第35話:覚醒少女と最後のリウクス大戦
「ルディ……今助けに行くよ!」
リウクスで生きる人々の遺志を引き継いだ少女は最後の意志を引き継ぎに真っ白な獣と共に飛び出す。「それ」による蹂躙が行われていた場に少女が降り立つとその場の人々が驚きに目を丸くする。
「お前……ラッセムなのか?」
「あはは。なんか自分が自分じゃないみたいだけど、正真正銘ラッセムだよ!」
「覚醒……ってところか」
「その姿はいったい……?」
「ナルディさんたち、天神の仲間から力を託された……んだよ?」
「なんで疑問形なんだよ……」
「私が一番よく分かってないから!」
「ラッセムらしいと言えばらしいが今回くらいはちゃんと説明してくれ……」
「ま、それでこんなことになっちゃったの!」
少女、ラッセムの背中には巨大な龍の翼が生え、胸元に巨大な魔石が埋め込まれた装束を身に纏い、同様の魔石がちりばめられた大剣を軽々持ち上げ、巨大で獰猛それなのに神秘的な白虎を乗りこなしていた。
そんなラッセムの姿を視界にとらえた天神の様子が少しずつ変貌していく。息は荒くなり、髪は逆立ち、食いしばった口元からは血が垂れていた。
「許さん……許さぁぁあああああん‼」
「なになに……⁉」
「まさか、サタナ様!」
ルディリアと敵対していた「それ」の実態が少しずつ揺らぎ始め、5色の水晶玉の姿へと戻り、繭へと吸い込まれていった。
それとほぼ同時に、繭が少しずつひび割れ始め辺りに真っ白な光を放ち始める。ついには視界すらも奪われそうな光を放ったかと思えば耳をつんざくような爆発音が轟いた。
「ぐっ……‼」
「本当に何が起こっているんだ⁉」
「おそらくサタナ様が無理やり覚醒を進めてしまったのかと……! 闇属性を持たない不安定な力が暴走しているんです!」
「みんな気を付けて‼」
繭から放たれた光が徐々におさまり始め、5色の羽と真っ白なランスを持った「神」が姿を現す。体の所々に黒いノイズが走っており不完全な状態であるのは明らかだった。
「我が仲間を語るとは……不敬にもほどがあるぞ‼」
「あなたの仲間たちが、あなたのことを止めてほしいって私に言ったのは本当だもん! だから、私があなたを止めてあげるんだから! リーライム‼」
「なぜ我をその名で呼ぶ! 我の名は『リウクス』、この地を全てを作りし神であるぞ‼」
「リーライム・ドロウ・ラットルテ、あなたが天神をそそのかした犯人なんでしょ? 私はあなたのお姉ちゃんなんだもん、それくらい分かるよ」
ラッセムは半ば何かを諦めたような表情をしつつもキッと釣り上げた目を「神」に向ける。そんな彼女の様子に「神」は動揺した表情を見せ、黙り込む。
「……」
「正気かラッセム……」
「……お姉さまに嘘は付けませんね。お姉さまは幼い頃からそうでした……」
リーライムと呼ばれた少女は逆立っていた長い白髪をだらんと風に流し、5色の羽を閉じて地面に降り立ち、巨大な白いランスを地に刺す。
「その通りです。数十年前から起こったリウクス大戦で天神の仲間は力を失い、結局は全て死に至った。その時に生まれた天神の悪心に付け込んだ悪魔、それが私です」
「なんでそんなこと……」
「私と……いえ、彼女がそう願ったから……」
「だからってこんなことしていいと思ってるの⁉」
ラッセムはリーライムに憎悪にも引けを劣らない慟哭を上げながら掴みかかる。リーライムは少しだけ悲しそうな表情を見せたかと思えば即刻ラッセムの手を振り払い攻撃態勢をとった。
「もとよりこれ以上話し合う気はありません。さぁ、最後のリウクス大戦を私たちの手で始めましょう。お姉さま」
「いい加減に目を覚ましなさい! こんなことやったって意味ない!」
「意味なくなんてない! 全てを失った痛みが分からないからそんなことが言えるだけ!」
「それってどういう……」
「……っ‼ 神級天魔法ァァァアアア‼」
リーライムは歯を食いしばって、何かを捨てるかのように憎悪を心に燃やし魔法を放つ。ラッセムは困惑した表情を見せながらも応戦する。
「ラッセム、吾輩に力を貸せ! 神級闇魔法!」
ルディリアの声にラッセムが持つ全ての魔石が呼応する様に光り輝きだすと、ルディリアからは真っ黒な龍のカタチをした魔法が放たれ、リーライムの体を突き抜けていった。
「くっ……! 神級炎魔法‼」
「お前だけの専売特許だと思うなよ! 神級炎魔法‼」
全く同じ神級魔法を唱えられたリーライムは動揺を見せるが、即座に次の攻撃に移る。留まることを知らないリーライムの攻撃にルディリアは少しずつ防戦一方になり始めていた。
「ルディ大丈夫……⁉」
「正直ギリギリだ。お前からの魔力の恩恵を受けてなおこれだからな……!」
「流石に魔力量の差が大きい……」
「そりゃそうだ。奴は天神自身の魔力と5神の魔力を持っているんだからな」
「じゃあそれに対抗できるだけの魔力を集めりゃいいんだな?」
ルディリアに魔力を送るラッセムの背後にこっそりと近づいていたミバイがそう声をかける。その言葉の理解に頭の追い付かないラッセムは首をかしげる。
「ミバイさん……でもどうやって?」
「最初の神戦の時と一緒だ。天神より力の弱い炎神らはどうやって奴に勝った?」
「5神でまとめて戦った……」
「つまり、強敵に勝つには数の暴力……そうだろ?」
「あはは! その考え方嫌いじゃない!」
「っつったって、その魔力はどこから持ってくるつもりだ? おっと、あぶねぇ‼」
ルディリアは「神」、リーライムを相手取りながら会話に割り込む。ラッセムはそんなルディリアを咎めながらもミバイに話を進めさせる。
「今から俺がリウクスの住民に声をかけて回って、魔力量を分けてもらう。それだけの人数がいれば、あいつにも対抗できるだろ」
「単純明快だけど……」
「すぐに声がかけられるものか?」
「分からん、だがやるしかないだろ?」
「そうだけど……!」
ミバイが提案する無謀ともとれる作戦にラッセムとルディリアは快諾の示しを出せずにいた。その間にもリーライムの攻撃は早く重くなっていっていた。
「その仕事、お供させてください!」
そんな声が悩み続けるラッセムたちのすぐ後ろから聞こえてきた。そこには隊列を成したグレイアルムとラカルイア兵がずらっと並んでいた。
「グレイアルム⁉ あなたたち撤退したはずじゃ……」
「我々はラカルイアの安全のためにヴィリアンド王に忠誠を尽くしてきました。しかし、それがまやかしであったと知った今、我々は自分たちの正義、リウクスを救うことに尽力するほかありません!」
「お前ら……」
「敵対していた私たちの言葉を信じる方が難しいことは承知の上です。しかし、少しでもお役に立たせてください!」
「ふっ……お前たちの心意気や気に入った‼ 俺と共に来い!」
『うぉぉぉおおおお‼』
ミバイはグレイアルム、ラカルイア兵連合軍を率い、ラカルイアの中層下層に続く階段を怒涛の勢いで降りていった。
「大丈夫なのか……あれ……」
「まぁいいんじゃない? 彼らもヴィリアンド、というよりかは天神、でもなくリーライム? に騙されてた被害者なわけだし。裏切らないとも限らないけど人手は多い方が良いでしょ?」
「まぁ、な。よし! あいつらからの返事が来るまで持ちこたえるとするか!」
「だね! リコラも最後までよろしく頼むね!」
「もちろんです!」
再び希望が見えてきたラッセムらは顔を上げて、動揺が大きくなり始めたリーライムに再び向き直り戦闘態勢をとった。
* * *
ラッセムたちと別れてから数十分、ラカルイア中層には着々と人が集まり始めていた。とはいえ、マイナスな言葉を漏らす住民の方が多くラカルイア中層は騒然としていた。
「まぁ仕方ないよな……つい最近まで酷い弾圧を貰っていたのにその国がピンチだから助けろだなんて、俺だったら来ることすらもしないだろうな……」
「ミバイ総長。これで全員のはずです」
「あぁ、助かった。あと総長は止めろ」
「はっ!」
ミバイは手を叩いて中層に集めった人々の視線を集める。そして、上層での事件、皆を集めた理由、今から何を行うのか、全てを一息で話す。
「頼む。お前たちの力を貸してくれ! こんな見ず知らずの奴の願いを聞き入れにくいのは分かる。だが、リウクスを救うためなんだ!」
ミバイは民衆に頭を下げるが、怒り心頭な様子の彼らは口々に文句を垂れ流し、手に持っていたものを次々とミバイたちへと投げる始末だった。
「リウクスの危機っつったって俺たちに何ができるっていうんだ!」
「そもそも、そんなやつらのことが信用できるわけないだろ!」
「そうだそうだ!」
「お願いだ……頼む……‼」
ミバイの懇願も虚しく、民衆は口々に文句を言い続けて、そのまま来た道を戻っていこうとする。その時、流れの先頭を妨げるように純白の少女が降り立った。
「みんな待って……!」
「お前は天神⁉ いや、ラッセム……? なのか……? それにルディリアにリコラ……⁉ お前たちどうして……!」
「うん、ミバイさん。それよりも……みんな話を聞いて!」
天神と同じ装束とオーラを身に纏ったラッセムは必死の形相でこれまでのことを息が続く限り話し続ける。民衆は目の前に天神が降り立ったと言わんばかりに拝み始め、力になると決心する人々が増えていった。
「天神様、このリウクスのためとならば私も手を貸しましょう!」
「リウクスの英雄よ! 再びこの地を救うことに我々も手を貸します!」
「そうだそうだ‼」
「みんな……ありがとう。私からのお願いは1つ、私にみんなの魔力を貸して!」
そのラッセムの一言にラカルイア中層が歓声に包まれる。そんな民衆を他所にミバイは混乱ここに極まれりというような表情でラッセムに詰め寄る。
「おい、さっきはとりあえず流したが……お前のその姿は一体……天神の仲間の力は……」
「えっとね……リィの中でリィと天神が分裂? したらしくて、そのまま天神の力が私に乗り移ってきたの。ナルディさんたちの力は……合体した?」
「どういうことだ……?」
「私から説明するね」
ラッセムと近しい声がラッセムの体の中から聞こえてくる。ミバイは不審そうな顔でラッセムを見るが、彼女は何もしゃべっていないというように首を振る。
「一応、ね。私は天神ことサカルリパライニカタ・ルサソレーナ、サタナって呼んで?」
「て……じゃなくて、サタナ。これだけの力があればリィに勝てると思う?」
「みんなの力もある、今なら。ただ、そのためには……この力の最後の鍵がいる」
「最後の鍵ってまさか……」
「ルディリア、あなたの持つ『闇』の力が必要なの。お願い、力を貸して!」
「そうか、天神と相反する存在、かつて5神に仇を成した存在……よし! 吾輩の力くれてやる‼」
ラッセムとルディリアが互いの拳をぶつける。その瞬間、ルディリアの巨体は少しずつ光に包まれラッセムへと取り込まれていった。
再び姿を見せたラッセムの装束には黒い龍脈が入り込み、身にやつしていた真っ白なオーラは黒色も混じり混沌を成す。白虎は影獣の名の通り、闇の力を取り込んだ影虎の姿と成り、かつての力を身に宿していた。
「ありがとう……よーし、ここから反撃開始だよ‼」
「天」と「闇」の力を得たラッセムは民衆たちと共に上層への階段を上っていく。上層ではノイズがさらに走った「神」が立っていた。
「なんだか神戦を思い出すね」
「確かに。天・闇の力対5神の力、そのままだな」
「天神、サカルリパライニカタ・ルサソレーナよ! どうして、我の手を振り払う! すべてに絶望し、力を渇望したのはお前だろう!」
「今もみんながいないのは辛いし苦しい。確かに、あの時は全部無くなっちゃえばいいなんてことすら思った……けど、もう気が付いたの。全部壊したらそれこそみんなの生きた証すらも消えて本当の意味で死んじゃうって!」
「そうか……遂に我の本当の理解者を得ることが出来たと思ったのだがな……お前を殺して、この世界、ひいては全てを無に帰すその力……我がもらい受けるとしよう‼」
猪突猛進に迫る「神」とは正反対にラッセムはその場に立ち尽くす。「神」は好機だと思ったのかスピードを緩めることなく距離を詰める。
「今だ‼」
ラッセムのその声に合わせて、階段や建物に隠れていた民衆たちが魔力をラッセムへと送る。その力は凄まじく、ラッセムが魔力を得るたびに辺りに地響きや暴風が轟いていた。
「何を……!」
「せーの!」
『神級天闇魔法ァァアアア‼』
天龍と虚龍の形を成した魔法がラッセムの体から解き放たれる。2匹の龍は「神」の体を突き抜け、大爆発を引き起こし辺りの何もかもを吹き飛ばした。
* * *
「ねぇ、リィ。リィってば‼ いい加減、何があったか教えてくれないの?」
「教えないと言っているでしょうお姉さま。第一、どうして私を生かしておくのです。あんなことがあったというのに」
「だって、私はリィが好きだからね」
「理由になってません。しかも、こんな罪人を好きになるとかどうかしてるんじゃないですか?」
「どうかなんかしてないよ。そもそもリィは良い子なんだから相当なことがないとあんなことしないでしょ?」
「邪魔するぞ……って本当に銀髪を傍に置いてるんだな……」
玉座から伸びる赤いカーペットの先の大扉を開けて真っ黒なローブを身に纏った長身の男性、ルディリア・ラム・ガムリオラが入ってくる。
「他国を回る前にせっかくだからお前の様子を見に来たんだが……」
「どうしたの?」
「銀髪の奴は大丈夫なのか?」
「大丈夫かって言われると不安だけど……まぁ、もう5神の力は預かったし。今ならこてんぱんにできるよ」
「そうか……そういえば、サタナ・クライはどうしているんだ? 確か天の降臨者にならなかったんだろ?」
「うん、なんか今は旅をしたい気分なんだって。どこに行ったかは知らないや」
「相変わらず適当だな。こんなやつが天の降臨者でいいのか……?」
「いいの! 政治はほとんどリィがやってくれるし!」
「そうか、なら安心だな」
「どういうこと⁉」
* * *
「ラッセムちゃんに全部任せちゃったけど良かったかな……」
「大丈夫なんじゃないですか? リーライム様もしっかりしている方ですし」
「そこが一番心配なんだよなぁ……」
「結局あの日に起こったことはなんだったのでしょうね……私自身、あの場にいたのにも関わらずよく分かっておりません」
「そう……だね。私も反省しなきゃなぁ」
「えぇ、本当に」
サタナ・クライは神の座を捨て、人間として生きることを選んだ。お供に影虎のリコラを連れて、仲間の弔いのために旅をしている。
「さ、次はカルロッテさんのところだよ」
「そろそろ出発しましょうか」
「うん。それじゃあ……またね」
次回は7月21日です。
* * *
明日の7月21日に投稿する感想回で遂に「少女と元魔王様」編完結です!
ここまで走り抜けられたこと、とてもうれしく思うとともに
応援してくれた皆様に感謝したい気持ちが抑えきれないです!
まだまだお話したいことはありますが、
明日まとめてお伝えしますので最終回にお付き合いいただければ幸いです!




