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第5話:天才少女と頼もしい背中の元魔王様

「気が付いた? 気が付いたよ2人とも!」

「お姉さま……怪我人の目の前で大声を出さないでください。それで、ガルアさん。気分はいかがですか?」

「あ……あぁ……問題ない。君たちは……」

「私はラッセム・ヴァン・トゥーラ! ミーアちゃんに依頼を受けて助けに来たんだ!」

「ミーア……本当に助かった。何かお礼を……」

「いや、お礼の代わりに教えてほしいことがある」


 ルディリアがベッドに飛び乗ってガルアさんに話しかける。その異様な光景にガルアさんはベッドの端の方へ仰け反る。


「スライム⁉ どうしてこんなところに!」

「落ち着いて! 大丈夫、魔王様だから嚙んだりしないよ!」

「魔王だと⁉」

「余計に怖がらせてどうするんですか……ともかくそう驚かないでください。少なくともなたに危害を加えることは絶対にしませんから」

「そ、そうだよな。命の恩人を怖がるだなんて悪かった。それで、俺に答えられることなら何でも答えさせてもらおう」

「よし、1つ目お前はあの遺跡になぜいた?」

「俺があの遺跡にいたのはとある依頼のためだ。その依頼書が……これだ」


 ガルアさんは自分のバッグから依頼書を取り出して私たちに見せる。その紙には、『ポーンの方限定! ルッカの森の遺跡調査!』という文書と共に目を見張るような金額の褒賞金が書かれていた。


「またどうしてこんな怪しいものに……」

「恥ずかしい話、俺の家は貧乏だからな。この金額に飛びついちまったんだ」

「確かに、この程度の依頼で500ケルだなんて……」

「まぁいい。2つ目お前は何を見た?」

「俺は……遺跡の中で大きな扉を見たな。確か、なんつったか……そうだ! 地の紋章ってやつが描かれていたな」


 ガルアさんはバッグの中から紙と筆を取り出して模様を描き始める。その模様と話を聞いてルディリアは息をのんだ。


「地の紋章……」

「じゃあやっぱり!」

「どうかしたのか?」

「いや、お前が気にすることじゃない。最後の質問だ。お前は誰に攻撃された?」

「……おそらくグレイアルムだろうな。襲われた瞬間、辺りのかがり火を消されてな。顔はまったく見えなかったんだが、あんなに迅速な集団行動ができるのは奴ら以外ありえないだろうな……」

「やっぱりか。こんな依頼『ポーン狩りします』って言っているようなものだしな」

「本当だよ! 次はこんな依頼受けないでよ! ミーアちゃんのためにも!」

「……あぁ。肝に銘じておくぜ」


 とりあえず歩けるようになるまでに回復したガルアさんはアルミドに戻っていった。彼の背中を見届けた私たちは月が高く上る少し前、再びルッカの森に歩を進めた。


「あれがポーン狩り……恐ろしいですね」

「ラカルイアの連中は下級国民を極度の貧困に陥らせて高い褒賞金で彼らを釣って殺す。そんな卑劣な手段ばっかりだ」

「なんで殺す必要が……」

「分からない。吾輩もそれだけはずっと疑問に思っているんだ」

「お父様なら何か知ってたのかな……」


 ルッカの森に再び入ろうとする頃、お姉さまとルディリアはその足をぴたりと止めて辺りを鋭い眼光で睨みつけた。

 私が様子の変な2人に声をかけようとすると、お姉さまは私の口を手で押さえて静かにと言って再び辺りを見回す。


「ルディ……なんか変な感じしない……?」

「あぁ、吾輩もだ」

「敵意……それも今までのよりもずっと強い……」

「危ない!」


 ルディリアはまだ状況を呑み込めていないで棒立ちしていた私の体に体当たりをした。その直後、少し斜めになった私の真横を何かが通過した。


「なっ……⁉」


 私が言葉を発するよりも前に私たちの真後ろで大岩が木っ端みじんに砕け散った。辺りに岩の破片が転げ落ちたのを見てようやく自分たちが誰かに攻撃されたことに気が付いた。


「ふむ、避けられるとは……流石と言いましょうか? 元魔王様?」

「吾輩の正体を知っているだと……⁉」


 攻撃が飛んできた暗い森の中から、飄々とした男の声が聞こえてきた。声の主が誰なのかわからず戸惑っているルディリアとは対極的に私とお姉さまは互いの顔を見る。


「この声って……」

「ヴィリアンドの手足『神狼』の第5位……通称、地狼。ロットイラ・ベイリアル……!」

「説明どうもありがとうリーライム様。それではヴィリアンド様の命令通り……3人共々死んでいただこう!」


 そこまで言うとロットイラは森の中から出てきた。ロットイラの纏っている鎧は周りに連れたグレイアルムたちと同じような真っ黒なものであったが所々に茶色に光る魔石がはめ込まれており、両手には茶色に光るパンチグローブのようなものを着けていた。


「なにあれ、パンチでもするの?」

「でもさっきは魔法が飛んできましたよね……?」

「そんなこと気にしている場合か……ここは吾輩が何とかする。お前たちは遺跡のさらに奥に向かって吾輩の力を開放しろ」

「流石にこの数を相手取るのは厳しいんじゃ……?」

「吾輩を誰だと思ってる?」

「力を失った最弱魔王様」

「スライム」

「くっ……そう思うなら今すぐ力を開放してこい‼」

「はい! ごめんなさい! 行ってきます!」

「お気をつけて!」

「言われなくても大丈夫だ、神級闇魔法(オルグログラ)‼」


 ルディリアの魔法に隠されながら、私とお姉さまはグレイアルムたちの脇を通り抜けて遺跡に向かって走りだした。


「追いかけなくてよろしいのですか?」

「あぁ、辿り着いたとてあの扉を開けられるわけがない。それよりもここで魔王を完全に潰しておく方が……」


 * * *


「はぁ、はぁ……まだですか……?」

「着いた! それよりも……グレイアルムが追ってきてない……?」

「本当ですね。一体どうしたのでしょう……」

「まぁなんにしたって急がなきゃ、早く向かうよ!」


 グレイアルムたちが追ってきてないことに違和感を抱きつつも、ガルアさんを見つけた通路のさらに先へ先へと進んでいく。

 通路を照らすかがり火の数は徐々に減り、階段を下っていくごとに辺りを覆う嫌な空気は強くなっていった。


「結構降りてきたけど……」

「お姉さま、あれって……」


 私が指さす先では私たち2人分の身長を優に超える大きさの扉が行く手を塞いでいた。その扉にはガルアさんが描いた模様と同じ『地の紋章』が描かれていた。


「これで間違いないね……それで、どうやって開けるの?」

「さ……さぁ?」

「まさかと思うけど、この大きさを押せってこと⁉」

「でもそれしかないような気が……」


 巨大な石の扉、というより壁を押したり、体当たりを食らわせたり、魔法を放ったりしてみる。しかし、扉はうんともすんとも言わなかった。

 私たちの間に絶望ムードが漂い始め、お姉さまは辺りをぐるぐると回り始めた。私もその場に横になると戸の下の方に人工的な傷跡とその上に鍵穴のような穴が見えた。


「これって……!」

「何か見つけたの?」

「これは……旧暦のリウクス文字ですね。『汝、我であることを示せ』……?」

「『我』……?」

「この先が地の神殿であるということから、おそらく地神のことかと」

「ちょっと待って、神様しかここを開けられないならグレイアルム、この場合ロットイラも開けられないんじゃないの?」

「確かに……つまり」

「別の手段があるってことだよね……ねぇねぇ、この下にも文字が続いてそうじゃない?」

「本当ですね……なになに、『条件は次の通りだ』? えっと……『神の地鳴り』?」

「多分、神級地魔法(ケドイドンガ)のことじゃない? ……そんなの誰が使えるっていうの⁉」

「神級魔法なんてヴィリアンド以外が使えるわけ……そのヴィリアンドですら1属性が限界だというのに……?」

「ヴィリアンド……キング……‼ もしかしてリィが使えるんじゃ⁉」

「何を言い出すんですか?」

「だってリィはキングクラスのはずでしょ? 理論的には可能なんじゃない⁉」

「そうなのかもしれませんが……神級はおろか、上級、中級すらも私は使ったことがないんですよ?」

「使い方……上級魔法はね、手に込める魔力を増やしてドカーン! って感じでできるよ!」

「もう少し論理的な説明を……」

「習うより慣れよだよ! まずは上級地魔法(ケドインガ)からやってみたらできるんじゃない?」

「そんな簡単なものですかね……」


 お姉さまに促されて、普段と同じように魔法を放つ体制をとる。そしてお姉さまの言う通り、手に込める魔力量を増やしながら魔法を唱えようとする。


上級地(ケドイ)……⁉」


 魔法を唱え終えるより先に手元から暴発した上級地魔法(ケドインガ)は地面を抉った挙句に跳ね上がり近くの壁に激突した。

 それを見たお姉さまは驚きと困惑が入り混じったような表情を壁に入った大穴と私、交互に向ける。


「か……勝手に……!」

「ちょっと失敗しちゃったね! でも大丈夫だよ、いつもの魔法よりは確実に強くなってる!」

「こんな危なっかしい魔法、危険ですよ! 下手したらお姉さまに当たっていた可能性も!」

「大丈夫だって! 神級地魔法(ケドイドンガ)撃ってみて!」

「やってみますけど、ガッカリしないでくださいよ……! 神級地魔法(ケドイドンガ)‼」


挿絵(By みてみん)

次回は4月7日です。


 * * *


 今回から地の文のテイストを少し変更したので順次他の回の地の文も変更していく予定です。

主な変更点は地の文での人の呼び方に「さん」(例:ガルア→ガルアさん)が付くことです。(前作の「地天旅」を読み直していて気付いたので直すことにしました)

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