観戦少女となんだかんだ楽しそうな軍人様
「それで……その話は本当なんだな?」
「もちろんだ! ただ、お前が負けたら何も教えてやらん‼」
「よし、表に出ろ」
「のぞむところだ‼」
バーのマスターと話していると話の折り合いがついたのかカルロッテさんとディジー、リフィルのメンバーは冒険者協会を後にした。
「あ、待って‼」
「お話ありがとうございました。それでは失礼します」
「いってらっしゃいませ」
冒険者協会をカルロッテさんたちに遅れる形で後にする。カルロッテさんたちを探そうとするが道を行った先に不自然な人だかりができているのが目につく。
「あれだね」
「早いところ向かいましょう。ただ、人混みが多すぎますね」
「2人とも吾輩の背に乗れ。近くの屋根の上から見物といこう」
「助けないの⁉」
「あんなバケモンの何を手伝う気だ?」
「それはそうだけど……」
ルディリアの背に乗って人混みの近くの建物の屋根に降り立つ。下の方を覗き見ると数十人近くの見物人がカルロッテさんとディジー、リフィルのメンバーを取り囲んで簡易的な闘技場のようになっていた。
天を仰いだカルロッテさんと一瞬だけ目が合うと、カルロッテさんはニヤリと笑ってディジーに向き直った。
「カルロッテ、試合はいつも通りの勝ち抜き戦だ! あの味方を連れてなくてもいいのか⁉」
「当り前だ。お前たちにはちょうどいいハンデだろう」
「くっ……煽るね! ハルイ! やっちまいな!」
「任せてくだせぇ姉御ぉぉぉ……」
いわゆる筋肉だるまのような大男が一歩前に出た瞬間、カルロッテさんは何かを食らわせる。ハルイと呼ばれた大男は何かを言いながらその場に倒れこむ。
「ハルイ‼ カルロッテ、卑怯だぞ!」
「獅子は兎を狩るのにも本気なんだ。よそ見している方が悪い」
そんな調子で数人はいたはずのリフィルのメンバーは次々に積み上っていった。周りの観客はこれを見に来たと言わんばかりの表情を見せてカルロッテさんの戦いぶりを楽しんでいた。
「よし、あとはお前だけだ。ディジー。583回目の敗北を見せつけてやろう」
「はっ! 今日で582敗1勝にしてやるまでだ‼」
流石はリフィルのリーダーというべきなのか、他のメンバーとは違い左手の短剣と右手の鉄の爪で器用に攻撃を躱しながら戦っていた。
「そういえば、魔法以外の戦闘方法を始めて見ました」
「確かにそうかも! あ、でもフワヴリアの弓は……」
「それも魔法を元に使ってますよね」
「大昔はこれが普通だったんだぞ。魔法以外にもカルロッテのように剣、ディジーが使ってる爪、他にはブレスなんてものもあったな」
「へぇ……?」
「まぁ結局、それに魔法を纏わせて戦うやつの方が多かったがな」
「そうなんだ……ってかディジーも結構粘るね! ただカルロッテさんに噛みつく変な奴じゃなかったんだ!」
「おい! 聞こえてるぞ‼」
「ひやっ⁉ わぁ地獄耳……」
「無駄な争いを引き起こさないでください、お姉さま」
「はーい……」
それから2人は日が暮れるまで戦い続け、いつしかオーディエンスがいなくなってもまだ戦い続けていた。
「いつ終わるんだ……?」
「わかんない……」
「相も変わらずですね。流石は姉君といったところでしょうか」
「あなたは昼間の……」
「先ほどは自己紹介をし損ねました。ルーレンス・ミットリア、冒険者協会のバーのマスターをしております」
「よろしくルー爺‼」
「お姉さま‼ 初対面の人になんて口の利き方しているのですか⁉」
「はっ! ご、ごめんなさい。つい、お爺様と似ていたから……」
「はっはっは! 少し驚きましたが、お気になさらないでください。元より私の呼び方など人によってまちまちですから」
「ミットリア……あのディジーってやつの親戚か?」
「えぇ、彼女は私の孫です」
「それよりも姉君って?」
「もちろんカルロッテ姉君のことです。幼い時からずっとお世話になっておりまして」
「流石は長命種だな。まぁ吾輩も人のこと言えないが」
「それでルー爺? 2人っていつもこんな長いこと戦ってるの?」
「えぇ、それはもう。長い時だと三日三晩、食事をも摂らずに戦っているときもあります」
「そうなのか……そう考えると、あのディジーってやつは相当強いんだな」
「確かにそれもあるとは思います。ですが……」
そこまで言うとルーレンスさんは今もなお楽しそうに戦い続けている2人に視線を向けながら悲しそうに声を漏らす。
「姉君……あなたという人はどこまで……」
「やっぱり体が……?」
「えぇ、女性に言うことではないことかもしれませんがかなり体に負担が来る歳になってしまわれましたから」
「そういえばルディ」
「なんだ?」
「カルロッテさんの魔力量って結構少ない気がするんだけど……私だけ?」
「なんだ、気づいていたのか」
「うん。あのまま魔力量が尽きたらどうなるの……?」
「カルロッテは魔力を元に生きている魔族。尽きれば間違いなく死が待っているだろうな」
「死……」
「ルディリアはなんでカルロッテさんの魔力量が尽きそうになっているか分かるんですか?」
「おそらくカルロッテの魔力量の根源の問題だ」
「根源?」
「あぁ、カルロッテが生きていた頃は人々は魔法を使うために神々からミンラを与えられていたのは覚えているか?」
「うん、話してたやつだよね」
「そうだ。そのミンラは神に基づく力だといっただろ? つまり……」
「神がいなければ衰えていく……」
「正解だ銀髪。吾輩の見立てだがカルロッテの魔力量は持ってあと数日。本人もそれをわかっているから今を生きているんだろうな」
「やはり姉君の命は残り僅かなのですね……いやはや、この戦いを止めれば命は少しだけ長くなるのでしょうが、姉君は聞かないでしょうね」
私たちは去ろうとする足を止めて、カルロッテさんとディジーが楽しそうに戦っているのを再び太陽が現れるその時まで、ただ眺めていた。
次回は6月9日です。




