第33話:驚愕少女と全てを終わらせる者
「私を、リウクスを、愚弄した者よ。消えろ。真・神級天魔法」
何が起こっているのか、何も理解できなかった。ただ、さっきまで膝をついていたはずのヴィリアンドが神々しい光が収まったと同時に消えたことを除いて。
「消えた……⁉」
「あれって……」
「水晶だ……よね?」
ヴィリアンドがいたであろう場所から青、灰、赤色の水晶玉が浮かび上がると、その場に立っていた幼子に向かっていった。1つ、また1つと取り込まれていくたびに幼子の放つ威圧感と存在感は爆発的に増加していった。
「何が起きてるの……?」
「さぁ……? だけど、嫌な予感だけはする……な」
「吾輩もだ……」
最終的に幼子が放つ威圧感は私たちに膝をつかせるには十分なほどになっていた。
ほとんどのラカルイア兵やグレイアルムは同じように威圧感に負けて膝をつき、人によっては藻掻き苦しんでいる人もいた。
数人の屈強な者は幼子に向けてなんとか魔法を放とうと抗っていたが、幼子へ辿り着く前に消え去ってしまうものがほとんどだった。
「あ……あんたはなにもんなの⁉」
何とか声を張り上げる。威圧感からまともに声が出ず変な調子に上ずるが、それを何とか必死に抑え込んで、その幼子の目を捉えようとする。
「そんな状態にまでなって、私の名を尋ねるか。声を上げるだけでも辛いだろうに」
「し……質問に答えて‼」
「まぁいいだろう、そなたたちを絶望させるより前に私の名前を教えてやろう。私は……」
幼子は深々と被っていたローブを掴むと勢いよく脱ぎ捨てる。地面まで伸ばされた真っ白な髪を携えた少女が姿を現し、その場の全ての生き物が息を吞む。
「これは驚いた……」
「サ……」
「サカルリパライニカタ・ルサソレーナ……だと……⁉」
目の前の少女の姿は書物や銅像、絵画などで何度も見てきた天神ことサカルリパライニカタそのものだった。
リコラが目を輝かせながら、その姿目がけて駆け寄っていく。天神もさっきまで放っていた威圧感を弱め、そこらにいそうな身の丈同様の少女の姿でリコラを受け止めた。
「サタナ様……! 私はあなた様に会いたいとどれほど願ったことか……」
「私もだよ。リコラ、また私に力を貸してくれる?」
「もちろん……お待ちください、そういえばどうしてサタナ様は今になって……」
「どうしてって、この腐った世界を滅ぼすためだよ」
「なっ……⁉」
さっきまでごろごろと喉を鳴らしていたリコラをはじめ、その場で静かに話を聞いていた私たちも声を漏らす。特にルディの驚きようは不思議に思うほど大きかった。
「どうして……サタナ様は誰よりもリウクスを愛していたはずじゃ……」
「もちろん。けど、それは私たちがリウクスを去ってから変わっちゃった。人々は争いを繰り返すし、他の種族の力も大幅に抑え込まれて。終いにはこのラカルイアの政策、こんな腐った世界は一回滅ぶべきだって考えて当然じゃない?」
「それは……」
「そんなの降臨者の力をきちんと制御しなかったお前らの責任だろう……!」
「ルディリア・ラム・ガムリオラ……あなたの意見はもっともだと思う。けど、これ以上あなたたち人間に任せたところで、誰が降臨者になろうと私の制御下に置こうと結果は何も変わらないでしょ?」
「そんなのわからないだろう……」
「私も人間には期待したかったよ、メギルさん然り良い人間がいるのは知ってる」
「じゃあ尚更!」
「だけどそういう人に限って……‼」
さっきまでは感じさせなかった威圧感を再び発揮して、天神は慟哭を上げる。その様子は少しずつ不穏なものへと変わっていく、光を失った目からは涙が流れ落ち行き場を失った手は固く握られていた。
「まだサリさんやナルディがいた時は踏みとどまれたけど……もうそんな必要もない。ヴィリアンドが倒されて力が私に帰ってきた以上……」
その光を失った虚ろな目はゆらゆらと揺れながらも私たちを捉える。恐怖、畏怖、そんな生温いものじゃない、まるで金縛りにでもあったようなそんな感じだった。
「全部、壊すしかない……そうでしょ?」
「サタナ様……」
「安心して、影獣のあなたたちはリウクスが滅んだところで生きていけるから」
「そういうことじゃ……!」
「じゃあどういうこと?」
「……いえ……」
さっきまでほのぼのとした様子で仲睦まじい姿を見せていた2人は何処へやら、リコラは恐ろしい、というより壊れてしまった天神の姿をただ震える両の目でとらえていた。
「今度こそ助からないかもな……」
「ちょっと! ルディがそんなこと言ったらお終いでしょ!」
「ラッセムの言う通りだ、絶望するのは勝手だが諦めたらこの世界丸ごと滅ぶことになるんだぞ?」
「そうそう、ミィバの言う通りだよ! 少しでも抗わなきゃ!」
そんなことを元気良い口調で言って自分たちを鼓舞しようとするが、今にも膝から崩れ落ちそうなのは全員変わらなかった。
リィはとうに戦意喪失してその場にへたり込んでしまっているし、頼りにできると踏んでいたリコラも同様な状態に陥ってしまっていた。
「それで、どうするんだ?」
「そうだな……」
「これ以上無駄にあらがおうとするのは止めて!」
「誰がそんな言葉をみすみす受け入れるっていうんだ!」
「……そっか、じゃあこれで絶望してくれたらいいんだけど……」
天神はその場で腕を大きく広げて私たちに向き直った。その様子を全く理解できない私たちは困惑の表情を浮かべながらその様子をただ見ていた。
しかし、数秒もしないうちに私たちは異変を理解した。自分たちの後ろの方でへたり込んでいたはずのリィが天神と同じ姿を取っていることに。
「……来い、我が子よ」
次回は7月14日です。




