第22話:思案少女と面倒くさそうな軍人様
カルロッテさんは一瞬だけ苦い表情を見せながらも、お姉さまの手を強く握って笑顔を見せた。
「じゃああらためて自己紹介! 私の名前はラッセム・ヴァン・トゥーラ! そしてこっちが妹のリーライム・ドロウ・ラットルテでこの鳥さんがルディリア・ラム・ガムリオラ!」
「おい、鳥さんとは何事だ」
「そのまんまだよ?」
「私はカルロッテ・ホルンだ。前衛での戦いは任せてくれ」
「では挨拶も済んだところで……早いところ向かいましょうか」
「どこに? 特に鉄国で向かうところとか決めてないよね?」
「ある程度聞いたが、確かお前たちは神殿を巡っているんだろう?」
「うん! あれ……確か鉄の神殿って……」
「ラッセムが思っている通りだ。鉄国に神殿と呼ばれるものは存在しない」
「つまり手がかりなしで探さないといけないってことか。骨が折れそうだな……」
「今までと同じようにまずは冒険者協会を訪ねてみましょう。カルロッテさん案内のほどお願いしていただけますか?」
「あぁ、隣町のダンガルだ」
西に広がるロミナ平原とムクケア山を見ながら、カルロッテさんを先頭に北東のダンガルへと歩を進める。
道はある程度整備されており、魔物の数も地国や水国に比べればほとんど見受けられないほど平和だった。
「あまり魔物がいないですね」
「この辺は私が所属している鉄国騎士団のやつらが管理しているからな。あと、癪だがラカルイアの連中の監視が鉄国炎国には届いているからな」
「だから地国と比べても平和なんだね」
「そろそろ着くが……お前たち、何か羽織る者はないのか?」
「特には……」
「なんで?」
「気づいていないのか? お前たちは中身こそ違うが見た目はラカルイアの連中そのものだ。私が近くにいるとはいえ下手したら襲われるぞ」
「そうか、今鉄国とラカルイアは抗争中だったか」
「ちょっと待ってろ。適当なものを買って くる」
カルロッテさんは足早にダンガルの中に入っていく。しばらくして大きく、地味で目立ちにくい色の布を2枚抱えて戻ってくる。
「ありがとう……あれ? そういえば、どうしてカルロッテさんはソメカではこういう心配してなかったの?」
「あぁ、ソメカは鉄国騎士団以外の人間はあまり出入りしないからな。あの町で私に歯向かおうとするやつはいない」
「お前はその騎士団の団長ってわけか?」
「あぁ、そろそろ引退だがな。もしかしたら死ぬのが先かもしれないが」
「そんなこと言わないでください。まだまだお元気じゃないですか」
「皆、口をそろえてそういうがな……私自身がよくわかってるんだ。まぁ今こんな話は関係ない。さっさと行こう」
カルロッテさんは早足でダンガルの人込みを突っ切っていく。何人かカルロッテさんに向かって手を振ったり敬礼したりとカルロッテさんは人々にかなり親しまれているようだった。
「凄い人気ぶりですね」
「特に何かしてやれたことはないんだがな。現にラカルイアの連中のせいで亡くなった奴が鉄国では後を絶たない」
「本当にどこまでも胸糞の悪いやつだ……」
「着いたぞ。ここが鉄国の冒険者協会だ」
ダンガルの中央に聳え建つ塔の1階部分が冒険者協会となっていた。扉の上には冒険者協会との文字と共に大剣が二つクロスしたマークがあしらわれていた。
「あの2本の大剣って……」
「あぁ、かの鉄神キャル様……こほん、キャルカーヌーン・アーサルキ様の大剣だ」
「そんなものがどうしてここに?」
「キャル様がリウクスを去るときに私に預けてくれてな。ただ……」
「やはり貴重だから……?」
「いや、単純にあの大剣とてつもなく重くてな……」
「あぁそういう……」
「懐かしいな……できるならまた手合わせしたいものだ……」
「お前、あの戦闘狂と言われた鉄神と戦えたのか……⁉」
「まぁな。誰もが恐れるあまり戦う相手がいなくてよく私が登用されていた」
「カルロッテさん凄い……!」
冒険者協会の中は案外綺麗でほとんどの人がカルロッテさんと似たような鎧を装備していた。
「やはり騎士団の方が多いですね」
「鉄国で戦える連中は私たちと……」
「おい! 狂犬カルロッテがいやがるぞ‼」
「はぁ……またか」
「え? え⁉」
荒々しい言葉と共に荒々しい見た目の女性が率いる数名が嵐のように冒険者協会に入ってきた。周りの人間はほとんどカルロッテさんと同じように呆れたような表情を見せていた。
「さてさて、いいかげんあっしにあの大剣を譲ってもらおうか? えぇ?」
「ディジー……何度諦めろと言ったら気が済むんだ。あれは絶対にやらんと何度も言っているだろう?」
「この方たちは……?」
「あっしの名前を聞いたな⁉ 聞いて驚け! あっしたちは泣く子も黙る傭兵団『リフィル』だ‼」
「って言っているだけの慈善活動者だ」
「おい! 風評被害を流すな‼」
「はぁ……また瀕死状態にしてやらないと気が済まないみたいだな?」
「そうだ! じゃない! 次こそコテンパンにされるのはお前の番だ‼」
「そうか……」
「それに!」
カルロッテさんが何か言いだそうとするのを無理やり止めて、目の前の女性ディジーはとんでもないことを大声で言った。
「あっしに勝ったらお前たちが探している情報を教えてやらんこともない‼」
「それはどういう意味だ……?」
「お前たちが『鉄の神殿』を探しているのは知っている‼ あっしたちの情報網を舐めんな‼」
「その話は本当なんだな?」
「もちろんだ。あっしたちが嘘ついたことないだろ⁉」
「嬢さんたち、あまり巻き込まれないようにこっちに来なさいな」
ディジーがカルロッテさんに噛みついている光景をただ見ていることしかできずにいるとバーのマスターがそう声をかけてきた。
「その……彼女らって……?」
「あぁ、彼女らは言っていた通り『リフィル』という名で活動している傭兵団です。とはいえ、そのような仕事はほとんど鉄国騎士団に回されてしまうためにああして目の敵にしているのですよ」
「でもなんだか話を聞いている限りだといい人たちみたいだけど」
「えぇ、彼女たちはそのような仕事が受けられない分ダンガルや他の町内での問題ごとの解決にいそしんでいるのですよ。なのでカルロッテさんも慈善活動者なんて表現をしたのです」
「そうなのか……まぁ、ああやって真正面に全員で挑んでくるあたり卑怯な奴らではないんだろうな」
「どういうこと?」
「吾輩なら1人だけ外に残してカルロッテを引き留めている間に盗ませるからな」
「わぁ悪い人」
「魔王だからな」
「忘れてた……」
「何を呑気にそんな話をしているのですか……」
次回は6月8日です。




