。




 アカデミー校長室。


 インモラルは真夜中なのに書類作業をしていた。


 まだ終わっていないことが多く、熱心に仕事をしていたときだった。

 コンコン。


 突然のノックの音にインモラルは驚いた。


(いったいこんな遅い時間に誰だ。)


 インモラルは怪訝な表情で口を開いた。


「どうぞ。」


 ドアを開けて入ってきた人は生徒ではなかった。さっき昼にひとしきりやったアデルだった。


(だだをこねるためにわざわざ来たのか。)


 インモラルはそう考えると視線を書類に戻した。


 仕事を続けるインモラルは声を低くして尋ねた。


「どうしたんですか。」


「私に何をさせる気なのか、それが知りたくて来た。」


 インモラルは無表情で答えた。


「10日間、あなたは私について周らなければなりません。お互いの教育がどうなのかを見て、補完および改善をして授業の質を高めることが目的です。」


 アデルは唇を尖らせた。


「何故そんなに私の授業に執着するんだ?」


「何を言っているのですか。これは生徒に執着してるんです。生徒たちが強くなるのが私の目標です。」


 偽りは少しもなかった。


 生徒たちが大きくなると、校長の専用スキルで追加のスタットを得る。


 しかも今回のクエストは初級ダンジョンを探査するものだった。


(ここで得た結果が結局私を強くしてくれるだろう。)


 アデルは不思議そうな顔をした。


「生徒たちに献身的だな。そんなに生徒たちが好きなのか?」


「それも間違っています。私がこうするのは、すべて自分自身のためです。」


 そう言ったが、アデルは信じていない様子だった。


 インモラルは仕事に集中したかった。


 言葉を継いだのもそのためだった。


「もう夜も遅いのでそろそろお帰りになった方がいいと思います。それとも他にもっと言いたいことでも。」


 かなり無愛想な言い方だった。それでもアデルは気にしない表情だった。


「まだ帰れない、私はお前の犬ではない。10日間あなたについて周ることはできない。」


 インモラルは心の中であざ笑った。


 できないのではなく、やりたくないのだろう。


 何と言おうが関係なかった。賭けに勝ったためこちらには報償の命令権があり、アデルには拒否権がなかった。


 インモラルがそんなことを考えていた時だった。


 アデルはインモラルの考えを読んだように話し始めた。


「お前はどんな手を使ってでも私を利用するだろう。そこで、あらかじめ提案したい。私が今日、お前と一夜を共にする。」


「…………え?」


「今夜はお前に合わせるよ。これで賭けは終わらせよう。どうだ。」


 アデルの目は人を吸い込むように黒かった。揺るぎないその瞳でわかった。


 アデルが今言ったことは冗談ではなかった。


 嘘じゃないということは分かった。


 ただ、あきれて言葉が出なかった。


 しばらく沈黙が続き、アデルは疲れた様子で話した。


「確かに生徒をそんなに愛している校長がこんな誘惑に負けるはずがない。私の間違いだ。今の話は聞き流していい…。」


 カツカツとドアに向かっている足音が聞こえた。


 アデルは部屋を出ようとしていた。


 アデルは校長室を出る寸前だった。


「待て!」


 インモラルはアデルを引き止めた。


 ぴたっと立ち止まったアデルに向かって、インモラルは再び口を開いた。


「その条件を受け入れよう。」


 生徒の成長と一夜の快楽。


 インモラルは見るまでもなく後者を選択した。それが当然だと思った。


(今までどれだけ苦労してきたことか。欲望は機会がある時に解決しておいたほうがいい。)


 どうせ野望と搾取で人生を生きようとする体だ。


 正道とは違う道を行けばすべての問題は解決だった。


 剣術過程を学ばなければならない生徒たちは他の方法で何とか成長させればいい。


 もちろんそのせいで魔法専攻の生徒たちのレベルはしばらく伸びないだろうが、すでにたくさん上げておいた状態なだからさほど問題はない。


 大丈夫でなくても大丈夫だ。


 いや、いいか悪いかを問い詰める必要はなかった。


 インモラルの頭の中はすでに別のものが支配していた。


 アデルは期待するかのように尋ねた。


「本当か?本当にこれで賭けは終わりか?」


「そうだ、それよりも早く行こう。」


 インモラルはそれこそ子供のような状態だった。


「まさか私に同情してそんな選択をしたのであれば…。」


「いいから、もう行きましょうってば。」


 雲一つなく月だけがひときわ燦爛たる夜。


 インモラルはアデルの手を取り、すぐに自分の邸宅へと連れて行った。


 インモラルはシャワーを終えて出てきたアデルをすぐベッドに寝かせた


 そうしてアデルの首を舌でゆっくりと味わった。


 鍛えた体も弱いところはあったのか、変わった声がした。


 インモラルは子供のように甘いものが好きだった。


 首筋と耳の先、分厚い唇、柔らかいへその下を味わったのもそのような理由からだった。


 その4ヶ所以外は何も触れなかった。


 それなのにアデルは完璧に崩れた。


 インモラルへの普段の荒い息づかいは、もう違う方向へと荒れており、インモラルはとことん自分の好みだけを優先視した。


 完全に一方的な状況だった。


 アデルが少しの不満も言わなかったのは、そのすべてが完璧だったからだ。


 邸宅の寝室に月明かりが灯っていた。


 二人の夜はそうして深く深くなっていった。




 インモラルはふと回想から正気に戻った。


 窓から入ってくる朝日のせいか、アデルは徐々に目を開けていた。


 偶然にも目覚めたアデルと目が合ってしまった。


 朝ドラであればお互いにキャッっと驚き、昨夜の選択を後悔するという表情を見せたはずだ。


 しかし、アデルは違った。


 その反対だった。アデルは手をさっと上げてインモラルの顔をゆっくりとなでた。


「寝起きの姿もなかなか素敵だ。」


 その言葉にインモラルは反応しなかった。初めての経験だったからだ。


 インモラルはアデルを静かに見つめた。


 アデルはインモラルの眉を親指で優しく触りながら言った。


「不思議だな、弱虫な男がどうやってあの状況であんな策を講じてきたのか。」


「からかうな。」


 インモラルは自然にため口で話した。


 アデルはむしろそれがよかったのか、クスクスと笑った。


「そうじゃない。すごいという意味だ。そんな無謀な策を練って行動する人は珍しい。特に職責が重い人ほど。」


 インモラルはその言葉を理解していた。


 もしアデルに負けていたら多くのものを失っただろう。


 生徒たちの成長力、校長としての地位、アカデミーの体系など…。


 一つ狂えばアカデミーにも致命的だ。だが、それが全て崩れる可能性があった。


 インモラルは無愛想に言った。


「昨日起きたことは私にとって些細なことだ。私はアンビションアカデミーと一緒に頂上まで行くつもりだ。」


 アデルはその言葉に妙な迫力を感じた。


 インモラルはいつの間にかベッドから起き上がり、アデルはインモラルの背中を見た。


「傷跡が多いのは私と同じだが…私とは深さが少し違うのかな…。」


 その日からアデルは変わった。


 生徒たちに本格的に剣を教え始めたのだ。


 アデルは今まで面倒くさいとわざと授業をしなかった。


 しかし、インモラルと同じベッドで起きてから、まるで別人になったかのように本格的に教授の本分を果たした。


 すると、剣術専攻の生徒たちはレベルがぐんぐんと上がり始めた。


 アデルは生徒たちを訓練しながら考えた。


(インモラルについて行けば、ルイビトンにあると思っていた何かを見つけられるかもしれない。それがきっと私の止まってしまった剣の道の鍵になるだろう。)


 その後まもなくだった。


 アンビションアカデミーの生徒たちが初めてのダンジョンに入らなければならない時が近づいてきた。



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