第13話:特訓少女と手厳しい指導者の大魔導士様
サリさんの回答に私たちはそろって間の抜けた声を漏らす。そんな私たちの様子を見てサリさんは紙に何かを書いて私たちに見せてきた。
「これを見るのじゃ。人と杖じゃろ?」
「あぁ」
「人の魔力量がこれくらいだとするじゃろ」
紙に書かれた人の絵の隣に上向きの矢印を伸ばす。そして、それよりも小さな矢印を杖の絵のにも描く。
「そんでもってこの矢印が杖の魔力量じゃ。どっちの矢印の方が大きいのじゃ?」
「それは……人の方ですよね?」
「正解じゃ。つまり何が言いたいのかというとじゃな、人の魔力量が杖の魔力量よりも多い場合は杖を使うと魔法が弱体化されるんじゃよ」
「えぇぇええ⁉ そうなの⁉」
「もちろん良い素材、良い環境、良い技師によって作られれば杖自体の魔力量は伸びる。このクローデアのようにの。こやつの魔力量はざっと儂の数倍はあるのじゃ」
「数倍……⁉」
「じゃが、今は良い素材はラカルイアが根こそぎ回収し、良い環境はとてもじゃないが環境の破壊された旧国エリアでは厳しく、良い技師なんぞ今の時代はとうにいない」
「だから杖を使ったところで下級国民に魔法は使えないのか……」
「考えても見るんじゃ。杖1本でどうにかなったら今頃こんな惨状は生まれていないじゃろ」
「それはそう……じゃあこの杖は……」
そう言ってお姉さまは自分の杖を机の上に出した。その杖を見てサリさんは納得したような表情をして話し始めた。
「なるほどの、お主まだまだ強くなるのじゃ」
「え⁉ どういうこと?」
「言いたかないのじゃが、この杖は環境と技師こそ最高じゃが素材が良くないのじゃ」
「そうなんだ?」
「そうじゃ。じゃから……ちょっと待つのじゃ」
そういうとサリさんは自分の帽子から炎の魔石を取り外すとお姉さまに手渡した。お姉さまは慎重に受け取って天井の光に透かして見る。
「これ使っていいの?」
「うむ、名づけの時に一緒に使うとよいのじゃ」
「名づけ? 杖に名前を付けるの?」
「まぁつけておらんよな」
「サリ様、おそらく時代の流れで知らない者の方が多くなってしまったのでは? 実際、昔も武器に名前を付けていたのはサリ様の周りのごく少数でしたよ」
「なるほどの。大昔、儂らは武器に名前を付けておったんじゃよ。そうすることで主人と武器のつながりを強くして武器が主人に沿った形で進化を遂げるんじゃ」
「そんなことができるの⁉」
「そうじゃ。今すぐにとは言わぬからしばらく考えてみるんじゃな」
「分かった! どうしようかな……」
サリさんはお姉さまに一通りの話を済ませると、悩みに悩んでいるお姉さまを後目に私の方へと向き直って話の続きを始めた。
「それで、リーライム。まず第一にお主の魔力量はすさまじいのじゃ。儂よりも、クローデアよりもじゃ」
「なっ……そんなにですか⁉」
「うむ。なんだかサタナを見ている気分になる程じゃ」
「サタナって……あの天神ほどですか⁉」
「そうじゃ。確定したことは言えぬがお主はどこかの降臨者の子孫か何かなんじゃろう」
「なるほどな。それならこの魔力量も金髪が言ってた神級魔法を放てたことも説明がつく」
「というわけじゃ。お主には魔法を教えるところから始めるかの。まずは軽く全属性の上級魔法を使えるようになるかの」
「正気ですか⁉ ……待ってください。私知ってます、私たちには『ミンラ』と呼ばれる運命みたいなものによって私たちの道筋、使える属性が決められていることを」
「『ミンラ』……また懐かしいものを。そんなものとっくに消えておる。なんせ、それは神が儂らに与えていたものじゃからな。今は努力すれば属性なんて関係なく使えるのじゃよ。まぁ人によって得意不得意はあるがの」
「し……知らなかった……お父様ですらそのようにおっしゃっていたのに……」
「ラカルイアでどんな教えられ方をされたか知らないが儂の言ってることに誤りはないのじゃ。おそらく強い力を持たれると管理が面倒じゃからそんな歪曲した情報を教えているんじゃろうな……」
「なるほど……」
「まぁ、それはそれとしてじゃ。お主に魔法を教えるとするかの」
「お願いします!」
サリさんに腕を引っ張られて図書館の奥の方まで連れてこられた。目の前にはとても建物の中とは思えない広さの中庭が広がっていた。
「流石に図書館の中で使われると困るからの、ここで練習とするかの」
「でも練習ってどんなことを……」
「魔法は慣れじゃ! とりあえずお主が使える魔法を放ってみるといいのじゃ」
「わ……分かりました! 初級地魔法!」
私の放った初級地魔法は近くの岩に衝突したかと思えばそのまま消えてしまった。
「ふむぅ……魔力量がそれだけありながらどうして……」
「サリ様、おそらく魔力の出し方を知らないのではないのでしょうか?」
「なるほどの。よし、リーライム。儂が今からお主の魔力を強制的に引っ張り出して儂が魔法を放つのじゃ。とりあえず、その感覚を掴んでみるのじゃ」
「わ、わかりました!」
「うむ良い返事じゃ」
サリは私の胸元に左手を添えたかと思うともう片方の手を中庭の中心の大岩に向ける。その時だった、サリが触れている部分から何かが体から吸い出されていくのを感じた。
「うっ……何かが……」
「おぉ……凄い魔力量じゃな……‼ 行くぞ! 上級水魔法!」
自分の体の中から何かが引っ張り出される感覚が消えた瞬間、サリの右手からはさっきのサリの火球とは比べ物にならないような水球が水流となって放たれていた。
放たれた水流は岩を破壊するだけは飽き足らず直線状のすべてを破壊し、図書館の壁にぶつかる一歩手前で消えた。
「な……なんですかこれ⁉」
「まーた随分派手にやりましたね……」
「これが降臨者の魔力……本当にことあるごとにサタナを思い出すの。まぁなんにしたって、魔力を体外に出す感覚は掴めたかの?」
「まぁなんとなく……」
「あとは魔力の組み方を勉強すればもう完成じゃ」
「組み方……?」
「初級魔法を撃つときは使う属性のみを気にすればいいんじゃが、中級以上は魔力のカタチを考えなくてはならぬ」
「中級は丸、上級は星、神級は魔法陣です」
「なるほど……ですが、そのカタチを考えるというのは……?」
「そのまんまの意味じゃよ。魔力を取り出すときに形を整えながら取り出すんじゃ。ただ取り出せば初級魔法になっちまうからの」
「これこそ感覚です!」
「感覚……」
「まぁそんなに気を負う必要はないのじゃ。とりあえず簡単な中級魔法から使ってみるとするかの」
「はい!」
次回は5月5日です。