第11話:驚愕少女と大目玉を食わせる大魔導士様
サリさんはコワグさんの方を向いてそう言った。私たちはそんな突然の意味不明な会話に呆気にとられ開いた口がふさがらなかった。
「今なんて……?」
「じゃから、グレイアルムたちがここを何度も襲撃しに来ているって話じゃよ」
「彼らはどうにかしてサリ様がラカルイア側に付くように奮闘しているのです」
「まぁ、儂がラカルイアの肩を持つわけないんじゃがな」
「それを早く教えてほしかったな……それならそいつらの中の誰かをとっ捕まえれば解決だね!」
「……ラッセムはお嬢様なんじゃなかったのかの? 随分物騒なんじゃが……」
「だよな。吾輩もそう思う」
「ちょっと! まぁいいや……それで、いつ頃来るの?」
「決まった時間に来る馬鹿がどこにいるんじゃよ。そんな阿保たれじゃったら今頃クビになってるじゃろ」
「そりゃそうだよね……」
「いつとは明言できませんが、ここしばらく来ていなかったので……」
コワグさんが言い切らないうちに何かの衝撃音と共に建物が大きく揺れる。サリさんは大きくため息をつきながら箒に乗って天窓から外に出ていった。
私たちも1階から外に出ていくと、図書館前の大通りに黒い鎧を身に纏ったグレイアルムが10数人程が剣を構えていた。
「あれって……」
「あの鎧のマーク、間違いありません。神狼の第4位。通称水狼、テクシエ・ケミポンゼです……」
「あいつを倒せば話は進みそうだな……」
「そう簡単ならいいですけど……」
私たちとコワグさんが草むらに隠れながら会話している中、テクシエはグレイアルムに剣を下ろさせてサリさんに近づいていった。
「危ない……!」
「待ってください。サリ様は危なっかしい方ですが本当に危険なことはしないお方ですので心配しないでください」
「むしろここでお前が出ればもっと危険な事態に陥る可能性もある」
「分かったよ……」
少しずつ近づいていくテクシエはサリさんの目の前まで来ると小さく息をついて話し始めた。
「どうして、それほどの力を持っておきながら我が王に付かない?」
「どうして……お主たちのやり方が嫌い、以外に何があるというんじゃ?」
「やり方?」
「そうじゃよ、お主たちの弱肉強食な考え方が儂は嫌いなんじゃ。どうして魔力量だけで人を見る」
「この世は力こそ全て。貴様も見てきただろう。力のない者は失うことしかできない」
「それじゃあどうして力のない者を守ろうとしないのじゃ。失わせてるのはお主らじゃろう……」
「我らは自分たちの大切なものを守るために力を得ているだけだ」
「だからって他の奴から奪っていい理由には……!」
「カルロッテ・ホルン、メギル・カニス」
「……っ!」
「お前が弱かったせいで命を失った者たちだ。あの時、大人しく我が王に従っていれば助けられたかもしれない……」
「儂の……」
「なに?」
「儂の友を語るな‼」
サリさんは怒号をテクシエに浴びせると、深く被っていたとんがり帽子を投げ捨て背中に背負った大きな杖を両手でしっかりと握りしめて天にかかげる。
「後悔しろ……」
「やはり分かり合えないようだな。お前ら、来るぞ!」
『はっ‼』
テクシエの号令を受けたグレイアルムは各々の杖を取り出し臨戦態勢をとる。テクシエも龍の頭を象ったような杖を取り出してサリさんに向ける。
「上級水魔法‼」
テクシエは現れた水流を身に纏ってサリさんに猛スピードで接近する。それに合わせてグレイアルムも一斉にサリさんへと攻撃を仕掛け始める。
「これって本当にまずいんじゃ……!」
「本当にそう思うか……⁉ お前はあの魔力量を感じないのか……」
「魔力量の圧に殺されそうです……!」
グレイアルムの中には魔力量の圧に怯み腰を抜かす者もいたが、テクシエはそんなのお構いなしにサリさんへと突っ込んでいった。
しかし、そんなことすら視界に入って無さそうな虚ろな目をしたサリさんはただ一言言い放つ。
「神級炎魔法」
「なっ……⁉」
「神級魔法だと⁉」
怨嗟を巻き込んだような漆黒の火球はテクシエ自身もテクシエの魔法も周りのグレイアルムをもまとめて飲み込んだ。
しばらくしないうちに、耳をつんざくような爆発音がケミシラ中に轟いた。ケミシラ中央街道の石畳は粉々になり、近くの建物の中には半分近く消し飛んでしまったものもあった。
「随分と派手にやりましたねサリ様……」
「これが……大魔導士……」
「なんじゃ、リーライムたちも見ておったんじゃな」
「さっきのは神級魔法……だよな?」
「まぁの。じゃが、儂が若い頃神級炎魔法は上級魔法じゃったんよ?」
「昔の人強すぎです……」
「それはそうと……情報収集といくかの」
サリさんは近くで丸焦げになって転がっているテクシエに近づいていく。ギリギリ息をしているのを見るにあれでも加減はしたようだった。
「何か知っておることを話すんじゃな」
「魔女の……怒りに……」
テクシエが掠れた声でそれだけ言うと、テクシエの体は真っ白な明るい光に包まれて消えてしまった。
* * *
「どうしてラカルイア城に……さっきまで……」
「随分と無様な姿だな。テクシエ」
「ヴィ……ヴィリアンド様⁉」
「お前は神狼に相応しくない、そう判断した」
「ま……待ってください! どうか考え……」
「死ね」
テクシエは懇願してヴィリアンドに擦り寄る、しかしそんな努力も虚しくヴィリアンドは剣を容赦なく突き立てる。
ぐったりしたテクシエの体からは水色の水晶玉が姿を現した。ヴィリアンドは手元に飛んできたそれを粉々にしてしまった。
「待っていろリーライム、必ずこの俺が……‼」
* * *
「さっきのテクシエの言葉って……」
「魔女の怒り……大昔にケミラル河の河口にサリ・ドランが魔法を放った痕のことだな……」
「いつの間にそんな名前がついているんじゃな。ちと恥ずかしいの」
「サリさんの怒りから生まれたなんて話が有名ですが、本当なんですか?」
「え? そんなことないんじゃが?」
『え?』
「それは儂らが確か……旅の途中に魚取りをする時に作った痕じゃ」
「さか……な?」
「そうじゃ。結構楽じゃよ?」
「なんだか……拍子抜けだな……」
そろそろ太陽が傾き始めるころ、サリさんたちと別れ、水国南西にある魔女の怒りに向けて歩を進める。
しばらく歩き続けると、巨大な盆地の縁に出る。町一つ分はありそうな広さの土地がクレーターのように凹んでおり、真ん中の方はかなり暗くなっていた。
「これが人工だなんて信じられないです……」
「だな。それはそうとこの広さを見て回るのはかなり時間がかかるぞ……」
「だけど見て回るしかなくない?」
「まぁそうなんだが。しかたない、しらみつぶしに探すしかなさそうだな。端の方は崖になっているから気をつけろよ」
「分かった!」
「はい」
しばらく巨大な盆地の周りを手分けして回り始める。しかし、いくら探しても何も見つからずにいた。
「だめだー!」
「言いたくなる気持ちも分かります……」
「だな……」
結局、盆地の中に降りてまでいろいろ探し回っていたが特に何の手掛かりが得られることもなく日はすっかり傾いてしまっていた。
西日が盆地に差し込んでいる様子を焦燥感に駆られながら眺めていると寝ころんでいたお姉さまが突然起き上がって遠くの方を指さした。
「ねぇねぇ、あそこでなんか光ってない?」
「橋の下で何かが太陽の光を反射している……?」
「洞窟が……なるほど、あれはここからじゃないと見えないのか! 行くぞ!」
「はい!」
次回は4月28日です。
本日からゴールデンウィークですね。
とはいっても私は3日からなのでまだなのですが……!
それでは皆さん、良いゴールデンウィークをお過ごしください。