看取少女と満足そうな軍人様
「これで……私の勝ちだ‼」
カルロッテさんが倒れたディジーの顔の真横に大剣を突き立てる。ディジーは満足そうな顔を少し見せた後、悔しそうな顔でその場で慟哭する。
「カルロッテ……お前、これで最後って本当なの……か?」
「あぁ、なんなら今にも……な」
「まさかあっしと戦ったせいで余計に⁉」
「責任を感じているならそれは違う……私がお前と戦いたかったんだ……それよりも私の願いを聞き届けてくれ」
「願いってなんだ……?」
「ディジー、お前にあの大剣を託す」
「は……?」
「最後まで聞け……その代わり、騎士団と彼女、リーライムたちを頼む……」
「な……何言ってんだ……お前にはまだ……」
「言っただろう、私はあの太陽が昇り切るころにはこの世を去るだろう。あの日からちょうど100年だから……な……」
「カルロッテ……カルロッテ‼」
「サリ、今そっちにいくぞ……」
満足そうな表情を残してカルロッテさんの体は光に包まれ消えた。カルロッテを強く抱きしめていたディジーの腕の間からは水晶玉が浮かび上がり、そのままディジーの体へと吸い込まれていった。
「カルロッテ……」
ディジーは天を仰ぎ、腕で目元を思い切りこすると拳を天に突きあげて大きく高笑いする。
「あっしの名前はディジー・ミットリア‼ 傭兵団『リフィル』の団長にして、鉄国最強の騎士カルロッテのライバル‼」
「ディジー……」
「見てろよカルロッテ‼ お前の遺言、しっかりかなえてやらぁ‼」
ルーレンスさんはさっきまで不安そうだった表情を一転させ笑顔でディジーに歩み寄っていった。
ディジーはルーレンスさんの胸元に飛び込むと溜めていたものを少しずつ吐き出すかのように小さく小さくむせび泣いた。
* * *
太陽が再び傾き始めるころ、ディジーの意向でカルロッテさんとサリさんの墓をここに建てるために私たちはロミナ平原を訪れていた。
「安らかに眠れ。友よ……」
「らしくない格好のいいこと言っちゃって!」
「お姉さま?」
「はい」
「結局その大剣は使わないのか?」
「あぁ、これはこいつのだ」
1本あたり2人がかりで運んできた鉄神の大剣をカルロッテさんの墓標の両脇に突き立てる。
「これで完成だ。付き合ってくれてありがとうな。そのちっこい猫?も運ぶの手伝ってくれて助かった」
「虎です‼」
「手伝うのは当り前です。少しの間ですが助けになっていただいたのは事実なんですから。それと……お姉さまはいったい何を?」
「サリさんのお墓の方が寂しいなって思ったから……これを」
お姉さまの手にはあの魔導書があった。金色に縁どられていたであろう魔導書は少しくすみがかかっていたが、いまだに強力な魔力を帯びていた。
「それは確か、天神の武器だったか?」
「うん。サリさんが作ったものらしいし、ちょうどいいかなって」
「そうですね。サリ様も喜ぶことだと思います」
「それで、ディジー。姉君に話していたことは本当なんですか?」
「神狼の居場所のことだよね? もちろん知ってる……」
「お爺ちゃんの前だと優しい口調なんだね?」
「はっ……‼ う……うるせぇ! うるせぇ‼ もうお前たちをこのままここに放っておくぞ!」
「お姉さま……」
「ごめんなさい」
「ふんっ……分かればいい。それで、ラカルイアの連中が隠してる場所だろ? あそこだ」
ディジーはかなり上の方を指さす。その先には雲を越えるほどの高さを誇るムクケアさんがそびえたっていた。
「まさか……」
「あぁ、あの山頂だ」
「でもどうしてそれを知ってるの?」
「それは……」
ディジーが何かを言いかけた瞬間、ディジーの体は真っ白な光に覆われてそのまま姿を眩ませてしまった。
「えっ……⁉」
「ディジー……? 何が起こって……」
突然のディジーの失踪に私たちは焦りを隠せなかった。特にルーレンスさんの動揺はすさまじく、息は細くなっていた。
「落ち着けルーレンス。あの消え方には見覚えがある気がする」
「確かに見たことがあるような……」
「見覚えって……あ!」
「お姉さま、何か心当たりが?」
「テクシエの消え方ってこんな感じじゃなかった?」
「言われてみれば……」
「ってことはディジーはラカルイアの刺客ってことか?」
「下手したら神狼……?」
「おいルーレンス。何か心当たりはないのか?」
「もしかして……ディジーが言っていた割のいい仕事が……⁉」
「神狼の仕事って割良いんだ……」
「お姉さま⁉」
「冗談だよ! というか、あの後テクシエって見かけてないけど……どうなったんだろ……」
「分からん。ただ、おそらくヴィリアンドに連れ去られたって解釈で間違ってないんじゃないか?」
「皆さんは最後にラカルイアを目指しているんですよね……?」
「あぁ、そうだが……まさかお前……」
「えぇ、私を連れて行ってください。この老いぼれ、子に続いて孫まで失ってしまえば姉君に示しがつきません!」
ルーレンスさんは不安そうな表情を押し殺し、鬼気迫る表情でルディリアに頼み込む。
「もしかしてディジーの両親は……」
「えぇ、グレイアルムに殺されました。あの時、姉君が助けてくれていなければディジーもそのまま殺されていたでしょう」
「ルディ! ルーレンスさんも連れて行こうよ、このまま見てるだけなんてかわいそうすぎる……」
「そうはいっても、お前の寿命を減らすことにつながるかもしれないんだぞ? それを分かって言っているんだろうな?」
「えぇ。そんなこと百も承知です」
「分かった。着いてこい。こっちとしても鉄国の案内人が欲しかったところだ」
「ありがとうございます。この老体、最後まで皆さんの力になると誓います!」
ルーレンスさんはその場で膝をつき、頭を下げる。その姿は最初にカルロッテさんに会った時のような気高さすら感じさせた。
次回は6月15日です。




