第10話
開講して4日が過ぎた。
同時にクエスト完了期限まで残り56日。
インモラルは、学生たちがある程度寮に適応したと判断した。
「今日の午後からは話した通り授業に入ります。」
インモラルは学生全員をアカデミー寮の裏側に呼んだ。
暖かい日差しが降り注ぐ平原にはスライムが姿を現していた。
インモラルはスライムのいない平原の隅に学生を集合させた。
「さあ、出席を取ります。」
これに皆元気な声で答えた。
「はい!!」
初授業であるだけに、皆顔に緊張感と期待感が混ざっていた。
真剣さと覚悟があるのはアラン一人だった。
インモラルはその部分に注目した。
ジェニーを除いた女子生徒全員もそのようなアランを意識し始め、しばしば愛情に満ちた表情をした。
ジェニーはそれが気に入らなかったようだ。ヤクザのような表情でアランの隣にぴったりとくっついていた。
「さあ、出席も取り終えたことですし、簡単にカリキュラムをお話しします。」
インモラルは紙を配った。
1日-魔法理論:基礎的な魔法理論を学びながらその破毀理論を学ぶ(必須専攻)
2日-魔法実技:基礎的な魔法を実際に使って繰り返し上達させる(選択専攻)
3日-剣術理論:基礎的な剣術理論を学び、その破毀理論を学ぶ(必須専攻)
4日-剣術実技:基礎的な剣術を実際に使用し、繰り返し上達させる(選択専攻)
5日-モンスター概論:世界に生息するモンスターを分析する (必須教養)
6日-体力訓練:戦闘感覚を目覚めさせるための基礎体力訓練を実施する(選択教養)
7日- 休息
*「必須」は剣術、魔法専攻関係なく必須で受けなければならない。反面、「選択」は専攻でない場合は休むことができる。
紙を受け取った生徒の中に不満がある人はいなかった。
大変なら休めるので、選択授業が多いという点はむしろ嬉しかった。
インモラルは口を開いた。
「今日は初日なので、皆さんが今後の授業に対してどのような構えを取るべきか分かるよう魔法中心の実戦練習をしてみます。」
皆がうなずいた。
インモラルは続けた。
「授業を始める前に、みんなこれをもらってください。」
インモラルは指を弾いた。
すると、空中で学科のジャンパーが人数分出てきた。アランは最初からジャンパーを着ていた。
全員がジャンパーを着たとき、インモラルが言った。
「さあ、やってみましょう。皆さんはこれから東大陸最強の1年生になるのです。」
その言葉ですべての学生が胸いっぱいになった表情をした。
授業はすぐ始まった。
インモラルはまず生徒全員に種を配った。
「この種を平原のあちこちに植えてください。その際スライムに出会ったら、戦わずに別のところに植えてください。」
体格のいい女子学生が手を上げた。
「教授!」
「ダリアさん、どうぞ。」
「あっ、名前を覚えてくださりありがとうございます!質問なのですが、この種はなぜ植えるのですか?」
インモラルは平原を指した。
平原のあちこちにはスライムがいたが、その数が非常に少なかった。
「平原にスライムがあまりないからです。」
ダリアと他の生徒たちは首をかしげた。スライムと種の関連性が分からなかったのだ。
インモラルは、まずは種を植えなさいと言った。
生徒たちは散りながらそれぞれ種を植え始めた。
30分ぐらい経っただろうか。
生徒全員が配った種を植えて元の場所に戻った。
インモラルは帰ってきた学生たちを整列させた。
「最強になるためには、最初の授業も特別でなければなりません。今日の実戦練習はスライムを捕まえることです。」
背が低くて化粧を濃くした女子学生が手を上げた。
「デイジーさん、どうぞ」
「私の名前も覚えてくださったんですね。ところで、平原にあるスライムは全部で7匹でしたよ? 実戦練習には少なすぎませんか?」
インモラルは学生の疑問を黙殺しなかった。
「いいところに気づきましたね。だからこそ、皆さんに種を差し上げたのです。」
インモラルは腕を伸ばした。
「伸びろ、モリモリ!」
森を作る魔法の呪文を叫ぶと先ほど平原に埋めた種が発芽し、背の低い木になった。
その光景を見た生徒たちはみんな不思議がっていた。
「ハゲみたいな平原に髪の毛が生えるなんて…!」
誰かがそんな悪魔のようなことを言った。
インモラルは聞こえていたが、笑いをこらえて真剣に話した。
「スライムが少なすぎると言いましたよね? さあ、見てみましょう。」
平原の後ろで境界線のように広がっていた森から、何かのそのそと這い出てきた。
全てスライムだった。
生徒たちは皆驚いていた。インモラルは話を続けた。
「スライムは水気の多い木を好みます。私が今作った木のように。あの木は木の葉に水気を多く含んでいます。」
ほっそりとした体つきに大きな眼鏡をかけた学生が言った。
「初めて知りました…。確か本ではスライムは背の低い木が好きだということだけ載っていたので…。」
「ラベンダーの学生は物知りですね。さあ見てください。スライムが好きなものを2つも混ぜたので、もっと集まるでしょう。」
インモラルはモンスターに関する細かい知識を覚えていた。
楽しんでいたゲームの様々な特徴を知らないはずがなかった。その事実を知らない学生たちは、インモラル教授が特別に見えた。
「わあ、あれ見て。何かの波みたい。」
すぐに平原にはものすごい数のスライムが集まった。
その数はなんと100匹を超えていた。
個体数が多くなったスライムは人の存在に気づき、平原の隅にいるインモラルと学生に近づき始めた。
「スライムが平原を占領したいみたいです。」
「私たちを攻撃しようとしているのですか?」
「そうですね。」
インモラルがすぐに答えると、学生たちはおびえた。
弱いモンスターだが、100匹程度が集まれば威圧感が相当だ。
まずは生徒たちを安心させる必要があった。
インモラルは腕を前に伸ばした。
1メートルの氷錐の山が地面から湧き出てインモラルと生徒たちを丸く囲んだかと思うと、あっという間に鋭い氷の防壁が完成した。
スライムの何匹かは前進を止めなかった。むしろうごめきながら氷の壁をよじ登った。
そうするうちに防壁のてっぺんで動きを止めた。
氷錐の刃の部分に挟まってしまったのだ。
「さあ、皆さん手を前に伸ばして、魔力を集めてみてください。」
インモラルはお手本を見せた。
インモラルの手の前に小さな丸いエネルギーが集まった。
生徒たちが続々と真似をし始めた。
エネルギーボールは最下級魔法であるため、魔力さえあれば剣士、暗殺者、射手、前職関係なく誰でも作ることができた。
アカデミーの学生全員がエネルギーボールを作ることに成功した。
インモラルは学生たちが見えるように一番最初にエネルギーボールを撃った。
氷の錐に挟まっているスライムは、すぐにエネルギーボールに当たって爆発し、死んだ。
生徒たちは困惑していた。
「明らかに私たちと同じ出力のエネルギーボールなのに、どうやって一発で殺したんですか?」
エネルギーボールはあまりにも最下級魔法であるため、スライムを一発で殺すことはできない。
基本出力の場合、通常は3回以上撃たなければならない。
「それはですね。スライム内部の中央には核があります。私はそこを狙いました。」
「それは私たちも知っていますが、そんな簡単なことではありません。そんなことできるのはこの街では射手だけですよね?」
インモラルは首を横に振った。
「では、私は射手ですか? 違います。皆さんのように弓より本が好きな明知です。これは構えの問題です。」
「え?構えですか?」
「魔法の効果が最大化されるのは、あなたが魔法の強さに頼らないときだけです。」
眼鏡をかけた学生、ラベンダーが言った。
「それで、今日の授業のテーマは構えなんですか?」
「そうですね。アラン学生を見てください。さっそく実践していますね。」
アランはエネルギーボールを撃っていた。
爽快に飛んだエネルギーボールは錐に挟まれたスライムを一発で殺すことはできなかったが、インモラルは賞賛した。
「アランの構えを見てください。魔法も剣術も、それ以外のことも、積極的に取り組んでください。その構えが小さいものでも、多くのものを得ることができるでしょう。」
これは仕事で学んだ鉄則だった。
アルバイトをする時もそうだったし、職場でもそうだった。
やろうとする構えがなければ、習得の速度から遅くなり、後になってからでは幅広く使えない。
インモラルが断言した後だった。
驚くべきことに、何人かの学生が錐に挟まれたスライムを一発で殺すことに成功した。
もちろん、インモラルが現在位置と氷壁の距離を計算しておいたため、成功確率が高いのもあった。
しかし、本当に成功するかどうかは生徒たちの心意気だった。
「本当にできた!」
成功した生徒たちは不思議がった。インモラルはまだ成功していない学生たちに近づき、別のアドバイスをした。
角度とか、風向きとか。
すると続々と成功し始め、やがてすべての学生が一回以上スライムを一度に殺すことに成功した。
学生たちの心に「全くできないわけではない」という考えが定着した。
インモラルは完全に氷の障壁を解いた。
すると、平原に残ったスライムがどっと押し寄せてきた。
もうスライムを怖がる学生はいなかった。むしろ難易度が高くなったことを楽しんだ。
数時間が過ぎた。
いつの間にか平原はきれいになった。
あんなに多かったスライムが全て死んだのだ。
生徒たちは短時間で実力が上がったことを自覚した。
「どうですか。構えを変えただけなのに、最初とは感覚が違うでしょう?」
「不思議ですね。これでできるなんて。」
「できないことは皆さんに教えません。特に剣術専攻を志望する学生。 ぜひこの構えは覚えておいてください。今日は魔法を使いましたが、構えという根本はすべてにおいての中心になります。」
体格のいい学生のダリアが一番大きい声で答えた。
「はい!!」
「では、スライムの死体のところへ行ってみてください。拳より小さい液体が残っているはずです。その液体を持ってきてください。」
生徒たちはスライムの死体があるところに行った。
そうしてインモラルの前に大量のスライムの液体が集まった。
ジェニーはつまらないという表情で独り言を言った。
「スライムの液体は貧民街でもゴミ扱いよ。こんなものをどうしてわざわざ集めたのか。」
インモラルはその言葉を聞き逃さなかった。
「言いました。構えは根本だと。それは物にも該当します。活用の仕方によっては小便器も芸術品になるのです。」
インモラルは温度と湿度をチェックした。
平原には太陽が照りつけ、適度な湿気が漂っていた。
その瞬間、妙な空気が流れた。
学生たちが集めてきた液体が少しずつ動いた。
液体は一ヵ所にまとまり、体を膨らませた。
「さあ、これがキングスライムが作られる過程です。」
生徒たちはぼんやりとその奇異な光景を眺めた。
キングスライムの大きさは10メートルだ。
しかも平均レベルは40。
キングスライムが単純なジャンプ攻撃をするだけでも、学生は死ぬだろう。
インモラルは大きなキングスライムが完成する直前に話した。
「では距離を置きましょう。」
インモラルは学生たちを連れて移動した。
止まった位置はキングスライムがジャンプをすればすぐに届く距離だったが、十分だった。
これくらいの距離であればカウンター攻撃を仕掛けやすかった。
「もう少し遠くに逃げなくていいんですか?!私たちより30レベルも高いじゃないですか!」
ラベンダーは震えていた。本で見た知識を通じて、自分が一撃で死ぬという事実を知っているようだった。
「大丈夫です。」
インモラルは真剣な顔でじっとしているように指示した。
生徒たちはその言葉を聞き、インモラルのそばにぴったりと寄り添った。
しばらくしてからだった。
完成したキングスライムが体を丸めて飛び上がった。
するとインモラルと学生たちの頭上には巨大な影ができた。
スライムが降りてきているのだ。
「皆さん、頭を下げないでください。危機の中で頭を下げてはいけません。むしろそこに答えがあります。」
キングスライムの内部には大きな核があった。
大きな飛躍を遂げたせいで、核の部分が丸見えになっていたのだ。
これに一番先に気づいたのはアランだった。
アランは腕を空に上げて言った。
「頭を下げるな!エネルギーを集めろ!」
すると、生徒たちが一人二人と危機感を感じ、腕を空に伸ばした。
「男であるアランもやってる!」
「よし!やってみよう!」
生徒全員がすぐにエネルギーボールを作った。
アランが先にエネルギーボールを撃ち、続いて全員がエネルギーボールを放った。
キングスライムが生徒たちを襲う直前だった。
空中で逃げようがないキングスライムはそのまま弱点を攻められてしまった。
平原に爆音が広がった。
40個のエネルギーボールを打たれたキングスライムは、空中で大きな音と共に爆発してしまった。
爆音が静まったとき、インモラルと生徒たちを覆っていた影はきれいに消えていた。
その代わり、空からポンっとアイテムが一つ落ちた。
[キングスライムエッセンス]
グレード: 希少
アイテムタイプ : 消耗
キングスライムエッセンスは強い毒を持っています。しかし、使用によっては秘薬になります。上手に製造すると、しばらくの間レベルが200に上昇する薬になります。ただし、飲む回数が3回を超えると激痛で死にます。
*レベル50未満がエッセンスに触れる場合、猛毒によるダメージ。
インモラルは生徒がエッセンスに触れないよう注意した。
そしてキングスライムエッセンスをアイテムのみが入るこの空間のインベントリに別で収納しておいた。
-インベントリ収納10/100%
(よし、目的は達成した。だが…)
インモラルは驚いた。
キングスライムを作った理由はエッセンスを得るためだった。
後にダンジョンを攻略する時に使う必要があったため、ゲームをプレイした情報を活用して作ったのだ。
キングスライムは自分で狩りをする予定だった。
ところが、それを学生同士で狩ってしまった。
(これは可能なことなのか?)
生徒たちのレベルは皆10だ。
エネルギーボールも最下級のスキル。もちろん平原で作られるキングスライムは従来よりレベルが5~10程度低い。
(それでもエネルギーボールで殺すには、核の真ん中にある真の核を誤差なく正確に撃たなければならない)
生徒たちがその事実を知っているはずがなかった。
生徒たちは皆、ただ自分たちがキングスライムを倒したことに喜んでいた。
「わぁ!一気にレベルが2も上がった!」
「私も!すごいわ!1日でレベル2も!」
インモラルは平原の上の生徒たちを見ながら静かにつぶやいた。
「この中に特別な目を持った生徒がいるということになる…」
ある一人の人物がインモラルの目に入ってきた。
真っ先に危機を察知して立ち向かった人物。彼はタフで積極的なアランだった。
暖かい日差しが照りつける午後だった。




