第25話:疲弊少女とすべての遺志を継ぐ者
次の日の早朝、私たちはルーレンスさんを先頭にリウクス地方最高峰ムクケア山を登っていた。
「ルーレンスさん……登るの速い……」
「少しだけ休憩させてください……」
「お前、まさか元軍人とか言わないだろうな?」
「その通りです。姉君の元でしばらくの間戦いに出向く日々を過ごしていました」
「やっぱりそうなんだ……」
「とはいえ、お前の武器を見ていない気がするが……魔物が出てこないとも限らないぞ?」
「そうですね。そろそろ準備しておきましょうか」
ルーレンスさんは腰元についていたナイフを両手に持つ。手慣れた様子でナイフの柄を握り、指にかけ、撫でる。
「そのナイフ、サバイバル用じゃなかったんだな」
「えぇ、姉君のご友人サリさんに作っていただいた代物です」
「やっぱりサリさんなんだ! ってことはルーレンスさんは魔法も使えるの?」
「もちろん魔法を生業としている人には遠く及びませんが、ある程度は。使えないと色々不便ですので」
「それじゃあグレイアルムに……?」
「目をつけられたこともありましたね。情けないことに姉君が解決してくれていましたが……」
「そっか、でもさ……薄々気づいてない?」
「あぁ、もうすぐそこに鉄の神殿が見えているのにグレイアルムどころか魔物一匹も襲ってこない。だろ?」
「確かに言われてみれば……やはりディジーと何か関係があるということなのでしょうか?」
「ディジー……大丈夫かな……」
「今はただ、信じます」
ルーレンスさんは小さくも力強くそう言うと、ムクケア山頂上に建てられた鉄の神殿へ進む速度を上げていく。
太陽が沈み始めるころ、私たちは鉄の神殿の扉の前に立つ。ルーレンスさんを先頭に神殿に乗り込むが結局敵影は無かった。
「本当に静かなんだけど……?」
「待ってください、確かに人の気配はありませんが……」
「吾輩の力を感じない。一体何が起こっている?」
「ディジーは嘘をついていたということでしょうか……?」
手掛かりを求めて私たちは神殿内を手分けして捜索する。外も徐々に暗くなり、ろうそく1つ灯っていない神殿内の探索が困難になりかけていたその時、ルディリアが声を上げた。
「おい、こっちに他の部屋があるぞ。だが、ディジーのかは分からんが……」
「流石ルディ! こういうのは得意だね」
ルディが見つけたそれは部屋というにはかなり小さく、牢獄と言った方が良いような広さと気味の悪さだった。
「随分汚いね」
「直球だな……まぁ事実に相違ないが」
「ルディリア、この日記のようなもの読めませんか? 私には少し暗くて……」
「見せてみろ。なになに……『〇月×日 そろそろ仕事をしていないの上にがばれそう。だけど、人の命を刈り取るなんてリフィルの名に泥を塗ることになる。』『〇月□日 完全に目を付けられたかも。ヴィリアンドとの取引になんて応じなきゃよかったかな。でも、』『△月◎日 あの力を鉄国で天から一番遠いところに隠した。きっと誰かが、』だそうだ」
「天から一番遠いところ……?」
「普通に考えたら地表でしょうか」
「いえ、私に心当たりがあります」
「というと?」
「鉄国の地下には東西に坑道が走っています。ものを隠すには打ってつけですので、おそらくそこかと……さらに言えば、心当たりもあります」
「カールロ坑道跡か……」
「じゃあ、ルディ! 任せたよ!」
「それはいいんだが、坑道は何処から入るんだ?」
「ここから北西にキサニ鉱山という鉱山があるのですが、そこから坑道が地下に地下に伸びていたはずです」
「分かった」
神殿を後にして、私たちはルディリアへ飛び乗るとルディリアは北西に見えているキサニ鉱山へと一直線に急降下していった。
ルディリアはキサニ鉱山の坑道を飛行しながら突っ切っていくと、気が付いた時には真っ暗な広い空間に辿り着いた。
「大きな部屋……声がすごい響いてる!」
「違うぞ金髪、これは部屋じゃない。これがリウクス最大の坑道。カールロ坑道だ」
「もしかして、暗くて先が見えないんじゃなくて……」
「えぇ、この先はずっと続いていますよ。ずっとは言いすぎですが」
「人力とは思えない広さ……‼」
「人力ではないですからね」
「リコラ? どういうこと?」
「お姉さま、忘れてしまったのですか? あの物語にもこの辺りに洞窟がありましたよね」
「あ、常闇の洞窟のこと⁉ そっか、影蛇が掘ったからこんな広さしてるんだ……」
「おい、ルーレンス。心当たりがあるとか言ってたよな?」
「はい。ここには傭兵団『リフィル』の拠点があるんです」
「えぇ⁉ こんなところに⁉」
「それがどこなのかは分かっているのか?」
「はい、だいたい地上で言うダーフィの町あたりです。ここがロミナ平野の真下あたりなので……こっちですね」
「キサニ鉱山って地上だとダーフィの近くなのに……いつのまにロミナ平野まで戻ってたんだ……」
真っ暗な坑道を闇夜でも目が効くルディリアを先頭にして進んでいく。どれくらい歩いたのかわからないまま歩き続けていると突き当りに小さな扉が現れた。
「随分不釣り合いだな……隠すなら金髪たちの父親みたいに上手くやれよな」
「まぁそもそもここが暗いから要らないんじゃない?」
「ともかく開けてみます……」
ルーレンスさんが手をかけて扉を開くと、少しずつ部屋の中の光が漏れ出しまぶしさに目を閉じてしまった。
「姉貴! おかえりな……さい……?」
「誰だお前ら! 出て行け!」
部屋の中にいた数人のおそらく「リフィル」のメンバーであろう人たちに囲まれる。しかし、その中でひと際目立つような眼帯とバンダナを付けた女性が彼らを割って出てきた。
「お前ら黙りな! この方は姉貴のお爺様だ。丁重に扱え!」
『は……はいっ‼』
「悪かったな、うちの連中が馬鹿こいて。ディジーの姉貴が顔を出さないから気が立ってたんだ、許してやってくれ」
「あなたは町の……」
「俺はミバイ、ミバイ・エイルだ。いつも冒険者協会で顔を合わせてたな」
「あなたも『リフィル』のメンバーだったのですね」
「あぁ、ディジーの姉貴にはいろいろ世話になったからな。戦闘は得意じゃあないが、手伝わせてもらってる」
「なるほど……」
「それで、あんさんならディジーの姉貴の行方……知ってるんじゃあないのか?」
「それが……」
ルーレンスさんはこれまでの出来事を自分たちの分かっていることも分かっていないことも包み隠さず話す。ミバイさんは話の内容に少し不信感を抱いたのか顔をしかめつつも何も言わずに聞いていた。
「つまりなんだ、ディジーの姉貴の行方は分からずじまいってこった」
「その通りです。情けない話ですが……」
「分からないなら、まぁいい。それより、その『力』とやらは覚えがある」
「本当か⁉」
「鳥が喋ったあ⁉」
「いきなり口を出して悪かった、それよりも……」
「落ち着け、俺の後をついてこい。と言ってもすぐそこだが……」
次回は6月16日です。
* * *
「少女と元魔王様」投稿最終予定日の目途がだいたい立ちました。
このままいけば7月末には最終話を迎える予定です。
それ以降の話はまたその時にさせていただくので
一先ず、それまでは「少女と元魔王様」をお楽しみください!




