第34話:絶望少女は全てを託された者
「来い、我が子よ」
「……はい」
震え座り込んでいたはずのリーライムはゆっくりと立ち上がり、一歩一歩天神の元へと歩き始める。ミバイが吾輩と共にリーライムを制止しようとするが彼女の耳には届いていないようだった。
そんな吾輩たちの様子を絶望した表情でラッセムは呆然と眺めていた。自分の妹の真実に打ちのめされているのかこちらも何も見え聞こえていないようだった。
「おいラッセム! お前からもなんとか言え‼」
「……」
「何してんだ! こっちに来て手伝え!」
結局、吾輩やミバイの声が届くことは無く、リーライムは吾輩たちの制止を振り払って天神のもとに辿り着く。
まさか、手足が棒のように細い小娘に転がされることになるとは微塵も思っていなかった吾輩とミバイは互いに顔を合わせてリーライムを見届けることしかできなかった。
「何が起きた……」
「分からない、ただ事実としてリーライムは俺とあんたを振り払った……」
リーライムが天神と両手を取り合うと辺りを神々しい光が2人を包み込む。眩しいばかりで暖かさなんてものはない殺人的な白光がラカルイア、ひいてはリウクス全域を照らした。
「くっ……‼ リーライム!」
「リィ……あなたは一体……」
辺りでは徐々に暴風が吹き荒れ始め、地鳴りが轟きだす。文字通り、神がその場に降り立ったような重圧と神々しさを肌でビシビシと感じる。
光はいつしか繭のような形を成し、ラカルイア城前の広場の中央に鎮座する。姿も見えていないのにもかかわらず体が自然と震えていた。
「跪け、我に抗いし愚民ども。お前たちはラカルイアを創造し神にある者の御前であるのだぞ」
「完全復活の一歩手前ってところか……?」
「まだ口が利けるというのか。いい加減諦めたらどうだ?」
「はいはいそうですかって諦める奴がどこにいるっていうんだ! なぁラッ……セム……?」
震えそうになる体を必死で抑え込んで吾輩とミバイが見苦しいとも取られそうな声を張り上げている隣でラッセムは横に転がったまま涙を垂れ流していた。
「しゃ……しゃんとしろ! リーライムを姉のお前が見捨ててどうするんだ!」
「無理だよ……! もうリーライムの力は感じられない……あれはもうリーライムでもなければ天神でもサタナでもなんでもない、『神』そのものなんだよ!」
「ラッセム様の言う通りです」
「リコラ、無事だったのか!」
「えぇ、心配をおかけしました」
「それで天神でもないって、どういうことなんだよ?」
「天神はあくまでも『天』属性の神であること、今のサタナ様は他の神つまり5神の力を持っていたヴィリアンドやリーライム様の力を得た状態。つまり……」
「サカルリパライニカタ・ルサソレーナがリウクスを作った時の力そのものってことか」
「そういうことです、それと同じ力があるということは全てを滅ぼす力もあるということ。あの繭が破られるとき、それはこのリウクスが終わることを意味するということでしょう」
「いや、それならまだのはずだ」
「それは一体……あっ‼」
「なんだっていうんだ?」
「吾輩が最後の神の力、『闇』属性の神の力を持っている。だから奴はまだ完全体に慣れないんだ」
「そうだ、最後にお前の力を貰い受けよう。ルディリア・ラム・ガムリオラ‼」
「臨むところだ‼」
目の前の繭が再び光始めると小さな光がその脇に分離し人のカタチを成す。真っ白な光を帯びていた「それ」は、同時に繭から分離した赤い水晶玉を体に受けると吾輩目がけて攻撃を始めた。
「おいおい……本気で言ってんのか⁉」
「神級炎魔法」
「当り前のように神級魔法ですか……」
「リコラ、お前はラッセムを連れてここから離れろ! 奴の狙いは吾輩だけだ!」
「わ、分かりました。ラッセム様をお連れしたらすぐに手助けに戻ります!」
「頼んだ。ミバイ、お前は……」
「ここまで来て引き下がる程やわじゃねぇ。ディジーの姉貴の仇はまだ取れちゃいないんだからな!」
「そうか、なら来い! 神級闇魔法ァァアアア‼」
炎と闇の神級魔法がぶつかり合い辺りを破壊しつくす。そんなことが起こってもなお、繭はただそこに鎮座していた。
「おい、あれって!」
「本気で言ってんのか⁉」
繭からは続くように灰色の水晶玉と緑色の水晶玉が浮かび上がり、「それ」の体へと飛び込んでいった。
「来るぞ……!」
「神級風魔法、神級鉄魔法」
「くっそ、神級魔法を淡々と撃ちやがって……!」
「受け取れルディリア。俺にはこれくらいしかできない……!」
ミバイは自分の魔力を吾輩に流していく、その瞬間目に見えてミバイの体がふらつく。何とか支えようとするがその手を払われた。
「俺のことは気にするな、今はあいつをやっちまえ!」
「ミバイ……恩に着る。神級闇魔法‼」
「それ」は段々と戦闘に慣れてきたと言わんばかりに簡単に攻撃を避けていた。もはや笑えてくるような状況に拍車がかかる。
繭は再び青色の水晶玉と茶色の水晶玉を浮かび上がらせ、「それ」に向けて放った。その瞬間、「それ」は5色の魔法を同時に放つ準備を始める。
「正気か……?」
* * *
「ここなら安全ですラッセム様。どうかご無事でいてください、私はルディリア様の手助けに……」
「リコラ……ごめん……ね」
「何を謝ることがあるというのですか。……そうだ、これを預けておきます」
リコラに胴に括っていたカバンを開くように促されて開くと小さな髪留めが転がり出てきた。地属性の魔石が埋め込まれたそれはリコラの手の中で小さいながら輝きを放っていた。
「これは……」
「ナルディ様の物です。最期に託していただいたのですが、私が使える者でもないので……もしかしたら何かの助けになるかもしれないですので!」
「ありがとう……え‼ なになに⁉」
リコラの手から受け取ると髪留めは光を放ち始めた。同様の光はリコラや自分の杖にはめ込まれた炎の魔石、ミィバから預かっていたカルロッテさんの大剣からも放たれていた。
その暖かな光は少しずつ形を変え始め、最終的には目の前に4人の人のカタチを成した光が現れた。
「サリ様、メギル様、カルロッテ様、そしてナルディ様……⁉」
「いったい何が起きてるの……?」
とんがり帽子を被った元気いっぱいな少女は芯のある声で言った。
「ラッセムよ、どうか儂らの願いを聞き届けてほしいのじゃ」
小柄だけど人一倍頑張ってそうな少年は震える声で言った。
「僕たちの友人であり、仲間のサタナが誤った道を行こうとしている……それを止めてください! 今のサタナさんは僕たちの知っているサタナさんじゃないんです!」
大きな大剣を背負った背中を押してくれそうな女性は力強く言った。
「もちろん難しいこと、下手をしたら命を失うことだってある。だが、私たちが手を貸すことを約束する。必ずだ」
背中から翼を生やした心配性な女性は震えながらも前を向いて言った。
「お願いです……私たちのサタナ様を、私たちのリウクスを救ってください‼」
次回は7月20日です。
* * *
遂に次回が最終回です! ぜひお楽しみにしていてください!




