第2話:狼狽少女ととても優しい元魔王様
「よぉ金髪。話したんだな。さっきすごい顔した銀髪とすれ違ったぞ」
「隠しておいてもどうしようもないかなって。少なくとも私なら知らない方がよっぽどいやだなって」
「まぁ吾輩もそう思うが……とりあえず今はあいつには触れない方がいいか」
「うん……それはそうと、ルディはどうして私たちをこんなに良くしてくれるの?」
「ちょっと待った。まさか吾輩にあだ名をつけたのか?」
「いいじゃん。かわいいでしょ?」
「お前は本当に不敬な奴だな……まぁいい、あと今の質問の答えはまた今度教えてやる」
「本当に? 絶対教えてよ?」
「あぁ」
「分かった! じゃあ、話を変えるね。ルディはヴィリアンドに復讐する方法を思いついてるの?」
「明確な方法はまだだ。だが、なんにしたって吾輩の力を元の状態に戻す必要がある」
「つまり?」
「ヴィリアンドは吾輩と戦った後、吾輩の魔力を各旧国エリアに分割して保存しているはずだ。まずはそれらの回収にいくつもりだ」
「保管場所ってもしかして……5大神殿のこと? 何かを封印しているって話を聞いたことがある」
「よく知っているな。それなら詳細を話さなくてもよさそうだ」
「リィにいろいろ教わったから結構リウクス地方の知識はあるんだ!」
「そうなのか。それじゃあそろそろ銀髪の様子を見に行くとするか」
「どこに行ったか分かるの?」
「何を寝ぼけたことを言っているんだ。ここは吾輩の庭も同然なんだぞ?」
そう言ってルディはリィの向かった先へと跳ねていった。ルディを追いかけることも考えたが、今は待っていた方が良いと思った。
* * *
(お父様が……お父様が殺される……? 私のせいで……!)
今朝方、お姉さまの話が津波となって寝ぼけていた私を襲った。最初のうちはなんとか平静を保てていたが、いつしかダムは決壊してお姉さまを置いてあてもないまま走り出していた。
気づかぬうちに頬を涙が伝っている。それに気づいた時には涙は留まることを知らず、いつの間にか嗚咽が漏れていた。
「あ……あぁぁぁ……! お父……様が私を……私なんかを……!」
「『私なんかを拾ったから』だって? 吾輩はそんなことないと思うぞ」
「ぴゃ⁉」
かなりの距離を走り、立ち止まると私の真横にルディリアがいた。肩で息をしていた私とは対極的にすました顔でそこにいた。
「な……んで……」
「あまり魔王を舐めない方がいい」
「違う! なんであなたがそんなこと言えるの!」
自分でも自分の言葉に驚くくらいの怒りに任せてルディリアに言葉を投げつけた。ルディリアは一瞬驚いたような表情をしたかと思ったがほくそ笑みながら話を進めた。
「お前たちを吾輩の復讐に使わせてもらう」
「……? それは昨日も聞いたけど……」
「だから明確にヴィリアンドを恨んでもらいたい。だからお前に迷いがあっては困る」
「何が言いたいの?」
「昨晩、ヴィリアンドはお前の父親を殺した。吾輩がこの目で見てきた」
「……‼」
ルディリアの発した言葉は既にかなりのダメージを負っていた私の胸を抉った。そんな私の顔を見てルディリアは言葉を止めそうになったが話を続けた。
「そして、最後の最後にミレハイルが発した言葉はお前たちの心配だった」
「お父様……」
「だから、父親のためにも『私なんか』なんて言ってやるな。そして、父親の思いをしっかりと背負ってやれ」
「うん。ありがとう……ございます」
「それでいい。金髪と違ってお前は話の分かるやつだ」
「お姉さまはまっすぐな方ですから!」
いつもの調子とまでは言わなくとも、お父様の気持ちをしっかりと知ることが出来て少しだけ元気になれた。
ルディリアはよしと一言だけ言うとお姉さまの待つ場所まで走っていった。さっき昇ったばかりだと思っていた太陽はいつの間にか高くまで登っていた。
「リィ……大丈夫?」
「はい、お姉さま。私はもう大丈夫です」
「よし。早速こんな話をするのもなかなか気が引けるが……」
「大丈夫。もう決心がついた」
さっきまで泣いていた私が急に力強く返事したからかお姉さまは驚いた表情をしてルディリアに食って掛かった。
「ちょっとルディ、あなたリィに何を吹き込んだの?」
「吾輩の知ってることを教えただけだ」
「あとでちゃんと説明してよ?」
「分かった分かった。それはそうと、これからの話をさせてもらうぞ?」
「うん。お願い」
頷いたルディリアは近くに落ちていた枝を拾いあげて地面にリウクス地方を模した円形を描く。描かれた円を5等分し、中心にもう1つ円を描き、中心の円端を指す。
「吾輩たちがいるのがここだ」
「結構移動したと思ってたけど、まだまだラカルイアから離れてないんだね」
「ここからラカルイアの城壁が見えている以上、かなり近い位置なのは確かです」
「あぁ。それで、その5大神殿とやらはどこなんだ?」
「どうしてその話が……?」
「あぁ、銀髪には言ってなかったか。金髪曰く吾輩の能力が封印されてるならそこじゃないかってな」
「そうなんですか?」
「多分ね。あそこはほとんどの人が立ち入り禁止だったから怪しいし」
「なるほど……」
「というわけだ。5か国それぞれにある神殿を巡りながら吾輩の能力を取り戻す、そして、並行してお前らの魔法も強くしていく」
「私たちにも戦わせる気⁉」
「当り前だ。お前らのような高クラスの人間を使わない馬鹿がどこにいるというんだ」
「そ……そうかもしれないけどさ! 私はいいとしてもリィは戦闘訓練なんてほとんど受けてないんだよ⁉」
「そんなもん今から鍛えれば何とかなる」
「でも……」
「お姉さま……私は大丈夫です!」
「それでも……リィにまで何かあったら……!」
ルディリアは受け入れ難い現実を私たちに淡白に告げる。その言葉にお姉さまは首を縦に振ることが出来ない様子だった。
「まぁ、命の保証はできないな」
「……っ! だったら‼」
「だが、戦闘能力がなければ吾輩、金髪と分かれた時にグレイアルムにでも見つかれば、銀髪はおしまいだ」
「ルディリアの言う通りです。そして、既に私も覚悟を決めました」
「あと何度も言っているがお前たちに拒否権はない。大人しく従ってもらう」
「お姉さま、そんな顔をしないでください……お願いです、お姉さまの役に立たたせてください」
「リィ……分かった。だけど、なるべくリィを前線に出さないってことが条件!」
「まぁいい。まずは地の神殿に向かう」
「どこにあるのか知ってるの?」
「あ……えっと……神話によれば、この先のアヤク湖の付近にあるそうです」
「よし、そうと決まれば早速出発しよう」
私たちは南に地国の中心を目指して歩き始めた。ルッカの森を抜けた道中には私たちを追いかけてきたのか、ラカルイアの兵士やグレイアルムがうろついていたが、特に鉢会わせになることもなくアヤク湖に辿り着くことができた。
高く上った太陽の光を浴びて光る水面を持つアヤク湖に感動すると共に私たちは謎の違和感を覚える。
「なんだか随分と水深が浅くない?」
「ですね」
魔法局にあった文献によれば、地の神殿への道はアヤク湖の深い位置にあるとされていた。しかし、目の前の湖の深さは岸辺から湖の中央にかけて満遍なく浅く、底に洞窟があるようにも見えなかった。
「まぁ、私の読んだ神話は新暦500年くらいのものですから土地の状態が変わっていることなど当たり前と考えるべきですね」
「それじゃあどうするっていうの? 地の神殿はアヤク湖の地下なんでしょ?」
「ですね。しかし、こうなればいったいどうやって……」
「普通に考えてどこかから洞窟が通ってると考えるのが妥当だな」
「洞窟ですか……あまり思い当たるところがないですね」
「それなら近くのアルミドっていう町に行ってみる? 結構大きな町で『冒険者協会』っていう色んな情報が集まる場所があるんだって」
「よし、行ってみるか」
次回は3月30日(土)です。
* * *
前回書き損ねてしまったのでここに書くのですが
『地の文』についての話です。
プロローグの地の文は3人称視点、前回・今回の地の文は1人称視点で作ったのですが
どちらの方が読みやすいとかあったらどなたか教えてほしいです!