第3話:慈愛少女と義理人情に厚い元魔王様
投稿前にお風呂に入ろうとして、その前に髪の毛を切ったら遅刻しました。本当にごめんなさい。
お姉さまの提案に従って地国最南端のアルミドに向けて私たちは歩を進める。既に昼頃になって太陽は高く上っていた、それなのに周囲の家は静まり返っていて、辺りには異様な雰囲気が漂っていた。
「どうしてこんなに静かなんだろう?」
「この辺の奴らは下級国民、ビショップ以下の連中だ。つまり上級国民のお前たちが怖いんだよ」
「そっか、ここの人たちはリウクスで一番ラカルイアの圧政を受けてるんだ……」
「ポーンだけじゃないんですね……」
「お嬢様は本当に何も知らないんだな……そんなんじゃいつ襲われるか分かったもんじゃねぇな?」
「ひぃ……!」
しばらく歩き続けて、太陽も西の海岸線に沈み切りあたりが暗くなり始めるころ私たちはアルミドに到着した。
街中はさっきまでのアルミド外とは打って変わって人の往来が激しく、人々の活気にあふれていた。
「ここの人たちは結構元気そうだね?」
「なんせアルミドは下級国民が住む最大の町だからな。ラカルイアから一番離れていることもあってここまでの発展を遂げたんだ」
「ラカルイアから一番離れている? ラカルイアはどの国の、どの地域からも等距離のはずじゃ……?」
「ん? あぁ、言葉足らずだったな。流石にラカルイア王国が3層に分かれていることはお前たちでも知っているよな?」
「うん、上層・中層・下層に分かれているよね」
「そうだ。上層にはお前たちが住んでいるような魔法局、ヴィリアンドが住むラカルイア城なんかがある。中層はクイーン以上の国民の生活圏になっていて、下層はルークたちが住む貧民街みたいな場所だ」
「はい、お父様はいつかその貧民街を何とかしようと奮闘しておりました」
「私たちも何とかしてあげたいよね!」
「話を戻すぞ。リウクス地方は地国から炎国にかけて螺旋状になっている、つまり地国に近いのは下層なんだ」
「つまり、上層のヴィリアンドの目が近い炎国より、下層の貧民街に近い地国の方が監視が緩い……そういうことですね?」
「正解だ」
「なるほど……」
「おい、金髪は何処だ?」
ルディリアの説明が一段落した時、ルディリアはそう声を上げた。急いで辺りを見回すがさっきまで一緒に聞いていたはずのお姉さまの姿は見えなかった。
「ちっ……やられたか?」
「やられたって?」
「人攫いだ。ここじゃあ、お前たちなんて格好の獲物だからな」
「ど……どうし……!」
「落ち着け。どうせ奴のことだからうまくやって……」
パニックになりそうになっていた時、そんな不安を吹き飛ばしてしまうような爆発音が辺り一帯に轟いた。
音がした方を振り返ると、遠くの方で、炎魔法が放たれたことを物語っている煙が上がっているのが見えた。
「派手にやってくれたな……」
ルディリアが人混みを押しのけて爆発音がした方へと進んでいく。少し遅れていろんな人にぶつかりながら通りを少し進んだところで杖を持ったお姉さまが山賊のような男たちを山積みにしているのが見えてきた。
「あ、2人とも! どこ行ってたの?」
「それはこっちのセリフだ馬鹿野郎……まさか殺してないだろうな……?」
「そんな物騒なことしませーんだ。なんかいきなり腕掴んできたからちょーっとだけこらしめたの!」
「ちょっとではないように思えますが……まぁ何事もなかったみたいで良かったです」
「さっきまであんなに慌てていたくせに……」
「ルディリア!」
「心配してくれたのリィ? かわいーやつめー!」
「は……放してください……!」
「遊んでる場合か……お前らとっととここから出ていくぞ」
「え? 協会は?」
「行けるわけないだろ。こんな場所で魔法を放つことがどれだけマズイことかわかっていないのか?」
「なるほど、それこそ人攫いからしたら一つの指標になるわけですもんね」
「そういうことだ。とはいえ情報が何もないまま出るのは余計に良くないか……よし、金髪。その店で地図を買ってこい。地国の地図の方がいいがこの際何でもいい」
「大丈夫ですかね……お姉さまならアルミドの地図を買ってきてもおかしくないかと……」
「銀髪……お前って結構辛らつだよな……」
流石に冗談で言ったつもりだったが、しばらくしてお姉さまが帰ってきたときに握っていたのは本当にアルミドの地図だった。
「え、これじゃないの?」
「そんなわけあるか‼」
「そうですよ!」
月がそろそろ高くに上るころ、私たちは私が買い直したリウクス地方の地図をアルミドから少し離れたところで見ていた。
「さてと……この地図が言うにはこの辺に洞窟らしきものはなさそうですね」
「流石にリウクス地方の地図じゃあ厳しいね~」
「アルミドの地図を買ってきたやつが何を言っているんだ……そうなると周りの人間に聞くか、自力で探すしかないか……」
「あ……あの……!」
次の行き先を考えていると後ろの方でそんなか細い声が聞こえた。私たちが後ろに振り替えるとそこには1人の女の子が立っていた。
歳はおそらく5~7歳、茶色の目は潤んでおり鼻は赤くなっていて声が枯れかけている様子からさっきまで泣いていたことが分かる。
私がどうしたらいいか戸惑って何もできないでいると、お姉さまはすぐにその場にしゃがんでその子に話しかけた。
「どうしたの? お父さんとお母さんは?」
「魔法のお姉ちゃん! お父さんを助けてください!」
「分かった! 助けになるよ!」
「助けてくれるの⁉」
「もちろん!」
「ありがとうお姉ちゃん! あ、私はミーアっていうの!」
「よろしくねミーアちゃん。私はラッセム! それで、こっちのお姉ちゃんがリィでこのスライムがルディ!」
「よろしく!」
「それで、ミーアちゃんのお父さんは今どういう状況なの?」
「えっとね。ガルアお父さんは冒険者なの。だけど、昨日から帰ってきてなくって……いつもなら夜に帰ってくるのに……!」
元気が戻ってきていたミーアちゃんだったが、話しながら再び不安そうな顔に戻って元気がなくなってしまった。
「そっか、何処に行ったか分かる?」
「ルッカの森ってところ、ここからこっちに進んだところにあるの」
「よし分かった! お姉ちゃんに任せなさい!」
「お姉ちゃんたち、スライムさん。ありがとう!」
「それじゃあお姉ちゃんたちは行ってくるからミーアちゃんは早く家に帰ろうね。夜は危ない魔物が出てくるよ!」
「分かった!」
ミーアちゃんはそう言って元気にアルミドに戻っていった。ミーアちゃんの後ろ姿を見届けて私たちは再び地図をのぞき込む。
「金髪、お前のこと初めて見直したぞ」
「初めては余計だよ! それでルッカの森って……」
「これですね、ここから北にある小さな町のルッカから、さらに北に行ったところですね」
「あまり迷いそうなところでもないね?」
「道中でくたばっていないといいが……」
「魔王様なのに優しいんだね」
「別に魔王だからと言ってすべての魔物を支配しているわけでもなければすべての人間を忌み嫌っているわけでもないんだからな?」
「そうなんですね。なんだか意外です」
「そんな言い方するんだったらお前たちから食ってやろうか⁉」
「はい、ごめんなさい」
「分かればいい」
「食べられるんですか……?」
「確かに! その小さい体じゃ……」
「本当に食ってやろうか……?」
月が一番高く上るころ、私たちは北の町ルッカを目指して歩き始めた。道中のいたるところで魔物が闊歩していたがなんとか荒事は避けて進むことが出来た。
「ねぇねぇ! あそこに宿屋があるよ!」
「宿屋クスロ……さっきのお姉さまの件もあって少し不安ですね……」
「その気持ちも分かるがこの先で倒れられても困る。だから、お前たちはしっかりと寝ておけ。吾輩が見張っておいてやる」
「いいんですか……?」
「やった! 休憩だー!」
2つのベッドが置かれた客室に入るや否やお姉さまは右手のベッドに飛び込んでそのまま眠りについた。既に寝息を立てているお姉さまを横目に私はルディリアが座った椅子のとなりのベッドに座る。
「吾輩が寝ておけとは言ったが……一応金髪もお嬢様なんだよな?」
「そうですよ。ラットルテ家の分家、トゥーラの家名を持つ正真正銘のお嬢様です」
「そうだよな……それはそうと、お前は寝ないのか? 確かにお前たちの寝床よりかは寝心地が悪いかもしれないが、ここで寝ておかないと後で辛い思いするぞ」
「それはわかっているのですが……ルディリアは本当に寝なくていいのですか?」
「言っただろ? 吾輩は寝なくても特段問題はないんだ。むしろ寝るなら昼間だな」
(彼女のことだから私たちの身を案じての行動なのでしょうが、黙っておくとしましょう)
「ふふっ……そうですか。それではおやすみなさい」
「何がおかしい……って、こいつもぐっすりか」
次回は3月31日(日)です。